『思想運動』一〇〇〇号の婦人問題の主張に学ぶ
男女差別の根源は資本主義体制そのもの


 〈活動家集団 思想運動〉婦人運動部会は、拠点を本郷に移転したことを契機に本郷文化フォーラム女性労働研究会として活動を進めてきた。
 結集したメンバーはそれぞれの職場や地域から持ち寄った経験や活動を生かし、マルクス主義の立場に立った女性解放の理論を学び、討論・研究してきた。そして、これらの成果を機関紙・誌に掲載して、パンフ、単行本にまとめ出版してきた。また、一九七九年の第一回から毎年三月、一度も途切れることなく国際婦人デーの伝統と精神を受け継ぎ国際婦人デー集会を開催し、HOWSが開校してからは、群読の上演もあわせて継続して行なった。

政府・資本を助けたリブの思想

 わたしたちは、男女差別を生みだす根源は、資本主義体制そのものにあるという立場から、社会体制の変革―労働者階級の解放の一環として女性解放を考えている。
 しかしながら、差別の原因は、「性別役割分業」によるもので、これさえ克服されれば、問題は解決するという考えは現在も根強くある。たとえば、「中国電力の昇進差別事件」を敗訴させた裁判官を「男女役割分担意識が強いから」と、ある女性団体の機関紙では表現していた。
 現在の軍事大国化路線まっしぐらのもとでの司法制度=裁判官は、当然労働者の権利を根こそぎ奪うことしか考えていない。差別は、資本の要請による。けっして役割分担意識という「世論」ではない。
 非正規労働者の激増、深刻な貧困化による家族の解体・崩壊、一人暮らし世帯の急増、とどまることをしらない資本主義の危機の深化によって「性別役割分業」意識は非現実的になってきている。
 一九八〇年代、当時、政府・資本は、労働法制全般の改悪を策動しており、そのための突破口が女子保護規定の剥奪だった。日本においてウーマン・リブ主導の運動は政党や労働組合の運動に大きな影響を与えた。労基法改悪阻止、女子保護規定の剥奪阻止こそ運動の中心課題とすべきときに、男女雇用機会均等法制定要求を優先させることで運動を分断した。そして、階級的視点を曖昧にすることで敵の攻撃に道を開いてしまったリブの思想は、政府・資本をおおいに助けた。
 労働運動は、右翼的再編成にともなって階級的弱体化が進行していた。本来は、職場生産点で権利を行使して運動をとらえる階級的な視点を政党も労働組合も見失わされていることにあった。支配階級によるマスコミ挙げてのイデオロギー攻撃が功を奏していたわけだが、これに目を曇らされることなく労働者階級の立場に立った大衆闘争を組織することができず、議会主義の枠のなかに運動を狭めてしまう政党とこれに依拠して進められている労働運動の弱さがリブ理論の浸食を許してしまった。議会主義は小市民意識への追随を生み、マスコミに誘導された「世論」に弱い体質が、リブの影響に対しても無防備だったといえる。本来は、労働者階級の立場に立ち、反資本主義の思想に基づいて資本主義が利用するウーマン・リブの思想を根本的に批判していくことが必要だったのに、そういう思想と対決する思想が弱かったことが一番の問題だった。

労働法制改悪の狙いはどこに

 ふりかえれば、一九七四年~七五年恐慌以後、政府独占の労働分野の規制緩和政策は、資本家階級による「安くていつでも首の切れる便利な」労働力の量産計画であった。とりわけ一九八〇年代末から一九九〇年代初頭に生じた社会主義体制の崩壊を契機に出現した帝国主義の一元支配のもとで、資本のグローバルな競争を妨げる労働者保護的な法制度は緩和(撤廃)の攻撃にさらされた。
 女性保護規定の撤廃攻撃はつねにそれだけにとどまらず、他の労働法制改悪と抱き合わせであった。均等法制定時には、同時に労働者派遣法が制定され、労働組合以外には禁止されていた人材派遣業が合法化された。
 一九九七年の女性保護撤廃に続く労働法制改悪は、裁量労働制の拡大、有期雇用契約の上限延長、さらに派遣法の全職種拡大と続く突破口だった。
 労働法制改悪の究極の狙いは、労働組合の機能を低下させ、存立基盤そのもの、運動の根拠そのものを否定し破壊することだ。そのことを通して労働者を無権利状態に陥れ、資本への隷属を強いる。
 実際、労働組合自身が個々の労働者の在り方を規制する力を失っている、あるいは、放棄しているという状況が蔓延している。
 個々の労働者は、労働組合に組織されていても無防備な状態に置かれている。自分たちの日常に直結する問題があっても職場ではまったく手を下せない状態にある。
 そのような状態を変える闘いを作りださなければならない。かけられている攻撃の質、その階級的性格を歴史的な経過を踏まえ、国際的な動向とも照らし合わせて本質をとらえることが重要だ。
 小さくても、職場生産点で個別具体の働く権利を集団的に保証していくような、まさに現場の労働運動をいかに再生するか。女性労働者の権利回復と職場の平等実現という抜き差しならない問題も現場の闘う力をいかに回復するかという課題と無関係ではない。【本郷文化フォーラム女性労働研究会】

(『思想運動』1000号 2017年4月15日-5月1日号)