クーデター策動と闘うベネズエラ人民
虚偽報道を暴き国際的支援と連帯を!


 ベネズエラにおける革命と反革命の対決が激しさを増している。
 ベネズエラ国内では、ボリバル革命の成果を守り発展させようとするマドゥーロ大統領を支持する勢力と、これに反対し従来の富と権力を維持しようとする米国などの帝国主義諸国に支援された勢力、具体的には民主連合会議(MUD)に結集する勢力と企業家団体そしてカトリック司教会が対峙している。
 日本の商業紙のベネズエラ報道の一例を示そう。「物不足で商店前には日常的に行列ができ、治安悪化も深刻化している。民主的なプロセスは機能しない状況が続いており、国際社会からも『人権が無視され、独裁化の懸念がある』と非難の声が上がっている」(『朝日』四月二十六日)。
 国際的マスメディアはベネズエラで起きている事熊を覆い隠している。物不足が資本家たちの経済サボタージュに起因していること、資本家たちが物不足を煽り投機により莫大な利益を得ていること、治安悪化はMUD内の極右派による街頭破壊活動によるものであること、米国を筆頭とする帝国主義諸国がベネズエラに対し内政干渉を行ない、一貫してMUD内の極右派を資金面だけでなく政治的にも支援を行なっていることなど、人びとの生活の具体的な事象の背景については、ほとんど報道されない。
 五月九日、日本共産党の緒方副委員長はベネズエラ大使館を訪れ「ベネズエラ政府と与党・統一社会主義党への申し入れ」書を手渡し「政治、経済、社会的危機が深まっているベネズエラの現状に対する懸念」を伝え、「抗議行動への政府の抑圧的措置の停止」を申し入れた(『赤旗』五月十日)。
 この申し入れは、国際的マスメディアの虚偽報道にそのまま依拠した内容であり、米国を筆頭とする帝国主義諸国によるベネズエラへの干渉政策が従来以上に強化されるなかボリバル革命の成果を守り抜こうと闘っているベネズエラの政府と党、人民を足蹴にするものと言わざるを得ない。

米国の先兵として動くOAS事務局長

 二〇一五年十二月、国会議員選挙で野党が全議席の過半数を超す議席を獲得し与党が敗北した。この後の動きを簡単に振り返る。
 ベネズエラの現憲法は、立法権(国会)、行政権(大統領、政府、国軍)、司法権(最高裁判所)、市民擁護権(市民擁護庁、検察庁)、選挙管理権(全国選挙評議会)の五権分立を厳格に規定し、いずれの権力も固有の権限を持ち、他の権力に優越して権利は行使できない(キューバ研究室『ベネズエラにおけるポスト真実』新藤通弘、五月七日)。
 二〇一六年一月新国会で、野党は憲法を無視し、最高裁選挙法廷が当選を保留していた議員四名のうちMUD議員三名を国会議員と一方的に決議した。その後の最高裁の指示で国会はこの決議を取り消した。
 ところがルイス-アルマグロ米州機構(OAS)事務局長は、三名の議員の当選を有効とするようマドゥーロ大統領に要求し乱暴に内政干渉を実施してきた。
 アルマグロOAS事務局長の内政干渉はこの後も執拗に行なわれた。三月にオバマ大統領が「ベネズエラが米国の安全保障上の脅威である」との大統領令の一年延長を決定したが、その先兵となるものである。
 四月、資本家たちの経済サボタージュに抗し、政府は地域生産・供給委員会(CLAP)を設立し、食料品を家庭に直接届け、地域の生産促進を開始した。CLAPは五月には全国で一万以上を数えた(『思想運動』二〇一六年六月十五日)。
 十二月に南米南部共同市場(メルコスール)でブラジルのルセフ大統領弾劾失職(八月)の結果、親米国が多数(ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ)となり、ベネズエラに対して権利停止が通告された。
 昨年秋にローマ法王庁の仲介で一度は合意に達した与野党対話は、外国からの執拗な干渉に後押しされたMUD内の極右派の主導により一方的に打ち切られた。
 今年一月国会議長にフリヘ‐ボルヘス(正義第一党)が就任し、国会は「マドゥーロ大統領が職責を果たしておらず、職場放棄にあたる」との決議を行なった。最高裁は、国会にはそのような権限はないとして決議を無効とした。
 国会が最高裁の決定に従わないことを繰り返し批判してきた最高裁は、三月二十七日「国会議員が憲法および刑法を無視する状況下では国会議員の不逮捕特権はない」との判決、二十九日には国会は最高裁判決(アマゾン県議員資格停止)を無視しているとして「一時国会機能の停止」の判決を出した。
 これらの判決については、ルイサ‐オルテガ検事総長が反対するなど政権内部でも評価は不統一で、内外からの批判を受け、マドゥーロ大統領は五権の長を招集し国家安全保障評議会を開催した。ただし、ボルヘス国会議長は出席しなかった。評議会は、これらの判決は法の安定性を欠くもので誤りとして最高裁に撤回を勧告、最高裁は判決を撤回した。

死者は抗議行動の参加者ではない

 この最高裁の誤りは、国内外の反動勢力にマドゥーロ政権攻撃の絶好の機会を与えるものとなった。
 MUD内の極右派は四月以降、街頭暴動(グアリンバ)と称される街頭破壊活動を展開し始めた。警察当局の発表によれば五月十九日現在、四月一日からの死者は四二名、負傷者九〇〇名以上に上っている。
 二〇一四年二月から五月にかけMUD内極右派は、大学生組織、米政府援助機関、コロンビア極右や内外のマスメディアと連携し、二万件におよぶ街頭破壊活動を展開し、死者四三名、負傷者八〇〇名、被害総額一五〇億ドルの惨禍をもたらした。いま、この惨禍を上まわるような事態が進行している。
 エルネスト‐ビジュガス通信情報相は会見で次のように述べている。「四月以降の死亡者について現在精密な調査が進行中である/死亡したほとんどが抗議行動参加者ではなかった。平和的なデモにも暴力的なデモにもそのどちらにも不参加の人びとであった/犠牲者の数をはるかに上まわる国家警備隊(GNB)兵士が発砲により負傷している/警官の発砲で抗議行動参加者が死亡したオルティス事件では、その警官は現在拘留中で憲法を侵害し法を犯しマドゥーロ大統領が指示した人権尊重を怠ったことにたいし責任をとっている」(『テレスール』五月十六日)。
 四月以降の街頭破壊活動は、選挙管理委員会や最高裁判所などの公共建造物、警察署や国営商店などを襲撃し放火するだけではなく、政府配給機関の食料トラックを襲撃・略奪し、医薬品倉庫の襲撃と放火、送電塔の破壊なども行なっている。一人は送電塔破壊活動中に感電死している。また、政権支持集会に参加したチリ人活動家が二人組の殺し屋に機銃掃射で惨殺され、政権党国会議員の護衛二名が拉致され、うち一名が射殺されている。
 MUD内の路線対立も激化している。「MUD幹部ヘンリー‐ラモス前国会議長の妻ディアナ‐ダゴスティーノと父親フランコ‐ダゴスティーノとの電話通話が二十九日暴露された。ディアナは『反政府抗議行動は無政府主義、蛮行に堕落した。大衆意志党員が特にひどい。ベネスエラを炎上させたいかのようだ。正義第一党も同じだ。カプリーレス(正義第一党首)は二度大統領選挙に敗れ失うものが何もない。彼も街を燃やそうとしている』と嘆いている」(『現代ラテンアメリカ情勢』伊高浩昭、五月二日)。

政府打倒をめざし策動を強める米国

 三月末の最高裁の誤りに米国など帝国主義諸国は飛びつき攻撃を一段と強めた。その先兵となったのがやはりアルマグロOAS事務局長であった。五月十一日ベネズエラ外務省は声明を発表し「四月以降の暴力状況はOAS会議の四月三日のベネズエラへの敵対的内政干渉決議に起因する/米国は今年に入りベネズエラの実情をねじ曲げた敵対的声明を一〇五回発した」と指摘している(『グランマ』五月十二日)。
 米国は二〇〇九年以降、「ベネズエラの民主主義政党を強化する」国務省予算として総計四九〇〇万ドル(約五四億円)以上を投じた。この五月米国上院は一〇〇〇万ドルを追加し今年二〇〇〇万ドル(約二二億円)の「ベネズエラ民主化予算」を承認しようとしている。五月五日、ボルヘス国会議長はホワイトハウスで米国陸軍士官のハーバート‐マクスター安全保障担当大統領補佐官と会談した(『テレスール』五月十七日他)。
 「ハバナ放送は五月十三日、ベネスエラ西部国境沿いのコロンビア・ノルテデサンタンデル州に米国機関が提供した武器・兵站物資が集積され、国境線沿いの他の複数の地点に軍事侵攻に備えて傭兵部隊が待機し、ベネズエラで逮捕されたテロや破壊活動の実行犯にはコロンビア人の極右準軍部隊要員が多く含まれていると伝えた」(伊高浩昭、同前五月十二日)。
 ベネズエラの原油埋蔵量は世界一である。米国はこの石油資源略奪を一貫して狙っている。二〇一三年にスノーデンにより暴露された二〇〇七年米国機密文書によるとベネズエラは中国、朝鮮、イラク、イラン、ロシアとともに「米国家安全保障局(NSA)の永続的対象」トップ六のひとつとなっている。

七二%の人びとが対話を要求している

 マドゥーロ政権からの対話の呼びかけに対し、フランシスコ・ローマ法王などの仲介も無視しMUDは対話を拒否し続けている。MUD内の極右派主導による街頭破壊活動の激化のなか、政府は四月十七日、クーデターを未然に防ぐためにサモーラ文民軍人合同計画(サモーラ計画)を発動し、重大犯罪者を対象とする軍事法廷の活用などを決めた。
 五月一日、マドゥーロ大統領は制憲議会(ANC)招集を提案した。五権を解体することなく共存させ、五〇〇名の議員の半数は政治的・社会的部門から選出し、残り半数は地域別に選出すると述べた。
 MUDは即座に拒否。翌二日、国軍はブラディミロ‐バロゥリーノ国防相名で「外部勢力による内政干渉、反政府勢力の政治的不寛容、反政府勢力過激派による暴力・蛮行・不安定化行動を前にして、広範な世論を喚起する名案だ」と支持を表明した(伊高浩昭、同前五月三日)。一七の政党が政権の呼びかけに応じ論議を開始している。五月十二日の演説でマドゥーロ大統領は「二〇一八年末に大統領選挙がある」と明言した。
 五月十六日マドゥーロ大統領は人びとに基本となる生活サービスを保証するため経済非常事態の六〇日間延長を発動した。緊急時対策は三つの主要な目的を持っている。国内生産の押し上げ、各家庭への直接食物配布の新システムの強化、社会計画の強化である(『テレスール』五月十六日)。
 一五〇〇名を対象にしたヒンターレスの調査によると「六七%が街頭暴動を拒否/六一%が街頭暴動参加者は懲役にすべき/六五%が大統領選挙は二〇一八年実施で良い/七二%が政府と野党との対話が重要/三二%が野党指導者を支持」であった(『テレスール』五月八日)。
 ベネズエラ経済の現状について新藤通弘氏は五月七日の論文(同前)で次のように指摘している。「二〇一六年は石油価格の低迷、熾烈な経済戦争の攻撃を受けてボリバル革命の一七年間で最も経済が困難な年であった/食料、日用必需品の買い占め、売り惜しみ、横流しなどによりインフレは四〇四%に上った/マドゥーロ政権は昨年四月、食料省の管轄下に地域生産・供給委員会(CLAP)を設置し、地域住民の協力も得て、基礎食料品でトウモロコシ粉、食用油、米、粉ミルク、黒豆、砂糖、コーヒーなどの供給を特別価格で保障した。現在まで六〇〇万家族(全世帯数の八五%)に供給されている/今年三月政府は二〇一六年の活動報告で、年金受給者の増加(五%増)、貧困層の減少(二九%から一四%へ減少)などを報告し、最悪の経済危機を切り抜けたと報告している/ジェトロ・カラカス事務所長の松浦健太郎氏は『政府は緊急事態令を布くことで超法規的な措置をとり二〇一六年の混乱期を乗り切ることに成功した。現に国民心理には改善が見え始めている』と報告している」と。
 『グランマ』(四月二十一日)はベネズエラが一四年前に掲げた全国的な健康医療体制構築を診療センター「バリオ」を通じて達成したことを祝い「ベネズエラはキューバに続き三二〇〇万住民全体の健康医療保証を築き上げた世界で二番目の国になった/七〇〇〇万件の検診と三〇〇万件の外科処置がほぼ無料でおこなわれている」と紹介している。国際的マスメディアが報道しない現実のひとつである。

キューバ革命攻撃の歴史の再現

 四月二十六日、OASはベネズエラの同意を得ることなく「ベネズエラの政情不安解決のための緊急会議」を招集した。ベネズエラはOASに厳重に抗議し翌二十七日、OASに脱退を通告した。
 キューバ外務省は二十七日声明を出した。「われわれは今回また、ボリバル革命に対する下劣で道義のないOASの策動を目の当たりにした。かつて一九六〇年代にキューバ革命に対し行なわれた恥ずべき歴史の繰り返しである/半球が政治的、経済的、軍事的介入と侵略の時代にはOASは押し黙っていた/今回、ベネズエラはOASから脱退するという威厳ある決定をした/われわれはベネズエラの人民と政府に揺るぎない支援と固い団結を表明する」(『グランマ』四月二十七日)。
 緊密に連携した内外の反動勢力の攻撃のなかベネズエラ人民は厳しい闘いを展開している。キューバをはじめボリビア、ニカラグア、エルサルバドル、ウルグアイなどが干渉に抗議し連帯の声明を発している。
 資本主義世界の情報の九〇%は六つのシオニスト・アングロサクソン巨大メディアによって操作されている(P‐コーニング)との指摘もある。マスメディア報道の虚偽を暴きベネズエラ人民の闘いに国際的支援と連帯の声をあげよう。 【沖江和博】

(『思想運動』1002号 2017年6月1日号)