世界に広がる「慰安婦」メモリアルデーのとりくみ
ハルモニたちが与えた励まし


 一九九一年八月十四日、韓国で金学順さんが、日本軍「慰安婦」制度の被害者であることを名乗り出たことを契機に、アジア各国で日本政府に謝罪と補償を求める被害者を中心とした運動が拡がった。毎年八月十四日を「慰安婦」問題の解決を目指したメモリアル・デーにすることをアジア連帯会議がよびかけ、今年も世界各地でさまざまな行動が取り組まれた。
 韓国では、大統領の昼食会に元慰安婦の方が招待され、また少女像の除幕式や記者会見、ソウル清渓川広場での少女像五〇〇体のミニチュア像の展示が催された。プラスチック製の少女像を載せたバスがソウル市内を循環し、ソウル市長も乗っていたことは、日本では特にフジテレビ系列で「日韓合意に反する行為」というコメント付きで報道された。キャスター、タレント、学者が口をそろえて日本政府の意向である「少女像=反日を象徴する像」をくりかえし代弁した。かれらには、植民地支配の反省はもちろんのこと被害者に沿った考えや問題意識は微塵もなく、「解決済みなのにいつまでごたごたと言っているのか」という日本政府の思惑を視聴者に植えつけている。
 日本では、今回で五回目になるメモリアルデーの取り組みが、大阪と東京を中心に行なわれた。八月十三日、東京・文京区民センターで開催された集会は、「語り始めた被害者たち 日本軍慰安婦、AⅤ出演強要、JKビジネス」のテーマで、韓国挺身隊問題対策協議会の尹美香共同代表を招待し、開催された。

性被害にあう若い女性たちの背景

 現在の日本では、若い女性の貧困の問題はきわめて深刻になっている。失業・不安定雇用、貧困に基づく家庭崩壊と虐待、学校や職場での執拗ないじめなどは、不十分な行政や地域の支援救済事業のもとで社会的に孤立し、生きづらさを抱え、行き場のない状態に女性たちがおかれる原因となっている。このような事態は安倍政権の戦争政策が進むにつれいっそう顕著に表れ、特に社会的に分断された若い女性たちに矛盾が集中している。
 集会では女子中高生を支援する団体Colaboの代表仁藤夢乃さんが、これまで自身の経験にもとづいて相談や企画展の実施などの活動をしてきた経過や、「慰安婦」制度の被害者たちから受けた影響、そして、性暴力被害に遭った若い女性、女子高生たちが、日本政府のとっている政策やマスコミに対して反対し、主体的に立ち向かっていく例が報告された。
 つづいてポルノ被害と性暴力を考える会(PAPS)事務局長の田口道子さんが、活動の内実と合わせて「社会全般に蔓延している女性やこどもへの性暴力を容認、軽視している社会のあり方を問題にしていくこと、性産業が成立しているシステムが問題であること、女性たちが抗議の声をあげる場を作ること」を報告した。
 尹美香代表は、報告を聞き「日本の若い女性たちの尊厳が、なぜふみにじられているのか、それは現代日本の構造的な問題であり、大人の責任である」とまず率直な感想を述べた。日本軍「慰安婦」制度の被害者であるハルモニたちが、戦争遂行のために植民地の若い女性を利用した天皇の責任を追及してから二六年たった。尹代表は高齢になったハルモニを支えての「慰安婦」問題解決運動は、韓国社会を変えると同時に世界中で戦地性暴力と闘う人たちにとって大きな励ましと影響を与えていると具体的な事例をあげて報告した。
 日本政府のとる政策と真っ向から立ち向かう韓国の「慰安婦」問題解決運動についての真実を日本のマスコミは伝えない。ハルモニたち被害者は、「これからの若い世代に二度と同じような戦争被害をもたらしたくない」と世界中を駆け回って日本政府に戦争犯罪の認定と公式謝罪、法的賠償、真相究明と責任者処罰、歴史教育・追悼事業の実施を要求する運動を行なってきた。

資本主義の矛盾のあらわれ

 日本政府は、日本がこれまで行なってきた近代の戦争の知られてはまずい数々の残虐な事実を明らかにせず、与えた被害について賠償はおろか責任さえ認めていない。日本が植民地支配下で行なったことの国家的責任をとらせるように追及するハルモニたちを、日本政府は、あらゆる手段をつかって排除する。
 日本社会にある「性産業にいく女子高生たちは、お金ほしさ」という偏見は、元「慰安婦」制度の被害者を「困った存在」と単純にとらえさせることと共通の基盤を持っている。偏見を助長させることで背景や原因をみえなくさせているのは支配層の常套手段だ。ハルモニたちが、日本の植民地政策、軍事政策によって生涯筆舌につくせない悲惨なめに遭ったことと、現代日本の資本主義の矛盾のあらわれとして女性・女子高生たちが存在していることとは共通の根を持っている。
 日本社会の戦前戦後をつらぬく「公の政策遂行のためには、個人の尊厳、人権などまったく無視する」ことが、いかに一番弱者である子どもや、若い女性・若年層にとってつらい結果をもたらしているか、日本の右翼政治家たちの差別や偏見に満ちた言動や考えの悪影響が示すように、いかに日本社会全般に戦争政策を認容する排外主義的な風潮が浸透しているか、「慰安婦」問題の解決をめざして日本政府に強く要求していくことが日本政府が取る戦争への道をただすことにもつながっている。 【倉田智恵子】

(『思想運動』1007号 2017年9月1日号)