クーデター策動とたたかうベネズエラ――プロレタリア民主主義かブルジョワ独裁か、熾烈化する階級闘争の局面
〈国際時評〉ベネズエラ制憲議会選挙は人民の勝利
米国は干渉を継続、政権打倒を狙う

 いまベネズエラで起こっているのは、労働者階級の支持のもと人民主権政策を貫くマドゥーロ革命政権と、それを押し潰そうとする反革命勢力とのせめぎあい=熾烈な階級闘争である。マドゥーロ政権を「独裁」「民主主義の破壊者」と攻撃するメディアは、後者の利益に与するものである。階級社会にあって民主主義一般など存在しない。労働者のための民主主義か、資本家のための民主主義か、前者を追求すれば必ず資本家の不利益を生む。決して和解し得ない階級対立の真実が示されている。米国による反革命攻撃を受け続けているキューバからのメッセージも合わせて掲載する。 【編集部】

 今年四月以降、ベネズエラの国内外の反動勢力は緊密に連携をとり、マドゥーロ革命政権打倒へ向け一九九八年ボリバル革命開始以後もっとも激しい攻撃を行なってきた。
 そのベネズエラで七月三十日制憲議会選挙が行なわれ、反対派の完全ボイコットにもかかわらず八〇八万九三二〇人、有権者の四一・五三%が投票した。憲法を遵守しボリバル革命の成果を守り発展させようとする人びとが、政権打倒を狙う民主連合会議(MUD)に結集する勢力のなりふり構わぬ残虐な数限りない妨害を打ち破り大勝利した。
 制憲議会は地域選出議員三六四名、職能分野別議員一七三名、先住民族代表議員八名の総計五四五名の議員から構成され、八月四日設立された。
 制憲議会議長に、前外相のデルシー‐ロドリゲスを選出。
 ベネズエラの憲法は、立法権(国会)、行政権(大統領、政府、国軍)、司法権(最高裁判所)、市民擁護権(市民擁護庁、検察庁)、選挙管理権(全国選挙評議会)の五権の分立を厳格に規定し、いずれの権力も固有の権限を持ち他の権力に優越して権利を行使できない。そして、憲法は制憲議会について上記五権と共立しながらすべての機関の上位に立つ最高権力機関と定めている。
 マドゥーロ大統領は、制憲議会招集を発表した五月一日「制憲議会は、完全な人民主権を確立し、ベネズエラ共和国に平和を回復させる土台を築く唯一の方法である」と述べ、七月三十一日「この制憲議会は、指示を出し、公正を実施し、平和を守る」と述べた。ロドリゲス制憲議会議長は八月四日の就任演説で「制憲議会の目的は現行憲法を変えることではなく、憲法の具体化へ向け障害を取り除くことだ」と述べた。

なぜ制憲議会は設立されたのか

 制憲議会設立について理解するにはこの間のMUDの政策と戦略を見る必要がある。
 二〇一五年十二月、国会議員選挙でMUDは過半数を超す多数議席を獲得した。以後、MUDは一貫してマドゥーロ政権との対話を拒否し続けてきた。MUDは二〇一六年秋のローマ法王庁仲介で一度は合意した与野党対話も、内部の極右派の主導により一方的に破棄した。
 今年四月以降、アルマグロ米州機構(OAS)事務局長のベネズエラへの敵対的な内政干渉を機に、MUDは街頭破壊活動を活発化させた。四月から八月までに破壊活動での死者は一二〇名を超した。武装した暴徒たちは、警察本部や国営商店、学校、病院、育児施設、食料センター、公共交通機関などを攻撃し破壊や略奪を行なった。未明にバス駐車場を襲いバス五三台を炎上させ、政府支持集会に参加した学生会長や制憲議会候補者二名など多数を射殺した。
 このMUDの活動は「各地で暴動→反政府内外メディアが『政権は統治不能』報道→臨時政府を樹立→臨時政府の要請により米軍・有志国軍が『人道的介入』→政権打倒」との、今まで米国がイラクやリビアなど全世界で実行してきた米軍の侵略シナリオに沿ったものである。
 この四月、MUDはローマ法王の与野党対話仲介も拒否した。以上のように、MUDが対話を拒絶し街頭破壊活動を執拗に展開するなかで、危機打開へ向けマドゥーロ政権は制憲議会を招請したのである。
 政権は選挙へ向けて丁寧な準備活動を展開していった。
 政府はMUD、経済サボタージュ活動を展開する企業家連合、そしてカトリック司教会にくり返し対話を呼びかけた。選挙直前の七月二十二日マドゥーロ大統領は「野党勢力は国際仲介者を通じて制憲議会選挙に参加したいので選挙を数週間遅らせてほしいと打診してきた。本気で参加するなら制憲議会選挙の実施遅延は可能と回答した」と述べた(「現代ラテンアメリカ情勢」伊高浩明、七月二十三日)。しかし実際には、MUDは街頭破壊活動を継続し、企業家連合およびカトリック司教会も対話を拒否した。
 最高裁は、制憲議会招請は大統領権限であり必ずしも国民投票は必要なしと判断。
 全国選挙評議会は制憲議会選挙を告知、五万五〇〇〇人が候補者登録した。その登録者のうち選挙民の三%の署名を集めた六一二〇人の候補者が選挙に臨んだ。
 七月十六日には模擬投票を実施し、成功裏に終了した。MUDの破壊活動が激化するなか、七月二十一日、ベネズエラ国軍が全国に要員二三万二〇〇〇人を展開し治安を維持し制憲議会選挙の投票所一万四五一五か所を警備するプロジェクトが始まった。

米国の介入政策に加担する虚偽報道

 欧米や日本のメディア、ベネズエラ国内の反政府メディアは、ベネズエラに関する絶え間ない虚偽報道、意図的な誤報を行ない続けている。
 「人びとが困窮しマドゥーロ政権に強い不満を抱き統治が混乱している」との報道は米軍のクーデターシナリオの根幹をなす作戦である。たとえば「困窮のベネズエラ/物不足が悪化/制憲議会で混乱/インフレ率、年七二〇%/餓死者も」が『朝日』(八月十五日)の見出しである。物不足との闘い、食料供給政策(CLAP)など政府の施策についての報道は一貫してなされず、どの記事でも「統治が混乱」と主張する。
 ベネズエラ政府はくり返し具体的に虚偽を暴露し強く抗議している。五月二十日ジュネーブの国連人権理事会でベネズエラ国連大使が、五月二十五日には日本記者クラブで駐日ベネズエラ大使が、虚偽報道や意図的誤報の具体的例を数多く示し強く批判。駐日ベネズエラ大使は、日本語版『ニューズウィーク』が翻訳記事の見出しに英語版の見出しや本文にもない「ベネズエラはほぼ内戦状態、政府保管庫には大量の武器」の見出しを掲げた事実や、他国の写真をベネズエラの現状として報道した例などを列挙した(伊高浩明、同五月二十六日)。
 制憲議会選挙結果について、『ニューヨーク・タイムズ』は表紙記事で「民主主義の終わり、マドゥーロ政権は支配力強化計画を推進」と主張した。『ワシントン・ポスト』は「二八〇万人の公務員労働者たちは投票しなかったならば失業する危険があった」と述べた。日本のマスメディアも『赤旗』を含め、「マドゥーロ政権は制憲議会選挙を強行/憲法上の手続きを無視し独裁化につながる」などと事実をねじ曲げ報道している。
 さらに八月八日国連も、ベネズエラの抗議行動関連の死傷事件の調査結果を発表し「政権の武装グループがデモ参加者を殺害している」とし、「法の支配が完全に崩壊したもとで発生している。責任は政権の最高レベルにある」と述べた。抗議行動関連の死亡者についてベネズエラ政府は「一部は過剰警備による死亡」と認めた上で「大半は武装した暴力分子による犯罪」と述べ、事件ごとに調査結果を明らかにしている。
 制憲議会選挙について、MUDは投票翌日何の根拠も示さず「投票者数は二五〇万人」と主張。八月二日投票システムの技術支援をしているスマートマティック社は「反対派の立会がないので実際の七〇〇万票に一〇〇万票が加算された」と述べた。その根拠は今も示されていない。
 ベネズエラの選挙制度とシステムは、指紋認証により投票手続きが自動化され一人一票を厳守する安全で透明なものである。今回の選挙で立会を行なったラテンアメリカ選挙専門家会議(CEELA)のニカノール‐ムスコソ議長は「投票システムは堅固で信頼性、透明性があった」と述べている(『グランマ』八月一日)。
 マドゥーロ大統領は二〇一五年十二月国会議員選挙で敗北した際、「疑問の入り込む余地のない完璧な選挙制度はこの一六年間の革命と諸変化によりもたらされた成果のなかで最も輝かしいもののひとつである」と述べた(『思想運動』二〇一六年一月合併号)。
 一方、MUDは七月十六日にMUDが実施した「市民投票」で七五〇万人が投票、九八%が制憲議会に反対したと発表した。この際、選挙人名簿は作成されず、また二重三重の不正投票が写真などで確認されている。投票所の様子から参加者の実数は半分以下と推察されるが、投票集計後すぐさま記録簿が焼却され確認できない(キューバ研究室『ベネズエラの選挙投票における奇妙な数字』新藤通弘、八月十一日)。

ボリバル革命の成果と米国の策動

 七月三十日『朝日新聞』のインタビューでMUDのカプリレス‐ミランダ州知事は「経済危機は政府が原油輸出の利益を農業や工業、観光の振興に投資せず、国民におかねをばらまき続けたためだ」と述べた(『朝日』八月一日)。
 日本や欧米のマスメディアが頑として伝えない事実をいくつか示そう。
 国連報告書によれば、ベネズエラの初等教育実施率の高さは世界第六位に位置し、中等教育実施率は人口の七三%に達している。また、識字率は九五・四%で南米諸国でもっとも高い(『テレスール』四月十三日)。
 居住は人びとの基本的権利として貧困家庭に助成金を支出し、二〇一九年までに三〇〇万世帯の住居を建設し提供する公営住宅供給計画が二〇〇九年開始された。計画は着実に遂行されこの八月には一七〇万戸の建設を達成した(『テレスール』八月十日)。
 ベネズエラが一四年前に掲げた全国的な健康医療体制構築を診療センター「バリオ」を通じて達成したことを祝い、『グランマ』(四月二十一日)は「ベネズエラはキューバに続き三二〇〇万住民の健康医療保障を築き上げた世界で二番目の国となった」と祝福した。
 ベネズエラの経済危機が資本家や富裕層の経済戦争によるものであることはその具体的な実態をベネズエラ政府がくり返し暴露してきた。資本家たちによる食料やガソリンなどの隠匿、売り惜しみ、経済サボタージュ、闇市場を駆使した投機、安価なガソリンや助成金が投入された廉価な食料、医薬品などを大量にコロンビアに密輸し膨大な利得を獲得など。そして四月以降の残虐としか言いようのない街頭破壊活動や道路封鎖が人びとへの生活必需品供給に多大な損害を与えた。
 米国は、原油埋蔵量世界一で金などの鉱物資源や水資源が豊かなベネズエラ支配を狙っている。そのために、マドゥーロ政権に敵対する企業家団体やカトリック司教会などを基盤としたMUDに結集する勢力を、資金面や情報操作などあらゆる手段で一貫して支援してきた。この数か月の米国の策動とそれに抗する国際的動きを見ておこう。
 五月中旬、米国は国連安全保障理事会に「ベネズエラへの介入決議」を提案し議題にしようとしたが、ボリビアやウルグアイなどの反対で議題にできなかった。OASでも五月下旬の特別外相会議、六月中旬の年次総会(外相会議)でも、重要決議に必要な出席国の三分の二を組織できず「ベネズエラ非難決議」を採択できなかった。
 その一方で米国は、資産凍結や米国との取り引き禁止などの「制裁」を五月中旬に最高裁判事八名、七月下旬に政府高官など一三名、制憲議会選挙翌日マドゥーロ大統領そして八月九日に制憲議会議員八名に科した。
 そして米軍は六月六日から十七日にベネズエラ近海でカナダや英仏などと合同軍事演習「貿易風二〇一七」を実施した。演習の後半はベネズエラの目と鼻の先にあるトリニダード・トバコ領海で実施された。演習の総指揮者テッド海軍大将は、直前の米上院軍事委員会で「ベネズエラ危機は地域の不安定要因になり対応を余儀なくされる」と述べ、ベネズエラへの軍事介入の可能性を示唆した。
 このような米国の策動に抗し、五月中旬カリブ共同体は「ベネズエラへの介入、干渉反対」を決議、七月中旬ニカラグアで開催されたサンパウロ・フォーラムは「ボリバル革命防衛のための非常事態」を宣言した。八月八日には米州ボリバル同盟(ALBA)一〇か国が「制憲議会開設祝福、経済制裁および干渉糾弾」を決議した。なお同日、米国を支持するペルー主導でアルゼンチン、チリ、カナダ、コロンビアなど一二か国政府が「制憲議会を認めない」などの「リマ宣言」を発表、「ベネズエラは独裁政権だ」と非難した。

だれのための民主主義か

 八月六日未明に中北部のベネズエラ国軍基地を襲撃し直ちに鎮圧された「軍事蜂起」について、マドゥーロ大統領は「軍事蜂起ではなくテロ攻撃だ。米国とコロンビアに資金支援され組織された二〇人の準軍事部隊による」と述べた。ベネズエラ国軍は「首謀者は三年前反逆罪で軍から追放されマイアミに逃亡した元大尉と国軍脱走中の中尉」と述べた(『テレスール』八月六日)。
 制憲議会は、当初十二月十日実施予定の州知事・州議会選挙の十月実施について、審議を開始し日程は未定だが繰り上げ実施を決定した。この地方選挙にMUDに結集する諸党が参加を表明した。八月二日に民主行動党、その後進歩前衛党など、さらに街頭破壊活動を主導してきた正義第一党と人民意思党が続いた。
 このMUDの戦略変更の背景には制憲議会選挙の成功と米国による国連やOASでの諸策動の失敗、そして街頭破壊活動に対する人びとの強い批判がある。
 反政府系と言われるデータアナリシス社の七月十五日の世論調査で「八五%が暴力デモ、街路封鎖、警官隊との衝突に反対/七一%が高速道路、主要道路の封鎖に反対」と報道(新藤通弘、同八月十一日)。
 七月二十二日~八月九日にヒンターレス社が行なった一五八〇名を対象にした調査で「八六%が国際的軍事介入に反対/七一%が米国の経済制裁に反対/六六%が、マドゥーロ政権が国の経済問題を解決すると判断/三〇%がMUD政権担当支持」であった(『テレスール』八月十五日)。
 このような状況のなかトランプ米大統領は八月十一日「ベネズエラへの軍事的選択肢もありうる」と述べた。このあからさまな侵略宣言に対し、即刻マドゥーロ政権を支持する諸国のみならず親米諸国からも一斉に非難の声があがった。この直後ペンス米副大統領はコロンビア、アルゼンチン、チリを歴訪したが三か国とも米国のマドゥーロ政権制裁への協力を表明した上で「軍事介入反対」を明示。
 なおMUDは八月十三日になって「キューバの干渉およびいかなる外国軍隊の軍事脅迫も拒否する。マドゥーロの独裁がこの地域の脅威となったことが原因でありこの問題の責任はマドゥーロにある」と述べ、米国への名指しの非難はせずキューバとマドゥーロ政権を攻撃している。
 MUD諸党は地方選挙参加を表明したがこの間の残虐な街頭破壊活動推進の責任について多くの党は未だ頬被りをしている。そしてMUDが多数を掌握する国会は制憲議会の具体的な討議要請を無視し続けている。そのため八月十八日、制憲議会は「平和、治安、経済社会体制の維持保障に直接かかわる分野は制憲議会が立法権を持つ」としたのだ。
 しかし、欧米のマスメディアや親米諸国はこの措置に対し「民主主義が破壊された」と声高に非難している。ベネズエラ人民が求めているのは資本家たちが自由に振る舞う民主主義ではなく人びとの権利を守り平和を確立する人民のための民主主義である。
 引き続き国内外の反動勢力は虎視眈々とマドゥーロ政権転覆の機会を狙っている。厳しい状況のなか、ベネズエラ人民はキューバ人民をはじめとする諸国人民の連帯に支えられ、国内外の反動勢力と闘いボリバル革命をさらに前進させようとしている。【沖江和博】

(『思想運動』1007号 2017年9月1日号)