連帯の集い〝私たちは皆ベネズエラ〞開催
統一州知事選挙でベネズエラ人民は平和を強化し主権を防衛した


 十月十二日(木)、駐日キューバ大使館でキューバ大使館、ベネズエラ大使館、ニカラグア大使館共催の「連帯の集い“私たちは皆ベネズエラ”」が催された。
 ベネズエラでは、今年四月以降、米国を主軸とする国外反動勢力と緊密に連携した民主連合会議(MUD)に結集する反動勢力が街頭破壊活動を展開し、なりふり構わぬ残虐行為を行なってきた。実に八月までに死者は一五〇名近くにのぼっている。
 この街頭破壊活動は、七月三十日に行なわれた制憲議会選挙以降、潮が引くようになくなり、大規模な反政府抗議デモも行なわれなくなった。
 MUDは、この間、米国やEUなど海外諸国を頻繁に訪問し「マドゥーロ独裁政権への制裁」を強く要請し、国内では街頭破壊活動を行ない、マドゥーロ政権が運営する国家を実質上「承認しない」できた。
 そのMUDに結集する二〇組織すべてが、MUDのなかで街頭破壊活動を先頭切って推進してきた人民意志党や民主行動党、正義第一党などを含めすべての党がいままでの言説を一八〇度反転しマドゥーロ政権の「国家を承認」し、十月十五日の統一州知事選挙への参加を表明したのである。
 キューバ大使館での連帯集会はこの統一州知事選挙の直前に催された。

キューバは再度封鎖解除決議を国連に上程する

 ベネズエラ連帯集会は、最初にキューバ大使の開会あいさつがありその後、ベネズエラ大使の報告、映画『ベネズエラ、ラ・オスクラ・カーサ(知られざる口実)』(監督エルナド‐カルボ、二〇一七年製作、日本語字幕、三八分)上映、ニカラグア大使の閉会あいさつと続いた。演説はすべてスペイン語で行なわれ日本語に通訳された。
 キューバ大使は開会あいさつの冒頭で「今回はきわめて正当でかつ緊急の問題のために集まっていただいた。それはベネズエラ・ボリバル革命との連帯である」と集会の趣旨を述べ、「マスコミの編集方針は大企業と支配層によって決められるため、われわれの諸国の政治的社会的現実を操作したり、隠したりするものとなっている。今日のこの集会のように直接交流をもち直に情報を伝えることは大変重要な意義をもつ」と続けた。
 そして、「進歩的政府の社会プログラムや富の再配分の方策によって特権を脅かされたラテンアメリカの右翼勢力、寡頭支配層、富裕層が、米国政府に激励され支援され、近年攻勢に転じた」と述べ、その攻撃の的となっているのがベネズエラであり、ニカラグアでありキューバであると指摘した。
 この間の経緯を簡単に見ておこう。
 八月二十五日、米国はベネズエラ政府に追加制裁を科し、ベネズエラ政府や国営石油会社PDVSAが新たに発行する債券の取り引きや新規借り入れの関与を禁止した。ムニョーシン財務長官は「マドゥーロ政権はこれ以上、米国の金融システムを使えない」と断言した。
 ベネズエラ政府は米国のこの攻撃に対抗し、九月中旬、ベネズエラ国家と諸外国との契約はすべてUSドル以外の通貨で契約すると発表した。
 九月二十六日には、EUは米国の要請を受け、ベネズエラへの制裁を決めた。
 九月二十九日、米国はキューバに駐在する米国の外交官や家族に原因不明の聴覚障害が起きており米国外交官への「攻撃」が実施されたとしてハバナ駐在の米国外交官を大幅に削減し、その家族全員を帰国させる決定を発表した。そして、十月三日、ワシントン駐在のキューバ大使館職員一五名の国外退去を決定した。キューバ政府がくり返し抗議しているようにこの決定にはなんの根拠もなく受け入れがたいものである。
 十月上旬には米国下院は「ニカラグア投資制限法」を承認した。「ニカラグアにおける人権侵害と民主主義の後退」を主張し、国際的な財政融資からニカラグアを締め出そうとする施策である。
 昨年十月の国連総会でキューバが提案した「米国による対キューバ経済・貿易・金融封鎖解除の必要性」を求める決議が賛成一九一、反対〇、棄権二で採択された。前年まで二四年間連続して反対票を投じた二か国、米国とイスラエルは棄権した。
 キューバ大使は開会あいさつのなかで「来る十一月一日、国連で、キューバは今一度封鎖の終了を要求する決議案を上程する」と述べている。
 ニカラグア大使が閉会のあいさつのなかで「ハリケーン・イルマがキューバを通過したその日に米国はキューバ封鎖を強化し、ニカラグアに対してもハリケーンが襲来したその直後米国下院でニカラグア制裁が決議された」と指摘している。九月上旬キューバや米国フロリダを襲ったハリケーン・イルマは、キューバにGDPの六%強におよぶ五〇億ドルを優に超す被害総額(「キューバ研究室」新藤通弘、九月十三日)をもたらした。この困難な時期を好機として選び米国は制裁をさらに強化している。

あなたの両手は死してもなお闘っている

 ベネズエラ大使は報告の冒頭で六〇か国を超す国ぐにの人びとが集まり九月中旬にカラカス市で開催された「〈私たちは皆ベネズエラ〉平和、主権およびボリバル的民主主義実現のための対話」会議の内容と採択された「カラカス宣言」を紹介した。
 続けて、ベネズエラの状況について報告し、「国際メディアはベネズエラを『無法で失敗した、どんどん追いつめられていく国家』として描写している。その理由は『人道的危機』にあるとして干渉を正当化するためである。米国が攻撃するのは世界最大の石油埋蔵量とベネズエラの地政学的位置のゆえである」と。
 そして、「制憲議会選挙を設置してからベネズエラは和平に向けて道を再び歩み始めた」「この九月、国連人権委員会で六三か国がベネズエラ支持の共同声明に署名した。諸国は主権を擁護し外国の干渉を拒否した」と述べた。
 報告の最後に「帝国主義が存在する限りボリバル革命は危険と脅威にさらされる。わたしたちはかれらに代わるモデルを構築しているからであり、成功すれば資本主義は一掃されるからだ」(ウーゴ‐チャベス)と指摘し、ベネズエラ人アリ‐プリメラがチェ‐ゲバラに捧げた歌の一節「あなたの両手は死してもなお闘っている」で締めくくった。
 映画『ベネズエラ、ラ・オスクラ・カーサ(知られざる口実)』は、オバマ前米国大統領の「われわれの軍隊は世界一だ。時にはわれわれの意にそぐわない国ぐにを力づくでねじ伏せることも必要だ」との演説で始まった。
 そして、米国をはじめとした帝国主義諸国の侵略の歴史、今年四月以降にMUDが行なった街頭破壊活動の実態、そしてメディアの虚偽報道、多国籍企業参加の数社が食料や医薬品など生活必需品の供給を支配し闇市場を含め操る経済戦争の内実が具体的に暴かれ写し出される。
 また、隣国コロンビアからこの二〇年間に六〇〇万人の人びとがベネズエラの出生を差別しない社会保障を求め移住している実状も紹介される。映画はかつてチリのアジェンデ政権を倒した同じ施策がいまベネズエラに対し行なわれていると指摘する。当時ニクソンは「政府を破壊するために経済を弱体化させる」と豪語した。
 映画は、https://yōutu.be/96ysŌZE0P2Qで見ることができる。

与党一八州で勝利、野党牙城を攻略

 十月十五日統一州知事選挙が行なわれ、首都特別区(カラカス市)を除くベネズエラ全土の二三州の知事を選出した。有権者一八〇〇万人の六一・一四%、一一〇〇万人が投票した。与党統一社会主義党(PSUV)は五四%を得票し、二三州のうち一八州で勝利し、MUDは五州で勝利した。なお、前回二〇一二年統一知事選では、与党は二〇州、MUDは三州で勝利している。
 今回の選挙ではこれまでMUDの牙城であった首都部のミランダ州(PSUV得票五二・五四%)、中央西部地方のララ州(同五七・六五%)、グアヤナ地方のアマソナス州(同五九・八五%)で与党が勝利した。MUD指導者エンリケ‐カプリレスやエンリケ‐ファラコンらを知事の座から追い払った。
 今回MUDが勝利したのはコロンビア国境に隣接するスリアナ地方とアンデス地方のスリア州(MUD得票五一・六六%)、タチラ州(同六三・二九%)、メリダ州(五一・〇五%)と北東地方のアンソアテギ州(五二・〇一%)そして諸島からなるヌエバ・エウパルタ州(五一・八一%)であった。
 今回の知事選(投票率六一・一四%)、二〇一五年国会議員選挙(同七四・一七%)、前回二〇一二年知事選(同五三・九四%)での与党とMUDの得票数を比較すると、与党は〈今回五九〇万、国会五六〇万、前回四九〇万〉、MUDは〈今回四九〇万、国会七七〇万、前回三八〇万〉である。MUDの街頭破壊活動から一転しての選挙参加により国会議員選挙でMUDを支持した人びとのなかで多くの棄権者が出たと想定される。
 また、国会議員選挙で与党は都市部で苦杯をなめたが今回都市部では与党支持が回復している。
 選挙後、マドゥーロ大統領は「今回の選挙は平和的に模範的なやり方で進められた」と述べた。ボリビア大統領エボ‐モラレスは「民主主義は干渉と陰謀に勝った。人びとは主権と尊厳を守った」と書き込んだ。一方、MUDは「発表された結果はわれわれが経験したものと異なっている」との声明を発表し、不正選挙の疑いが強いと述べている。
 『日経』(十月十六日夕刊)は「ベネズエラ、強権与党勝利/統一知事選、野党『不正があった』」の見出しで次のように報道している。「マドゥーロ政権は今年八月に全議席を与党系の議員で固めた制憲議会を発足させ、知事を制憲議会の支配下に置くことで権限を縮小した。『民主主義』を対外的にアピールするため選挙を実施したもようだ/選挙管理委員会は今回も国際社会からの選挙監視団の派遣を受けつけていない/強権化を強めるベネズエラ政府だが、失政による経済危機は深刻化し、高インフレにより衣料品や食料は不足し、死者も出ている。反政府デモの弾圧も相まって、隣国のブラジルやコロンビアには数万人単位で難民が流出している」と。
 この報道は虚偽報道の典型と言ってよい。今回の選挙にもラテンアメリカ選挙専門家会議(CEELA)のメンバーなど海外から七〇名が選挙監視団に参加している。また、「難民」については映画が指摘しているように六〇〇万人のコロンビア人がベネズエラに移住してきている事実に、「コロンビアからベネズエラへの移住者数が、二〇一三年一八万九〇〇〇人、二〇一四年一四万四〇〇〇人/コロンビアへの移住者の多くがコロンビア国籍を有する中流階層の人びと」(『テレスール』十月十二日)との指摘を付け加えておく。
 連帯集会の開会あいさつでキューバ大使が述べたように、いま、ベネズエラ・ボリバル革命との連帯活動はきわめて正当かつ緊急の課題である。【沖江和博】

(『思想運動』1010号 2017年10月15日-11月1日号)