社会主義こそが未来だ!その確信を掴む思想と実践の積み重ねを
〈活動家集団 思想運動〉第五〇年度総会へ向けて――
資本主義の危機に立ち向かうわれわれの課題
労働者階級の眼で世界と日本の現実を見よう!

広野省三(〈活動家集団 思想運動〉常任運営委員会責任者)

 一九六九年三月に出発した〈活動家集団 思想運動〉は、来年、会創立五〇年を迎える。それに先立ち、さる六月二十三、二十四の両日、われわれは第五〇年度定期全国総会を東京において開催した。以下に掲載する文章は、これに向けて事前に提出された文章と、当日の報告の内外情勢に関する部分に若干の補正をし、圧縮したものである。五年半以上にも及ぶ安倍ブルジョワ独裁政権は、数々の憲法違反の悪法を強行成立させ、圧倒的な沖縄県民の反対の声を暴虐の限りをつくしてねじ伏せつつ辺野古新基地建設を押し進め、いっぽうで「森友・加計」事件、閣僚・議員・官僚のデタラメ発言や情報操作、文書偽造などによって一時的に支持率を落とすものの、いまだに四〇%台の内閣支持率を維持している。
 七月二十日、立憲、国民民主、衆院会派「無所属の会」、共産、自由、社民の野党六党はようやく内閣不信任案を衆議院に提出したが、自公与党らの反対で否決され、三二日間延長された第一九六通常国会は二十二日に閉会した。政府が今国会の最重要法案とした(労働組合を無用とする残業時間の上限を年間で計七二〇時間、休日労働をふくめれば九六〇時間、単月では一〇〇時間未満に規定、高収入の一部専門職を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」の導入を柱とする)「働き方改革関連法」、米国を除く一一か国による環太平洋経済連携協定(TPP11)の関連法案、カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案、参院定数を六増する自民党提出の公職選挙法改正案は、すべて強行採決・成立させられた。安倍は九月の自民党総裁選挙では憲法改悪を争点に掲げているが、「投票資格を持つ党所属議員(四〇五人)のうちすでに主要四派などで七割を固め、連続三選を濃厚にしている」(八月四日『産経』)。これがわれわれ日本の労働者階級人民を取り巻く国内の政治情勢だ。労働者階級と資本家階級の力関係の上で、われわれは圧倒的に不利な条件下にある。
 しかしこれらは、政治・経済力で中国に引き離され、朝鮮半島をめぐる情勢の急変にとまどい、人民の生活向上の道をなんら保障できない日本ブルジョワジーの危機意識のあらわれ(朝鮮・中国非難、人口減少・少子高齢化などをつかった「国難」の煽り立てもその一つ)でもある。
 眼を世界に転じると、南北朝鮮の平和と統一にむけた積極的行動、朝米の朝鮮での戦争回避に向けた歩み寄り。キューバ・ベネズエラ・ニカラグアなどでの米国の介入・破壊工作との激烈な闘い。パレスチナ人民の不屈の抵抗闘争。英・仏・米国などでの労働者のストライキを梃子にした闘い。そして中国やベトナムなどさまざまな矛盾を抱えつつも社会主義を発展させようと闘う党と人民の闘い。各国の共産党労働者党の闘いがある。全世界の労働者階級人民は、平和の追求と生活の向上、社会主義を求めて不断に闘いつづけている。われわれはこれからもプロレタリア国際主義の旗を掲げ、この隊列に加わっていきたい。【編集部】

こんにちの世界情勢をどうとらえるか

●現代世界――資本主義から社会主義への全般的移行期

 わたしは現代世界を、「資本主義から社会主義への全世界的移行期の逆流期 」ととらえている。それは一九八九~一九九一年のソ連・東欧社会主義政権の崩壊・社会主義世界体制倒壊後三〇年近くになるいまも、力関係では依然として、資本主義の優位がつづいているからだ。しかし世界の現実を直視すれば、戦争・貧困・飢餓・難民、格差と極端な不平等といった問題――人類が直面する根本問題――は、資本主義のもとでは決して解決できないことはあきらかである。戦争政策の推進によって米国を頂点とする金融グループ・巨大企業を中心とした軍産複合体・軍需産業が大儲けをしている。
 そのいっぽうで、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は六月十九日、戦争や迫害などで国外に逃れた難民や難民申請者、国内避難民が二〇一七年末で約六八五〇万人になり、過去最多を更新したと発表した。資本主義の矛盾を一方的に押しつけられ、失業、賃下げ、社会福祉の後退で日々の生活にあえいでいる圧倒的多数の勤労人民とその家族。その不満と不安を逆手にとってトランプや安倍ら右翼民族排外主義者がのさばりかえっている。
 資本主義が抱える矛盾は、はっきりとした形でわたしたちのその確信を掴む思想と実践の積み重ねを目の前に突きつけられている。しかし、これらは時間がたてば自然と解消する、あるいは善意の誰かが解決してくれるといった問題ではない。わたしたち自身がこの問題を解決する主体なのだ。〝社会主義は過去のもの〟、〝社会主義には自由がない〟といったブルジョワジーの悪意に満ちた労働者階級の未来への死刑宣告。そしてそれを追認する「民主的」学者・文化人、マスコミ、新旧「左翼」の大合唱に抗してわれわれは主張する。問題は人による人の搾取を認め、際限のない利潤追求を至上目的とし、そのためには戦争をさえ利用する資本主義という社会の仕組みにある。そのブルジョワ独裁体制を打倒する闘いに勝利することなしに、労働者階級人民の社会は到来しない。このことを、報告の冒頭であらためて確認しておきたい。

●現代世界はいまだに帝国主義が支配している
 資本主義体制の基本構造は、金持ちの、金持ちによる、金持ちのための政治であり、その基軸は搾取の自由+ブルジョワ議会制度+官僚制+マスコミ+教育制度である。「帝国主義とは、独占体と金融資本の支配が成立し、資本の輸出が顕著な意義を獲得し、国際トラストによる世界の分割がはじまり、最大の資本主義諸国による地球の全領土の分割が完了した、という発展段階の資本主義である」(レーニン『帝国主義論』より)。
 帝国主義に発展した資本主義の基礎は独占であり、この段階では生産の社会化は極限まで達しており、資本主義は実体的な富の生産による搾取という本来的な経済のあり方を失い、市場の排他的支配や金融詐術によって利潤をあげる、寄生し、腐朽した資本主義になり、社会主義にとって代わられざるをえない。しかしこれは、経済発展がなされれば自動的に社会主義に移行するということではなく、労働者階級の闘いが決定的である。
 しかし、日本共産党の志位委員長は、六月二十四日付『しんぶん赤旗』一面、四・五面の「米朝首脳会談の歴史的意義、今後の課題を語る」というロングインタビューの最後「世界構造変化――日本共産党綱領の生命力に確信をもって」の部分で、帝国主義についてこう語っている。
 「日本共産党の綱領では、20世紀の世界で起った最大の変化として、それまで植民地とされていた国ぐにが独立を勝ち取り、たくさんの主権国家が生まれたことをあげています。……21世紀の世界は、国の大小ではなく、すべての国ぐにが対等・平等に主人公として参加する新しい世界となりつつあるという世界論を明かにしています。……こういう新しい世界にあっては、独占資本主義国イコール帝国主義とはもはやいえなくなっている。その国が帝国主義かどうかは、その国の方針と行動に帝国主義の侵略的性格が体系的に現われているかどうかで決まる。……いまの世界で唯一、帝国主義の国といえるのは、米国だと判定しました」と。また「その米国であっても、戦争と平和の力関係が変わるもとで、いつでもどこでも帝国主義的行動をとれなくなっている」とも語る。
 つまり日本共産党は、独占体の支配という土台の認識を欠落させ、資本主義大国が小国や他民族を収奪するための侵略戦争を遂行する関係として、帝国主義をとらえているのだ。しかしわたしは、こうした考えには与くみせず、レーニンの帝国主義規定をいまも支持している。

●変化する現代世界の構造と力関係
 米帝国主義の相対的な力の低下が、ブルジョワ新聞でも盛んに言われてきている。それは目を見はる中国の台頭、中ロの協調関係の進展、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)をはじめG20、さらにジグザグがあるものの、発展途上国の前進という形で現われてきている。米国の一九年度予算教書の財政赤字額見通しは、昨年からほぼ倍増の九八四〇億ドル。一〇年間では計七兆一〇〇〇億ドルの赤字で、国の債務は三〇兆ドル(一一〇円換算では三三〇〇兆円)近くまで膨らむ見通しだ。
 トランプ大統領のインフラ計画は、向こう一〇年間で二〇〇〇億ドルの政府支出を呼び水に、州や地方自治体、民間セクターの公共事業投資を促すというもので、その規模は最大一兆五〇〇〇億ドルになると推定されている。米国は(日本はすでにGDP〈国内総生産〉の倍以上の負債を抱えているが)今後も、どんどん財政赤字が拡大していく。ツケを後世に回すというやり方だ。米国はドルを刷ればいくらでもそれを使えるという「基軸通貨」特権があるから日本とは違うだろうが、いずれにしても天井が抜けたような借金の増大ということになるだろう。【資料①】のようにIMF(国際通貨基金)や世界銀行は毎年経済予想を出す。経済指標だけでみると中国が米国を追い抜くことは時間の問題となっている。同時に、日本と中国の差は開いていくばかりだ。

●中国社会主義の評価について
 中国経済の飛躍的発展という現実を受けて、中華人民共和国をどのように位置づけるのか。現在の中国社会に起こっている諸矛盾をどのように理解していくのか。そして日本の労働者階級人民は、中国の労働者階級人民といかなる関係を築くのかが問われている。
 わたしは帝国主義についてはレーニンの規定を全面的に支持し、それに依拠して問題を考えている。帝国主義という問題は、日本共産党のように大国とか小国であるとか、あるいは侵略をしたとか、しないとかいう観点ではなく、資本主義の発展が独占段階に達し、金融資本が絶大な力を発揮し資本輸出が全面にあらわれてくる段階という規定を適用して考えていくべきだ、ということだ。
 中国は二〇〇一年にWTOに加盟し、資本主義経済と全面的にリンクするようになった。下部構造で見た場合、資本輸出の問題からいっても、中国経済は資本主義経済として動いている。二〇二〇年代には名目GDPでもアメリカを追い越すとも言われているが、現在は日本の約三倍である。購買力平価で言えば、アメリカを上まわるという数字も出てきている【資料②】。

 現在、中国は社会主義市場経済のもとでの経済建設をやっている。国有企業の問題は、国有企業改革が進行しているが、まだ国有企業を残す方向が取られていて、全面的に民営化が進んでいるとか、一方的にその方向に進んでいるとはとらえられないという意見がある(『社会評論』一八七号・「中国社会主義を考える――国有企業改革を中心に」〔瀬戸宏〕、同号「中国『社会主義』の再検討――『鄧小平理論』とは何だったのか」〔山下勇男〕を参照してほしい)。
 一九七二年二月の電撃的ニクソン訪中で、七九年に正式に中米国交正常化が実現した。いっぽう日本は一九七二年九月に日中国交正常化がなされている(賠償なしのODA〈政府開発援助〉方式)。今年は中国が「改革開放」政策を採用してから四〇年にあたる。
 こういった経過のなかで現在、中国は習近平体制のもと、「中国の特色ある社会主義」路線を歩んでいる。中国が過去、現在において、第三世界、特にアフリカをはじめとする発展途上国に対してどのような役割を果してきたのか、それを踏まえて展開されているAIIB(アジアインフラ投資銀行)や一帯一路構想を検討していく必要がある。上海協力機構についてはあまり報じられていないが、中国、ロシアを中心に米帝国主義の資本主義推進路線とは違う形で中央アジアを中心に協力体制が進んでいる(【資料③】参照)。

 中国は自国を「発展途上国」と位置づけている。改革開放で「先に豊かになれるところから豊かになる(先富論)」という形での経済発展が進行している。そのなかで、債務の増大、格差の拡大や環境分野での問題が出ている。中国の発展の過程で生じているさまざまな矛盾、あるいは米国との貿易摩擦問題があるなかで、中国はアメリカ型ではない経済発展を考えているのではないか。わたしは、AIIBや一帯一路や上海協力機構や途上国への援助・経済関係を見ても、中国の政策に一定の意味や評価すべき点があると思っている。矛盾したことになるが、経済的には世界資本主義に組み込まれていて、それを社会主義といえるのかという面はあるが、中国が果たしている役割についても同時に考える必要がある。それは、今回の朝米会談における中国の役割もふくめて考えなければいけないだろう。
 二〇一六年七月五日に、中国社会科学院世界社会主義研究センターと『紅旗文稿』雑誌社は北京で、「レーニンの『資本主義の最高の段階としての帝国主義』執筆百周年を記念する中露学術研究討論会」を共同で開催した。その基調は「今の世界は依然として帝国主義時代(金融帝国主義時代)にあり、資本主義が社会主義に移行する歴史的時代にある。帝国主義は過渡的な資本主義であり、瀕死の、腐りきった、寄生的な資本主義であり、帝国主義は戦争の震源地である」というものだ。また今年五月四日に開かれたカール‐マルクス生誕二〇〇周年を記念する大会で、習近平中国共産党中央委員会総書記・国家主席・中央軍事委員会主席は長時間の演説を行ない、「マルクスは全世界のプロレタリア階級と労働者の革命指導者で、マルクス主義の主要創始者、マルクス主義政党の創設者と国際共産主義の開拓者で、近代以降の最も偉大な思想家である。二世紀が経った今、人類社会では巨大で深刻な変化が起きたが、マルクスの名は依然として世界各地で人々の尊敬を受け、マルクスの学説は依然として真理の輝きを放っている」と述べたという。
 これらを額面どおり受けとめるかどうかは異見もあろうが、少なくともこうした観点からのアプローチが行なわれていることに、注目しておくべきだ。
 中ロの冷え切った関係が、親密な関係に変化していると言われる。歴史的な問題――世界革命の歴史では中ソ論争→中ソ対立→ソ連社会帝国主義論。一九五六年のソ連のスターリン批判を契機に中国(毛沢東)とソ連(フルシチョフ)の間で路線対立が始まり、一九六〇年代には国境紛争などでソ連と中国の社会主義革命路線を巡る公然とした対立が深まった。
 一九六八年にはチェコ事件で毛沢東はソ連を最重要の敵と位置づけるソ連社会帝国主義論を主張。六九年にはウスリー江の珍宝島事件などの中ソ国境紛争に発展した。しかし一九八〇年代にはソ連のペレストロイカ、中国の改革開放路線への転換によって対立は沈静化し、一九八九年のゴルバチョフ訪中によってその対立は「終わった」――も同時に検討していかなければならない。
 また、共産党労働者党国際会議の準備段階の作業グループに、中国共産党と朝鮮労働党が入るという報道がなされている。これも踏まえて、わたしたちは中国や朝鮮の労働者階級とどのような連携が可能なのか、を考えていく必要がある。朝鮮だけでなく、中国本土、あるいは在日の中国の活動家とも連携し、われわれが真摯に学ぶことが重要だと思っている。

●米日の軍事政策・経済の実態
 米国の力の衰退については先に述べたが、そのいっぽうで、米国の軍事力を見ると、アメリカ帝国主義は依然として世界の労働者人民にとって危険極まりない存在であることに変わりはない。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は五月二日、「二〇一七年の世界の軍事費(一部推計値)が前年比一・一%増の一兆七三九〇億ドル(約一九〇兆円)だった」と発表した【資料④】。
 そのうち米国の軍事費は六〇九八億ドル。世界全体の三五・一%を占める。第二位は中国の二二八二億ドル。米国は自分たちの持っている核兵器ないし通常兵器は「善=危険ではない」というイデオロギーを振りまいているが、それは自分たちに逆らう者が持つ核兵器ないし通常兵器は「邪悪=危険極まりない」とするフレームアップ、二重基準にすぎない。
 そのことは、日本などへの超高額の人殺しの武器の平然とした売りつけ、NATO諸国に軍事支出拡大の要求をするところにもあらわれている。しかし、GHQによる「押しつけ憲法」を嫌がる安倍は、トランプたちの要求を鵜呑みにし、まったく抵抗することがない。一般会計九七兆七一二八億円の日本で、防衛費は五兆一九一一億円だが、年末に改定する「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」に向け、防衛費のGDP二%を明記した提言を、自民党がまとめた。
 以下、いくつかの新聞記事等を要約し紹介する。トランプ米政権は二月二日、今後五~一〇年のアメリカの核政策の指針となる「核態勢見直し(NPR)」を公表した。
 中国、ロシアや「北朝鮮」などの核戦力増強を口実に、大規模な核軍拡に踏み出そうとしている。総額は一・二兆ドル(約一三一兆円)にもなる。とりわけ、潜水艦から発射できる弾道ミサイル(SLBM)や核巡航ミサイル(SLCM)など、「使いやすい」小型核兵器の開発と配備をすすめ、核兵器を使わない攻撃(通常兵器による攻撃)への反撃にも核兵器を使用する可能性を明記し、核兵器の役割を拡大する方針を鮮明にした。
 安倍政権はNPRの発表直後に、「抑止力」の強化として、これを「高く評価」(河野太郎外相談話)したが、核巡航ミサイルの原子力潜水艦などへの配備は、日本への核持ち込みの危険を高め、非核三原則を蹂躙する可能性もある。

●米・中・日の貿易をめぐる実態
 三月二日、トランプ大統領は鉄鋼とアルミニウムの関税をそれぞれ二五%、一〇%引き上げる方針を表明。「中国が不当に安い鉄鋼製品を過剰に供給しているために米国の鉄鋼業界が損失を受けている」だけでなく、「兵器の製造などにかかわる鉄鋼製品を海外輸入に依存することは安全保障にかかわる」と強調。五日に声明文を公表し、米国による先の対中関税引き上げに対する「中国の不当な報復」を踏まえ、一〇〇〇億ドルの追加関税の検討を通商代表部(USTR)に指示したことを明らかにした。
 大統領は声明で、USTRは中国が「米国の知的財産を不当に取得する行為を再三にわたり実行してきた」と判断したと指摘。「不正行為を是正する代わりに、中国は米国の農家や製造業者に損害を与えることを選んだ」とした。トランプ政権は今週、中国からの輸入品約一三〇〇品目に二五%の関税を課す案を公表し、中国も同規模の関税を発表して対抗した(『ニューズウィーク』四月六日)。基本的流れは表のとおりである【資料⑤】。
 しかし対立はしていても、米中は緊密な関係を持っている。中国は途方もない額の米国債を持っている。四月十六日付けの『ロイター』によれば、「米財務省が公表した二月の対米証券投資統計によると、中国の米国債保有額が一兆一七七〇億ドルに拡大した。……日本の保有額は一兆五九〇億ドル、二〇〇一年十二月以来の水準に減少した」。また中国から米国への財の輸出総額は二〇一七年に五〇五〇億ドル、一方米国から中国へ財の輸出総額は一三〇〇億ドルであり、その結果、米国の対中国貿易赤字額は三七五〇億ドルとなった。中国からの輸出額は米国からの輸出額の四倍近くにも達している。
 米中どちらも輸入・輸出において最大規模の関係にある。そのため、当然お互いがWIN‐WINの関係を維持しなければならない。習近平中国国家主席は米国訪問時に、ボーイング社の飛行機を三〇〇機も買うような指導者だ。トランプは駆け引きを得意とし、予測不能の動きを示す。米中の対立がこのまま続くかどうかはわからない。ちなみに二〇一七年の日本の輸出先の第一位は米国で一五兆一一〇億円(全体の一九・三%)。第二位は中国の一四兆四八八億円(同一九%)、輸入は中国が第一位で一八兆四五〇〇億円(二四・四%)、第二位が米国で八兆九〇〇億円(一〇・七%)。
 日本もトランプ政権の関税引き上げの対象になっている。安倍は一七年十一月の訪米時「半世紀を超える日米同盟の歴史において、首脳同士がここまで濃密に、そして深い絆で結ばれた一年はなかった」などと述べている。しかし、今年四月十七~十八日のトランプとの三回目の首脳会談は朝鮮問題と対米輸出関税問題が主要な議題だったが、日本は制裁の対象から外されなかった。またトランプは、今回の会談でも日本に対して弾道ミサイル防衛など最新鋭の兵器を提供し、日本の自衛隊の即応力および実効性を確保する防衛装備品の提供を引き続き行なう決意を改めて表明した(米国製武器購入の強要)。五月二十三日、トランプは輸入する自動車やトラック、自動車部品への関税を二五%に引き上げる検討を発表した。
 日本の対米貿易輸出は約一五兆円、輸入は約八兆円、だから米国側から見れば約七兆円損をしている、ということになる。日本の最大の輸出品目は自動車であり、その四割は自動車だ。一七年に安倍が米国に行くときには、トヨタ自動車の豊田章男社長と事前に話してから行った。トランプが日米の自動車貿易を「公正ではない」と指摘したことから組まれた会談で、日米支配層の関係をよく示していた。
 日米通商摩擦が再び表面化してきた。GDPや軍事費から見ても、日本は一国では中国と対抗できない。日米同盟が基軸だと言っても、必ずしも米国はそれだけを基本に考えているわけではない。トランプ政権がどういう風に出てくるか、日本のブルジョワ支配階級と安倍政権は戦々恐々としているのではないか、とわたしは思う。
 安倍は「地球儀を俯瞰する外交」などとすさまじい回数の海外訪問を得意げに語っているが、営業の経験がある人に言わせると「あれはほとんど営業マンのスタイルだ」という。なるほど、と思う。五月九日にひらかれた日中韓サミットの会議後、安倍は李克強中国首相を北海道までつれてゆき、トヨタの関連工場などを案内した。

●トランプ政権の特徴――見世物型政治と不安定さ
 トランプという人物はやはり商売人なのだと思うが、政策の不安定性そのものを目玉にして話題をつくり、次から次へと大衆の気分を目移りさせるように操作している。反既成(アンチ・エスタブリッシュメント)を声高に叫び、大衆の不満を吸収していく。トランプの政策自体は一見、アナーキーにも見える。しかし、アナーキーな側面と、自国第一主義ということで実質をとることを考えながらやっている面があるのではないか。
 資本主義というのは、元々見世物的な要素がある。つまり物質(モノ)より体験や感情が商品になり、感情を売り買いする「ショー」に見えるという見方がある。だから、マイナスの要因も商売になる。プラスの要因だけで、お利口さんなやり方だけでいくと飽きるから、マイナスの要因も見せる。するとそちら側もウケがいい。そういうことを言っている学者がいる。なるほど、ポピュリズムの政治のやり方は、そういうところもあるのか、と思う。トランプ政治はそれが一定成功しているのではないか。さらに言えば、トランプが異常なのではなく、こうした政策を生み出すファシズム的下地が米国社会の中にすでに形成されていたのだ、という意見もある。安倍らの日本政治のデタラメさも、こうした下地と風潮に乗って助けられている面があるのではないか。
 トランプ政権の閣僚等の人事は非常に混乱している。トランプ就任以来四〇人ぐらいが政権を去っている。朝米の首脳会談を前にして、ようやく五月十八日にハリー‐ハリス太平洋軍司令部司令長官を駐韓米国大使に任命した。他にもいくつもの国や機関で大使レベルの人間もいないし、長官レベルの人間もいないということで、穴だらけの政策と政権運営がみえる。エルサレムへの米国大使館の移転ということもあって、中東では非常に大きな反米・反イスラエル闘争が起きている。パレスチナでは三月三十日の「土地の日」を契機にインティファーダにつながるような闘いが再燃している。五月八日に米国のイラン核合意破棄という決定があって、中東では至るところで矛盾が出てきている。
 トランプ政権は秋の中間選挙に向けて、オバマとは違うぞ、といった強い姿勢を示すための手をさまざまな形で打ち出している。問題は選挙でトランプのような便宜主義的・権力誇示型指導者が好まれる流れだ。欧州などでも、戦争による大量移民の発生と流入をふくめ、大衆の生活への不安や不満が広まるなかで、そうした動きが拡大している。庶民の現状否定の感情を、トランプたちファシズム勢力がさらっている。それは日本社会での排外主義の横行とも軌を一にしている。
 こうした流れと闘う隊列は全世界に存在している。しかしそれが、資本主義体制そのものをどう廃絶するのかといった問題意識をもった対決としてではなく、資本主義の枠のなかでの、その改良としての対決として闘われている。米国のサンダース前大統領候補やイギリス労働党のコービン党首などは、はっきりと資本主義批判を打ち出している。しかしそれが社会主義を目指す労働者の運動の大河、多数派とはなっていない。

●米国中心の世界の見方からの転換を
 米帝国主義の制裁外交の矛先は、キューバやベネズエラ、それから朝鮮に向けられている。朝鮮については、その制裁の具体例が詳しく出てくるのでわかるが、他の地域のことはよくわからないでいたが、二月二十四日に大阪・アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会(OSAKA AALA)主催のシンポジウム(「ラテンアメリカとカリブ:危機の時代と課題」と題する)があり、そこでのキューバ大使とベネズエラ大使の報告のペーパーを読んだら、朝鮮にやっていることとほとんど同じ制裁を加えている。とくに、国際的な通信社を使って、ベネズエラのインフレ率が二〇〇〇%だとか、食料が届いていないとか、そういうことを盛んに宣伝している。ベネズエラ政府がいくらそうではないと言っても、絶対に新聞には載せない。国際的な通信社が配信する情報を、資本主義各国の全マスコミが利用するという関係になっている。日本では『赤旗』ですらその記事に飛びついて、ベネズエラ大使が抗議したりもしている(本紙一〇一八号参照)。
 米国発の通信ネットワークに対するわれわれの見方をしっかり持っておかないと、マスコミ情報に振りまわされることになる。マスコミの言う「国際社会」とは資本主義体制を死守する国ぐに、米国と米国の同盟国およびそれに追従する国ぐにで構成された社会である。
 『グローバルリサーチ』二〇一七年十一月二十四日付に載ったシーン‐ガーバシの講演『米国はソ連の崩壊をどうつくりだしたか』は随分前の講演だが、ソ連・東欧社会主義体制倒壊で米国がどういう策動を行なったか、が端的に示されていた。資金も人材も大量に投入して、社会主義政権転覆を画策している。内部攪乱も含めて、非常に綿密な作戦が展開されたことが明らかにされている。そしていま、それと同様の攻撃に朝鮮、キューバ、ベネズエラが直面している。このことを肝に銘じた上で、われわれはマスコミで報道される「事実」や「解説」をみていく必要がある。われわれの認識は、朝鮮、キューバの革命政府、マドゥーロ政権などの出している情報を基本においてつくられるべきだ。米国の制裁外交については、ひろく国際政治を研究する富山栄子さんが非常に詳しく、わかりやすく書いているので、それも合わせて参照してほしい(『社会評論』一九〇号「国家の破壊はいかに行なわれるか――シリア、イラクなどに対する米帝国主義の介入と増大する難民」)。

朝鮮半島の非核化 ――南北人民の闘いの成果

●具体的な事例で朝鮮問題をみる

 南北首脳会談(四月二十七日・板門店)、朝米首脳会談(六月十二日)を受け、朝鮮半島では平和と非核化へ向けた動きが続いている。しかし日本では朝鮮が硬直した社会で、制裁で非常に苦労しており、経済的発展もまったく望めないというマスコミ報道ばかりで、問題の本質が伝えられていない(この問題については本紙五月一日号二面で「朝鮮半島情勢の急展開と日本人民の課題/未だ加害者の位置にあることの認識を」藤原晃、五月十五日号一面で「四・二七南北首脳会談の快報に接して/日本は宗主国・植民者意識を改めよ」土松克典をはじめ、連続して朝鮮発の論評、日本の各界人士の連帯の声を掲載している)。
 安倍政権は、朝鮮が南北朝鮮、朝米、朝中の外交へと進み出たことについて、日本政府を先頭とする朝鮮への経済制裁が効いたからだと宣伝している。しかしわたしは、そうではないと思う。
 「東アジア貿易研究会」が『東アジア経済情報』という雑誌を出しているが、その二月号で朝鮮のいまの経済状態について特集している。そこには「東洋経済新報社」の記者が朝鮮に行って朝鮮の経済関係の学者にインタビューしている記事や、韓国や中国発の貿易統計をとって朝鮮の経済をみている論文など五、六編が載せてある。去年のJETROの年間報告も、朝鮮の情勢については「東アジア貿易研究会」が担当していた。制裁がどういう風にかかっているのか、あるいはかかっていないのか、朝鮮ではそれをどうやって切り抜けようとしているのか。石炭から石油燃料を作る技術もふくめ、いろいろなことが試みられている。それらをマスコミは報じない。朝鮮が自国ですべて生産でき、対応できるということはないだろうが、朝鮮が必死に対策をとっていることがわかる。執筆している日本の四~五人の学者の見解では、「制裁では朝鮮は倒れない」という考えで共通していた。
 四月一日から米韓合同軍事演習「フォール・イーグル」が行なわれた。約一か月間に短縮され、空母の派遣などもなくなっている。やはりこの間の状況を反映して、軍事演習も少しは縮小されているようだ。ただ、佐世保基地を事実上の母港とする強襲揚陸艦「ワプス」が参加している。最新ステルス戦闘機を搭載した「空母」だ。日本も米韓軍事演習に完全に組み込まれた形で行動している。「あらゆる手段がテーブルの上に置かれている」ということで、戦争も辞さずということを言う人がいる。しかし実際には韓国には二〇万人もの米国人がいる。日本人は六万人ぐらい、中国人も八〇万人とか、一〇〇万人いると言われている。働きに行っている中国の朝鮮族の人もだいぶいるからだ。戦争が起きると難民が朝鮮で大量発生するということだけが宣伝されているが、戦争になったら中国も黙っていられない。自国民の問題がある。それは米国についてもそうだ。その人たちの安全を考えないで戦争はできない。朝鮮の防衛力はイラクやリビア、そしてシリアとは格段の違いがある。
 米ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院の朝鮮分析サイト「38ノース」の分析によれば、核戦争となれば、二〇〇万以上の人がソウルと東京で死ぬことになる。それぐらいの犠牲が出る戦争になる。朝鮮が核で反撃した場合、最大で二一〇万人が死亡、七七〇万人が負傷する恐れがあると指摘している。クリントン時代の九四年の朝鮮半島核戦争危機のときは、在韓駐留米軍司令部が、戦争が起きれば最初の九〇日間で米軍の死者が約五万人、韓国軍は約四九万人、総計死者一〇〇万人、経済損失は一兆ドルにのぼるとの試算を提出している。その時の米国防長官であったウィリアム‐ペリーは、一七年十一月の『朝日』のインタビューで「犠牲は甚大で、九四年と桁違いの被害をもたらします。北朝鮮への先制攻撃は実行可能とは思えません」「戦争は日本にも波及し、核(戦争)になれば、その被害は(韓国にとって)朝鮮戦争の一〇倍に、(日本にとって)第二次世界大戦での犠牲者数に匹敵する大きさになります」と述べている。米軍が介入した五〇~五三年の朝鮮戦争の犠牲者は南北で二五〇万人、米軍と中国軍の死者は推定で三万六五〇〇人と六万人とも言われる。日本のアジア・太平洋戦での犠牲者は三一〇万人。もし朝米がいま戦争すれば、その規模は第二次大戦の被害規模を上回るとのドイツ外相の想定もある。

●残虐きわまりない朝鮮戦争での米軍の蛮行
 「米国で暮らす人びとのほとんどが知らないこと──中でも世界平和に対する共和国の脅威が声高に叫ばれるときとりわけ言及されないこと──は、一九五〇年代に米国が主導した空爆により朝鮮民主主義人民共和国国民の三〇%が亡くなったという事実である。米軍の情報によると、重点爆撃が行なわれた三つの時期に共和国が三〇%もの人口を失ったことが確認されている。カーチス‐ルメイ将軍※ はこう語っている。
 『われわれは共和国の七八都市と数千の村落を破壊するとともに市民を次々に殺戮した結果、三年強の間に同国の人口のほぼ二〇%(現在はこの数字は三〇%と確認されている)が消失した。』/いまでは、不当に分断されたままの三八度線の北側においては、一九五〇~五三年の三七か月に及ぶ『熱い』戦争のあいだに人口の三分の一にあたる八〇〇万~九〇〇万人が亡くなったと推計されている。これは、他国からの攻撃で被った一国の死者数の比率としては類のない多さであろう」(リチャード‐ローズ著『将軍と第三次世界大戦』「ニューヨーカー」一九九五年六月十九日 五三頁より引用)。
 「朝鮮戦争中に共和国で暮らすすべての家族が、少なくともひとりは最愛の存在を失ったのである。第二次世界大戦において他国が被った損失と対照するべきである。人口比において英国は〇・九四%、フランスは一・三五%、中国は一・八九%、そして米国は〇・三二%である。共和国は朝鮮戦争で人口の三〇%を失ったのである」(『グローバル・リサーチ』ミシェル‐チョスドフスキー「朝鮮民主主義人民共和国と核戦争の危険――和平計画の実現に向けて」二〇一七年十一月三十日付より)。なおこの論文は『社会評論』一九三号・八月末刊に三五ページの分量で掲載する予定である。
 ※カーチス‐ルメイはアジア・太平洋戦争で一〇万人の犠牲者を出した一九四五年三月十日の東京大空襲を行なった部隊の指揮官だったが、日本の航空自衛隊育成に協力があったとして、一九六四年、最高位の勲一等旭日大綬章を授与されている。
 朝鮮戦争はいまも休戦状態にある。日本は朝鮮「国連軍」と地位協定を結んでいて、いまでもキャンプ座間、横須賀海軍基地、佐世保海軍基地、横田基地、嘉手納、普天間、ホワイトビーチの七か所の施設(正面入口に「国連」旗が掲げられている)が使用できるようになっており、在日米軍以外にも、朝鮮「国連軍」が使えるようになっている。日本は朝鮮戦争の枠の中に完全に組み込まれている。

●朝鮮の核、ICBMを考える
 わたしの考えでは、核兵器で核を迎え撃つということは、先の数字から言っても、常識で考えればできない話である。しかし、米国による度重なる核攻撃の脅しのなかで、朝鮮には米国による核を使った攻撃をさせないための核兵器の保持が求められた。そういうものとしての朝鮮の核ということを国際政治学者の浅井基文さんが言っている。つまり朝鮮は攻撃能力を持っているが、それを使った瞬間、米軍の報復で国は崩壊する。それが分かっているから朝鮮が自ら攻撃を仕掛けるはずがない。浅井さんはそうした意味で、朝鮮の核は「脅威」ではないというのが軍事的常識だと言っている。朝鮮は十一月二十九日に、米国本土にまで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の発射に成功したと発表した。
 それを受けて金正恩朝鮮労働党委員長・国務委員長は「国家核戦力完成の歴史的大業」を果たしたと宣言した。攻撃されたら反撃する力をもったから、もう攻撃されない。したがって、休戦協定を平和協定に変えて、米国との正常な関係をつくる。その上で朝鮮半島から核兵器をなくすという話であれば「非核化」の交渉もやる、ということになったのだろう。
 米国も日本も「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」(CVID)ということを言っている。日本軍「慰安婦」問題でも失敗しているのに、またぞろ安倍政権は「不可逆的」という言葉を持ち出している。不可逆的な核廃棄というのは、「リビア方式」と言われる。徹底的に査察をして、核兵器の原料をアメリカにまで持っていって解体している。朝鮮にそういうことをやれと言っても、多分そうはならないだろう。
 リビアとは核の開発段階が違う。朝鮮が言っているように段階的な廃絶プロセスということになるだろう。
 それにしても、非常に厳しい交渉がつづくと思う。ただ、金正恩朝鮮労働党委員長・国務委員長の新年の辞からの「平和攻勢」というのは、自主的平和統一という建国以来の朝鮮の一貫した政策の延長線上にあるものであって、それがいま、結実しようとしているのだとわたしは思っている。それに対して安倍政権は「制裁の成果」だと言ってみたり、「もっと制裁を強めろ」と言ってみたり、河野外相に至っては朝鮮と外交関係を持つ一六〇か国に「国交断絶」を求め(これを戦争挑発・宣戦布告と言わずになんと言おう)てみたり、麻生は「武装難民が来たら射殺するのか」と発言したり、常軌を逸したデタラメな発言をくり返している。
 やつらはいつも「国際社会」云々と言っているが、自分たちがホントに「国際社会」で受け入れられていると思っているのか。日本ではそう報道されているが、富山栄子さんや朝鮮問題ジャーナリストの李東埼さんが言うように、国際社会はどちらが正しいかをきちんとわかっているし、朝鮮の言い分を理解している。それを知らない、知らされていないのは、われわれ日本国民と先進資本主義国のメディアに毒された“民主主義的”国民だけだ。こうした観点から、問題を考えていく必要がある。
 また韓国民衆はキャンドルデモの力で、朴槿恵を懲役二四年に追い込んだ。李明博も起訴された。日本の新聞は、韓国は報復社会で、前政権の追及ばっかりやっているなどと言っているが、そうではなくて、不正を働いた政治権力に責任を取らせる力が民衆にあるのだ。そこには反植民地闘争と民主化闘争の歴史が、脈々と流れている。二〇一四年四月のセウォル号事件の遺族の座り込みや、民主労総の闘いという基盤があって、朴槿惠を引きずりおろすことができたのだ。一〇〇万人を超える人たちのロウソクデモがそれを可能にした。しかし残念ながら、日本のわれわれの運動は、歴史的にもこんにち的にも、不正事件に対してきちんとしたけじめをつけることができていない。それには、第二次大戦で日本が敗北したにもかかわらず、戦争の最高責任者の天皇の責任を明らかにし、天皇制を清算できなかったことが大きな原因としてある。
 それにしても朝鮮半島で同じ言葉を話す二五〇〇万人と五一〇〇万人が、北では金正恩氏、南では民主化勢力が押し出した文在寅氏を先頭に分断をのりこえ協力しようとしている。中国にはすでに遠く引き離された。ロシアでも二〇二四年までプーチン大統領の長期政権がつづく。朝鮮のリーダーはまだ三〇代だ。アジアの盟主を自認していた(そしていまもそれを夢想している)日本のブルジョワ支配階級と右翼民族主義者の危機感は、否が応でも増大せざるを得ない。習近平氏と金正恩氏が三度にわたって会談したが、国と国の関係だけでなく、朝鮮と中国の党と党の関係にも注目しておく必要がある。

日本の状況 ――階級対立を明確に意識した政策

●労働者の利益を切り捨てる金持ち優遇策のオンパレード

 一月二十六日、財務省は日本の国債の発行残高が今後一〇年で二〇〇兆円増え、二〇二七年度末時点で一〇四五兆五六〇〇億円に達するとの試算を出した。国債や借入金、政府短期証券を合わせた国の借金総額はすでに一〇〇〇兆円を超え、昨年九月末時点で一〇八〇兆四四〇五億円となっている。国債費は過去に国債を発行して積み上げてきた借金の返済や利払いの合計だが、二〇一八年度予算案では総額九七兆七一二八億円のうち二三兆三〇二〇億円が国債費(借金と利子の返済分)。なんと歳出総額の二三・八%にのぼる。いっぽう法人税の実効税率は現行二九・九七%を段階的に引き下げ、二〇%台前半にする方向。ちなみに一四年度は三四・六二%だった。所得税の累進課税もどんどん緩和してきている。まさに金持ち優遇政策のオンパレードだ。
 反対に実質賃金、労働分配率は下がり続けている。企業の「内部留保」は四年で一〇〇兆円増加して、四〇〇兆円を超えた。労働分配率はアベノミクスが始まる前の二〇一二年度には七二・三%だったが、毎年低下を続け、二〇一五年度は六七・五%にまで低下した。
 二〇一九年十月に一〇%の消費税増税が控えている。しかし消費税を一〇%に上げたところで、少子高齢化社会の急進展で社会保障費が足りないということになれば、もっと上げなければならないと言っている。当てにならない試算ばかりが出てくるが、すでに二〇%、二五%という数字が出ている。大企業・金持ちたちの税金は減らし、労働者人民から金を巻き上げるというやり方は、露骨そのものだ。
 また日銀は、五月一日、消費税を一〇%へ引き上げた場合、家計負担が二兆二〇〇〇億円増えるとの試算を出した。

●日本帝国主義・金利生活者国家の実像
 国内に有望な投資先がない。日本の政府や企業、個人投資家が海外に持つ対外資産残高が初めて一〇〇〇兆円を突破した。日本の対外純資産残高(資産から負債を差し引いた額)は三二八兆円で第一位。日本に次いで純資産残高が多かったのはドイツ(二六一兆円)、三位は中国で二〇五兆円。
 二月八日の財務省の発表によると、海外とのモノやサービス貿易、投資の取引状況を示す経常収支の黒字額は前年比七・五%増の二一兆八七四二億円。企業が海外子会社から得る利潤や利子、配当(第一次所得収支)の黒字額は一九兆七三九七億円。訪日外国人が日本で使う金も増大している。日本帝国主義は金利生活者国家化している。
 先にわたしはレーニンの帝国主義のとらえ方を述べたが、とくに帝国主義の下に発生する問題でいえば、植民地超過利潤とか、労働運動の日和見主義、労働貴族という問題が出てくる。そういった問題がこんにちの状況下で、世界で、日本で、どういう風に現われているのか正確にみていく必要がある。
 厚労省が二〇一七年十二月に発表した日本の労働組合の組織率は一七・一%、組合員は九九八万人(雇用者数は約五八〇〇万人)。なお総務省統計局の一八年五月の発表では、役職をのぞく雇用者数は五五四〇万人。そのうち非正規雇用は二一一七万人で、雇用労働者全体の三八%を超える。
 いま、労働組合運動がほとんど社会的影響力を発揮できない状況になっている。組織はいくつもあるけれど、本当の階級的基盤を再構築して、総資本と対決するような闘いができる方向がとられてない。このことが日本の労働者階級のもっとも大きな問題だ。

●矛盾を労働者に転嫁するためのウソ
 安倍はいつも、自分が首相になってからGDPが上がったとか、失業率が改善したとか自慢しているが、GDPも途中から統計のとり方を変えて増やしているだけで、実際は五〇〇兆円前後でほとんど変わらない。それどころか最近は逆に減っている。一八年一~三月期は〇・六%減、九四半期ぶりのマイナス。いずれにしても安倍政権に対する批判を、理念だけではなく、具体的な数字と実態を示して、まわりの労働者にわかりやすく説明していく力を、われわれは持たなければならない。
 この問題は『アベノミクスによろしく』(明石順平著、二〇一七)が、図表などを使って、アベノミクスがいかにインチキかをわかりやすく述べている。われわれもそういう説明の仕方を学び、工夫する必要がある。
 また『新・日本の階級社会』(橋本健二著、二〇一八)も、マスコミや運動体の機関紙誌でさかんにとりあげられている。こちらは社会学の手法で日本社会を分析するもので、支配階級の政策にも受け容れられる要素が多分にあるが、九〇〇万人を超える非正規労働者からなる下層階級、アンダークラスの存在を指摘し、耳目を集めている。しかしこの二つの著作は、ともに「民主党」支持という点で共通している。これも日本社会のこんにちのイデオロギー状況を示す事例の一つだろう。

●意識的・計画的に改憲ファシズム立法を推進する安倍政権
 安倍は二〇二〇年までに明文改憲をやりたいと言ってきた。しかし最近の連続する不正・隠蔽・インチキ・情実事件等の発覚で、九月の自民党総裁選での安倍の三選もどうなるかわからない状態があった(本稿執筆の八月六日現在、この状況は安倍たち「すっとぼけた者勝ち」となり、安倍の総裁選三選は確実視されている。わたしたちはこの問題を、安倍政権の根幹まで論理と実践で批判し、追及し尽くすことができなかった。この観点からの真剣な総括が必要だ)。
 森友・加計事件、陸上自衛隊のイラク派遣・南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠しや、「働き方改革」でのデータ改ざん、セクハラ問題等で次から次へと問題が出てきて国会と政治家、官僚をめぐる状況が四六時中ゴタゴタしている。そしてそれを連日、全マスコミがとりあげる。しかしそうしてゴタゴタがつづいているうちに事態がドンドン進んでいく。七月二十二日の国会閉会までに「働き方改革法案」や「IR法案」も通り、安倍も麻生も逃げ切り、後は夏休み、秋の臨時国会でまた仕切り直し、という事態も大いにあり得る(六月末時点での認識)。いま日本の労働者階級には「働き方改革」に反対するだけではなくて、「闘い方改革」が求められている。そうした危機感と緊張感をもって活動しなければならない。
 憲法学者にも協力してもらって、憲法九条二項新設のねらいを、その問題点はどこにあるのかを、安倍たちは何をごまかして何をしようとしているのか、を暴く必要がある。「日本会議」や「美しい日本の憲法をつくる国民の会」などは、自衛隊を〝国民の八割はいいと言っているのに、あなたたちは憲法違反と頑張るのですか〟〝 あなたたちは、自衛隊が憲法違反だということでいいのですね〟という形で攻撃をしかけてきている。支配階級は、「リベラル」派の世論まかせといった弱点や、シングルイシューに立脚した相互批判のなさにつけこみ、運動を分断している。それに対して「リベラル」派の多くが「すでに自衛隊は実態としてあるのだから、憲法に書く必要はない」という防戦一方の反論になっている。そうではなくて、アジア・太平洋戦争の反省、憲法の前文からしても、やはり自衛隊は違憲なのである。九条の持つ意味をわれわれ自身がもっと血肉化して運動をしていかないと、足元をすくわれる危険性がある。
 立憲民主党の枝野代表自身は改憲論者であることを隠さない。「九条は現実に適応していない」というのが枝野氏の前まえからの考えで、「リベラル」派の大多数は「安倍政権の下での改憲に反対」なのであって、安倍が退場した後はどうなるかはわからない。われわれは、改憲反対の共同の闘いに積極的に加わる。そしてそのなかで、九条の改悪に反対という姿勢をはっきりと示してゆこう。

われわれが取り組む課題

 安倍は第一次政権のときに教育基本法の改悪をやり、防衛庁の防衛省への格上げをやって、改憲国民投票法を制定した。
 そのあと、二〇一三年には国家安全保障会議(日本版NSC)、特定秘密保護法、二〇一四年=集団的自衛権行使容認の閣議決定、二〇一五年=安保法制、二〇一七年=共謀罪という、一連の憲法違反のファシズム立法を強行採決で作ってきた。それを一つ一つ止められなかった日本の労働者階級人民の闘いの弱さが、安倍らの改憲、ファシズム立法の意識的・計画的積み上げを許している。

●改憲反対、沖縄の反基地闘争、反原発の闘いを
 日本社会の全局面にわたる反動化が推進されている。自民党・安倍政権による明文改憲への強烈な志向。日米同盟強化一本槍、沖縄への米軍基地の強要、南西諸島への自衛隊常駐化。三月二十七日~二十八日の天皇の沖縄・与那国訪問はその露払いとしてあった。安倍政権と天皇は対立しているどころか、一体化して日本の反動化路線を進めている。
 原発再稼働反対はいまも闘われているが、日米原子力協定についてはほとんど闘いらしい闘いができず、自然延長させてしまった。そういうなかで、沖縄では翁長知事が七月二十七日に辺野古埋め立て承認を撤回する手続きを宣言した。これに対して政府は法的手段を講じて撤回の効力を失わせる構えで、十一月の知事選に向けて沖縄の闘いは激しさを増していく。沖縄県民の闘いを孤立させてはならない。われわれは、日米政府の強権にひるまず、あきらめることなく連帯の闘いをつづけよう。

●イデオロギー闘争の重要性
 明治維新を前後して、「尊王攘夷」が言われたが、いつの間にか「尊王入欧」というような状態になった。「尊皇攘夷」と言っていた当人たちがそうなった。資本主義化・帝国主義化と封建的天皇制・軍国主義が並立した。支配階級の政策はそういう矛盾した面を合わせもっている。いろいろな局面でそれを使い分けている。
 国体、萬世一系の天皇、神聖にして侵すべからず。天皇の軍隊。明治以降これが支配階級のイデオロギー注入政策の柱として強力に展開された。それが、敗戦になっても象徴天皇制となって継承され、国体は護持された。GHQは民主化もやったが、天皇制を利用した。その功罪は非常に大きい。日本国憲法の一条と九条、また沖縄との関係は、古関彰一さんも指摘されるように、矛盾しているが、それがいまはそのまま常識的に通用するようになっている。もっと言えば、「鬼畜米英」から「日米同盟」への転身。安倍にいたっては日米は一〇〇%一致していると言ったりしている。安倍は右翼的な思想(日本会議・神社本庁)はずっと保持している。しかしそれと「日米同盟が根本」であるということが両立するのだ。
 象徴天皇と「平和日本」との共存ということが、敗戦後ずっと言われてきた。この問題は朝鮮の研究者からも厳しく指摘されるが、日本の平和運動の弱点がここに明確に表われている。それに対する応答が「リベラル」と言われる人たちの中からはほとんど出てこないのが現状だ。
 すでに紙幅が尽きた。われわれの前に困難が山積みになっていることは百も承知だ。しかし、われわれが運動に参加するときにわれわれ自身が選び取った規約は、その冒頭で「わが集団は社会主義をめざす労働者階級の前衛たらんとする活動家の組織体である」と規定し、集団の基本的性格を、「一、労働者階級の政治勢力の一翼を担うべく、みずからを前衛的活動体として鍛えあげ、この運動をとおして、日本における国際的プロレタリアートの前衛党再生のために力を傾ける。われわれの行動指針はマルクス=レーニン主義である」と明記している。われわれはもう一度、この規約を確認し、第五〇年度の活動に踏み出そう。

(『思想運動』1027号 2018年8月1日-15日号