「3・11」以前に逆戻りの岸田政権
重大事故を準備する国策原発を許さない!


新たな金づるGX
 
 岸田内閣が六月七日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2022」では五つ重点投資分野が挙げられている。その一つが、官民連携で脱炭素社会の実現に取り組む「グリーントランスフォーメーション(GX)」への投資である。一五〇兆円超の官民投資に向けたカーボンプライシング構想とかGX経済移行債(仮称)とかを検討しているようだ。要は巨額マネーが動くことが目的と窺える。
 政府は七月二十七日にGX実行会議(議長:岸田文雄首相)を発足させた。実行会議は、関係閣僚と業界識者一三名(連合会長の芳野友子氏もメンバー)で構成される。東電福島第一原発事故後の「脱原発」の流れを反転させ、「原発ルネサンス」の再来をめざしている。脱炭素を謳う工程表を年内にまとめるとした。
 八月二十四日の第二回GX実行会議で、岸田首相は原子力に関して、再稼働への関係者の総力結集、運転期間の延長など既設原発の最大限活用、次世代革新炉の開発・建設などの検討をするよう指示した。ウクライナ危機を口実に「電力逼迫・原発必要」と叫び、この一〇年貯えてきた財界の要望に応えて政権安泰を得ようとしている。岸田の「聞く力」は財界のために発揮される。
 次世代原発(革新軽水炉、小型モジュール炉、高温ガス炉、高速炉、核融合炉)は開発途上で実用化まで少なくとも二〇から五〇年かかる見込みで、その間の研究開発費が出続けることが開発者にとって都合がよいのだ。
 これまで原子力行政は、科学技術を装って人びとを欺き、一貫して民意無視、過酷事故を起こせば被害者を踏みにじってきた。原子力推進側は国策をいいことに、税金や電気料金という財源を潤沢に使える原発・核燃料サイクル事業を絶対に手放したくないだろうし、次世代原発の新増設には飛びつきたいだろう。
 政府は次の過酷事故が起きても、福島第一のように一〇年もすれば下火になると踏んでいるのだろう。
 
核のゴミをどうするのか
 
 原発行政で最大の無責任は、放射性廃棄物問題だ。「トイレなきマンション」、「一〇万年のお守り」と言われて久しいが、一ミリも解決していないどころか、状況は悪化の一途だ。
 福島第一の収束・廃炉作業で発生する放射性廃棄物は莫大な量である。これ以上の放射性廃棄物の増加を極力抑えなければならない。政府は原発の使用済燃料は再処理して使うので資源とみなすとしているが、再処理工場の稼働は技術的に困難で、もしできても再処理工程で膨大な放射性廃棄物が発生する。原発・核燃料サイクル路線を放棄し、これ以上の原発稼働をやめ、核のゴミを増やさないことが現世代の責任である。問題を先送りして逃げ切ろうというのは卑怯だ。始末に負えない危険物の増大を放置し、未来世代に押しつけてはいけない。

「国が前面に」とは

 岸田首相は、これまでに再稼働した原発一〇基(美浜三号、高浜三号・四号、大飯三号・四号、伊方三号、玄海三号・四号、川内一号・二号)に加え、原子力規制委員会の審査を通った七基(東海第二、女川二号、柏崎刈羽六号・七号、高浜一号・二号、島根二号)も来年夏以降に再稼働させる方針を示した。さっそく東電は、不祥事が相次いだ柏崎刈羽七号の再稼働時期を来年七月と表明した。
 第六次エネルギー基本計画では発電量の二〇~二二%を原発でまかなう方針だが、そのためには一七基では足りず、審査中の八基(敦賀二号、泊一~三号、東通一号、浜岡三・四号、志賀二号)も再稼働する必要がある。そのため、政府は何が何でも再稼働なのだろう。しかし、具体的にどうするのかは示されていない。明らかにできない裏手法を使うのか。独立性の高い三条委員会である規制委の審査に政府が介入してスピードアップを図る(規制を緩める?)とかであろうか。電力会社が地元同意を得られるように「地元の理解を得ることにも国が前面に立って取り組んでいきたい」とのことだが、たいへん危うい。
 原発事故の避難計画作成は原発から三〇キロ圏内の自治体の義務であり、避難計画がなければ再稼働は認められない。実効性のある避難計画の策定は実際はきわめて困難だが、国に避難計画を審査する仕組みはなく、再稼働を優先する政府にとっては、まともな避難計画でなくても構わないので「計画がありさえすればばいい」と策定を促しているのだろう。
 二〇二一年三月の水戸地裁判決では「避難計画やそれを実行する体制が整えられているというにはほど遠い状態で、防災体制は極めて不十分」だとして、東海第二原発の運転差し止めを命じた。判決を重視して、避難計画を審査する仕組みをつくらせる必要がある。

運転延長・新増設に反対!

 原発の運転期間は、原子炉等規制法で四〇年、一回に限り、二〇年を超えない期間延長することができるとされている。現在、四〇年を超え二〇年運転延長が認可された原発は四基(高浜一・二号、美浜三号、東海第二)である。
 政府は既設原発の運転延長のあり方(最長六〇年を延ばす案、審査で停止した時間を運転期間から除外する案など)の検討に着手した。
 もし、四〇年を超える老朽原発の運転と原発新設を阻止すれば、二〇四九年に全国から稼働する原発がなくなる。政府は国策原発をやめて、節電を国策にしろ!
                                                       【中村泰子】

(『思想運動』1081号 2022年10月1日号