〈活動家集団 思想運動〉第57年度総会報告(国内情勢部分)
帝国主義の軍事的再編のなかの参政党の台頭

インターナショナリズムの視点からファシズムとの対決を

以下は、7月19日、20日に開催された〈活動家集団 思想運動〉第57年度総会で大村歳一が行なった情勢報告の後半部分、国内情勢を論じた部分である。報告前半の国際情勢の部分は本紙12面~15面に掲載した。国内問題を前に出したのは、先の参院選での参政党の急伸にも示された日本におけるファッショ化の危険性を主に論じているからである。【編集部】

(1)日本と東アジアにおける軍事同盟のネットワークの強化

国内情勢を把握するうえでも、経済的衰退を軍事的な優位で相殺しようとする帝国主義の全体戦略のなかで、日本の支配階級がみずからの長期的利益を追求しつつ東アジアにおける軍事的エスカレーションの準備を進めているということとの関係から見ていかなければならない、と思います。トランプ政権と石破政権の関係にしても、他の「G7」諸国と同様の問題を日本の資本主義も抱えておりそこに支配階級の危機意識もあるという事実【資料5】を背景にして、一貫して日米両軍の再編が進められている事実をより重視してとらえる必要があるのではないでしょうか。日本政府は3月24日に陸海空軍および宇宙・サイバー・電磁波の領域部隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」(JJOC)を防衛省内に発足させたのですが、その数日後の3月30日に日米防衛相会談後の共同会見でトランプ政権の国防長官ピート‐ヘグセスは、元々ハワイのインド太平洋軍司令部に指揮権のある在日アメリカ軍を再編成して別個に作戦指揮の権限をもつ「統合軍司令部」を設置する方針の「第一段階」を開始したと発表されました。つまり、ハワイと日本のあいだには距離や時差があり、いわゆる「有事」の際に日本軍とアメリカ軍が円滑に連携するには在日アメリカ軍司令部の指揮権を強化する必要がある、というわけです。その際に、ヘグセスは「日本を戦闘司令部に変えつつある」と述べていますが、これは、2000年代後半の金融危機でダメージを受けなかった中国の経済的台頭に対してオバマ政権後期における「アジアへの回帰」(pivot to Asia)ないしは「アジアへのリバランス」に始まり、第一次トランプ政権、バイデン政権、第二次トランプ政権と政権の交代がありながらも一貫・継続してアメリカのイニシアティブで行なわれている帝国主義の再編過程のなかで進んできたのです。そして、日本政府は、安倍政権・菅政権・岸田政権・石破政権のいずれにおいても、「帝国主義の一元支配」維持のために、アメリカを中心とするこの完全な軍事ブロックとしての帝国主義諸国の内部統合の一翼を積極的に担ってきました。日本政府もまた中国を「最大の戦略的課題」とまで位置づけ、ノルドストリーム2の破壊を容認したドイツ同様に、中国との関係から得られる短期的・中期的な利益を犠牲にしてでも長期的な利益を追求する姿勢を鮮明にしているのです。
事実、この統合を可能にするために日本政府はさまざまな措置を積極的に行なっていて、集団的自衛権行使容認の閣議決定、「自由で開かれたインド太平洋戦略」発表、軍事費のGDP比2%への引き上げ、敵基地攻撃能力の保有を明記する「安保三文書」の閣議決定、防衛装備移転三原則運用指針の改定から、秘密保護法や共謀罪、安保法制、デジタル監視法、重要土地規制法、経済安全保障法、軍拡予算確保法、軍需産業強化法、経済秘密保護法といった法整備まで、これらの施策はそうした措置の一環として行なわれました。今回の統合司令部構想にしても、これらの体制整備と並行して年々強化される日米合同軍事演習の延長線上で行なわれた昨年2月の日米共同統合図上訓練「キーン・エッジ」、10月の過去最大規模の実動訓練である「キーン・ソード25」ですでに演習の段階に入っていたものです。また、NATOとの関係では「日・NATO国別適合パートナーシップ計画」に合意し、首脳会談に参加しています。NATOはいわゆる「グローバルNATO」として、2022年に「ロシアのウクライナ戦争、世界の勢力均衡の変化と中国の台頭、朝鮮半島の安全保障状況など、ますます複雑化する世界の安全保障環境に対処するには、この地域のパートナーとの協力が鍵となる」という戦略概念を定めたのですが、そのNATOと日米軍事同盟の連結が進行しています。いまでは、環太平洋合同演習のみならず、西ヨーロッパのNATO諸国との合同軍事演習が個別に東アジアで展開されており、今年になってからもアメリカ・フランス・日本の枠組みでの初の軍事演習がフィリピン海で敢行されました。また、2023年の米韓日のキャンプ・デービッドにおける合意で、朝鮮・中国・ロシアを標的とする事実上の日・韓・米の軍事同盟(JAKUS)が成立しています。このJAKUSについては、韓国の尹錫悦から李在明への大統領交代後にも、朝鮮半島周辺で朝鮮民主主義人民共和国を標的とした軍事演習を続けている点に注意が必要でしょう。これに加えてオーストラリア・イギリス・アメリカのAUKUSやオーストラリア・インド・日本・アメリカのQUADといったブロックが形成されつつあり、そこに台湾も含めて、これらを統合するかたちで東アジアにおける帝国主義の軍事的な再編が行なわれている、と言うことができます。

(2)帝国主義による情報戦略・意識操作の役割

そして、日本の労働者階級・人民諸階層の動向を帝国主義の再編過程に統合しているのが、他の「G7」諸国と同様に、帝国主義の情報戦略であり、意識操作にほかなりません。6月に外務省が発表した2025年の『外交青書』でも「情報操作などを通じた認知領域における情報戦」の存在が非常に強調されていますが、支配階級はこの分野での攻勢をいっそう強めているのです。この情報戦略・意識操作が相当な成功を収めてしまっているという事実は、たとえば、「中国による弾道ミサイル発射に強く抗議する談話」(2022年8月5日)や「北朝鮮による弾道ミサイル発射に強く抗議する談話」(2023年6月16日)という声明を事態の翌日に猛々しく発表し、「ロシアのウクライナ軍事侵攻に対する談話」(2022年2月24日)を当日に公表してその後迅速にカンパ活動を大々的に展開しながらも、パレスチナ・ガザでのイスラエルの蛮行に際しては「中東の人道危機に対する談話」(2023年11月15日)と題したシオニストの犯罪にいっさい触れない曖昧な声明を一か月以上遅れて発表するだけであるという、連合幹部の無残と言っていい姿に典型的に示されている、と思います。あるいは、本来であればこの流れに抗う一本の杭であるべき日本共産党がホームページの「共産党ってこんな政党――あなたに知ってほしい5バリュー」欄のひとつに「中国の覇権主義をどうする?」をわざわざ設けて東アジアにおける軍事的緊張の原因について誤った問いの立て方をして言及するそのみじめな姿に示されているのではないでしょうか。それは、政治的プラグマティズムによっていわゆる「権威主義国家」嫌悪の大衆意識状況への迎合を重ねた結果ですが、元々その意識状況そのものが多かれ少なかれ帝国主義の「認知領域における情報戦」で形成されてきたものです。そこでは、新聞・雑誌・書籍・映画・ラジオ・テレビ・インターネットといった近現代の技術が生みだした諸媒体がフルに活用され、大衆の思考や世界観、判断のみならず、感情の持ち方までをも帝国主義の利害と一致する方向に規制しようと試みられています。それから「自分たちだけが紛争の現実に分析を提示することができるのだ」といった印象を聴衆に振り撒きながら話す「専門家」の役割もあります。もちろん、かれらの主観的な意図は知るところではありませんが、その客観的な機能が人びとを諸々の事態の歴史的経緯から遠ざけ、現在の戦争体制に統合することにあるということはウクライナ事態以降にメディアに頻繁に登場するようになった「国際政治学者」や「安全保障専門家」を見れば明らかでしょう。
いずれにしても、現在の帝国主義の東アジア戦略に人びとを統合するために諸媒体で振り撒かれるイデオロギーとしては、「ルールに基づく国際秩序」「朝鮮や中国の脅威」「台湾有事は日本有事」「権威主義国家VS民主主義国家」といったものはもとより、「人権外交」「国際貢献」というもの、誤った方向で「日本批判」を展開する「弱腰外交」「デジタル安保で遅れている」「戦後の自国中心主義的なエゴイズム」といったもの、それから「その国の政府ではなく人民を支持する」や「今の中国は昔の日本」、「今の中国を見れば、マルクスやエンゲルスは『こんな社会は共産社会ではない』と泣いて悲しむであろう」といった新左翼崩れにも滲透するものをはじめ、直接この問題にかかわる諸イデオロギーとその役割のより詳細で具体的な解明と逐一の批判が今後必要です。わたしたちの階級意識(労働者階級による歴史的な使命の自覚)の形成のための大衆的思想運動が思想的な真空状態での純粋培養としては実現されない以上、この情報戦略・意識操作の諸相を正確にとらえることなしには、これを有効に展開することもできません。具体的な政治イデオロギー状況のなかで、それと批判的に切り結ぶかたちで、この運動は展開されるほかないわけです。あるいは、そうしたイデオロギー状況を対象化できなければ、わたしたち自身が、知らず知らずのうちに反動的なイデオロギー状況を補完する部分になり果てていた、ということにもなりかねないのです。たとえば、最後にあげた中国に関するものは日本版NSC(国家安全保障会議)元次長である兼原信克の著書『日本の対中大戦略』において「中国の脅威」を煽る文脈で書かれた言葉からの抜き書きなのですが、こうした言説が帝国主義の中国に対するエスカレーションに人びとを統合するために動員されていることとの関係で、日本のコミュニストやリベラリストが中国に関する自己の言説を対象化しえているかどうか、その点が問われなければなりません。

(3)ファシスト政党としての参政党の危険性

そして、現在の国内政治情勢をとらえるうえで忘れてはならないのは、一部の世論調査ではすでに野党のなかで支持率トップに立っている参政党の台頭の問題ですが、わたしたちはその危険性をけっして矮小化したり過小評価したりしてはならない、と考えています。参政党の政策文書や国会質疑を確認したうえで言いうるのは、現在の自民党政権下で行なわれている軍事力の増大と軍事同盟のネットワークの強化および中国を主要な標的にした「認知領域における情報戦」をいっそう過激に展開しようとする勢力として、これが登場しているという事実です。
参政党の『参政党の政策2025』という文書における「国防・外交」の項目では、「①日本の防衛力、②日米同盟、③国際連帯の三本柱で進める」「自由で開かれたインド太平洋を日本の地政学的戦略の中軸に据え、この地域を魅力ある繁栄と安全保障のプラットフォームへと育てる」「人権侵害や法の支配を破壊する(力による一方的な現状変更を試みる)国家に対しては、日本の地政学的状況と国益を踏まえて毅然とした対応をとる」とこれまで日本政府が進めてきた方向が確認されると同時に、「今の国際社会では、認知領域や経済領域、サイバー領域など非軍事面を含む、あらゆる領域へ侵略、攻撃する『超限戦争』から先手防衛し相手国の軍事行動を抑止する必要がある」と言いつつ、「サイバーセキュリティの強化、メディアリテラシー教育の推進、偽情報の迅速な検知と対策、国際的な情報共有と協力体制の構築」が強調されているのです。そのための措置として、参政党は、「先手を打つ危機対策の実現のため、インテリジェンス(諜報・防諜)能力を世界トップレベルまで引き上げる」「繰り返される情報戦(事実に基づかない日本批判)、歴史戦(誤った歴史情報)に対して、オールジャパンで先手をとって正しい情報を発信する(カウンター・プロパガンダ)」「国民が偽情報やプロパガンダを識別できるように、教育機関や公共キャンペーンを通じて情報リテラシー教育を推進する」ということを言っています。そして、その延長線上に「国防・外交」の項目のなかで、「日本国内への外国からの静かなる滲透(サイレント・インベーション)を止める」ということが言われ、「外国人の受入れ数に制限をかける」「外国からの影響を制限するために、帰化及び永住権の要件の厳格化を行う」「外国人による重要な土地・森林・水源地・離島などの買収を止める」「デジタル分野で日本の主権と個人情報を守る」という政策が主張されているのです。
当然、偽りの情報を「偽情報」と言って広める人はおらず、ここで参政党は現在の国際情勢や歴史認識に関する誤った情報を「真実」として拡げるということを言っているのですが、重要なのは今年の『外交青書』でも強調されている「認知領域における情報戦」を強化しようとする志向がそこにあるということです。最近、参政党事務局長の神谷宗幣が石破政権に対して「日中『友好交流』を通じた地方自治体・青少年・メディア等に対する中国の統一戦線工作・影響力工作に関する質問主意書」(2025年4月21日)を提出したのは、現行の日本政府が進める「認知領域における情報戦」の分野での攻勢を右側からいっそう激化しようとする参政党の位置を示したものにほかなりません。それ以前に提出された3月26日の「『経営・管理』の在留資格を悪用した外国人移住の実態に関する質問主意書」でも、4月2日の「『高度専門職』外国人受入れと安全保障上の懸念に関する質問主意書」でも、4月8日の「中国の反スパイ法等に基づく日本人及び在日中国人の拘束事案に係る危機意識の喚起と政府対応に関する質問主意書」でも、参政党が一貫してその排外主義の最大の標的にしているのは中国人であり、しかもそれは現在の中国を標的とした帝国主義の再編過程の一環として主張されているのです。そして、これを参政党が「アメリカと同じように中国国籍者の入国制限や査証審査の厳格化をとるべきだ」という論理で主張する点にも注意が必要で、一部の知識人が両者の違いをことさらに言うのと違って、実際には、トランプの「アメリカファースト」と参政党の「日本人ファースト」は同じ戦略のなかで出てきた言葉なのです(参政党のウクライナ事態に関する反応も第二次政権成立直後のトランプの「逆キッシンジャー戦略」と軌を一にしていました)。参政党の主張は単なる客寄せのためのプロパガンダではありません。収支報告書を見ると収入の大半は個人寄付で特定の大きな支援団体等は見当たらないのですが、重要なのは、参政党が現在の帝国主義の完全な対中軍事ブロックとしての再編をより強硬に押し進めようとする勢力として台頭しているという事実です。その全体としての方針のなかに、参政党の外国人排斥の主張も存在しています。ただ、日本の運動およびそこで参照される知識人にこうした危機意識が稀薄で、参政党の危険性が矮小化され、その対決を鈍らせてしまう可能性があるのではないか、と危惧しています。
参政党の方向性は、アメリカにおけるトランプの「MAGA」と完全に照応しているわけですが、それは「G7」諸国全体に共通する国内産業の空洞化の問題を逆転させようとする「夢想」を抱いている、という点でも同様です。『参政党の政策2025』の「経済・財政・金融」という項目では、「現在は一部の富裕層による資産運用や投機に富が集中し、実際にモノやサービスを生み出し世の中を豊かにしている労働者や経営者には十分な見返りがない不公平感が強い社会となっている。金融取引の規制強化や配当への制約を設け、金融が主役化してしまった日本を実体経済中心の社会に戻し、働く人々にしっかりとお金が回り、物価以上に給料が上がり続ける社会を目指す」と書かれていますが、国内への設備投資を減退させる利潤率の低下という根本要因を問わない擬似的な「金融資本批判」とともに登場するのは、現代におけるフランスの国民連合やドイツのAfDを含めた極右・ファシストの共通する特徴なのです。最近の神谷宗幣は、「あの勢力=ユダヤ国際金融資本家」という『参政党Q&Aブック基礎編』(2022年)に見られる反ユダヤ主義的なレトリックをある程度引っ込めているのですが、こうした文書にはそこでの主張内容がそのまま反映されている、と見ることができます。そして、ここには「投資抑制による貯蓄超過がほぼ四半世紀にわたり継続」(内閣府『日本経済レポート』、2023年)とされる状況、あるいは過剰資本が国内における製造業のために投下されない経済構造に関する支配階級の危機意識も反映されているのですが、それ以上に、国民所得に占める労働分配率が55%にまで低下し、個人所得の44%を上位10%が占め下位50%が17%、全個人資産の60%を上位10%の富裕層が保有して下位50%が5%を分け合うという現代日本の経済状況(マイケル‐ロバーツ「日本の選挙――停滞は続く」、2024年10月26日付)のなかで、擬似的な「反金融資本主義」のレトリックがかつてのナチスの宣伝のように広範な大衆意識に響きうるという側面を警戒すべきでしょう。しかも、これがユダヤ人を標的にしたナチス同様に、中国人を主要な標的とした排外主義の煽動と絡み合っているのです(ただ、その場合、その煽動が大衆意識に対して有効となる土壌は、既存の情報機関や保守・右翼に加えて多くのリベラルや左翼によっても醸成されてきたものであり、その責任も問われるべきです)。
もちろん、資本が生産に投下されず資産運用や投機に集中するのは、必要の充足ではなく利潤の獲得を基底的動機とする資本主義的生産様式そのものに由来する問題なのであって、利潤率の低さの結果として金融市場に集まった過剰資本を国内産業への投資に引き戻すのは、既存の生産様式ではそもそも不可能です。トランプによるアメリカの再産業化の計画と同様にこれは夢想でしかありません。しかし、トランプが衰退を自覚しているからこそ危険であるのと同様にそれは危険なのです。わたしたちは、ワイマールのドイツでヒトラーが反ユダヤ主義的「金融資本批判」のレトリックを用いながら労働者階級の一部と新旧の中産階級をたぶらかしつつ、政権獲得後にはコミュニストと社会民主主義者への大弾圧を行ない、労働者階級を無権利状態に置き、ブリューニング政権の緊縮政策を引き継いで鉄鋼・鉱業・造船・銀行といった分野をすべて大資本のために非国有化することで世界恐慌後に危機に陥ったドイツ金融寡頭制の力の範囲を拡大させて、さらには東ヨーロッパとソ連の人民を奴隷化するためにナチ党・財界・官僚・軍部が一体となって帝国主義戦争に突き進み、ホロコーストを含む破滅的な結果をもたらしたという歴史の教訓をふまえて、参政党の主張と動向をとらえなければなりません。参政党はナチス同様に、現在の帝国主義の軍事的なエスカレーションをいっそう強化するという計画をそなえるとともに、そうした方向に大衆を統合するためのレトリックをもっているのです。そして、その双方の構成部分として外国人排斥の政策や主張もあるわけです。この方向はあまりにも危険です。これに対する警戒を、あらゆる機会をとらえて広範に訴えかけることはわたしたちの義務でなければならない、と考えます。

(4)帝国主義イデオロギーとの徹底的な対決が不可欠

これまでの報告のなかで現在の日本における運動状況については言及しつつ進めてきました。そして、そのなかでの会の役割について最後に強調して言えば、新聞の前号で「いま、何よりも大切なのは、個々の事態を全体的連関のなかでとらえる理性をみずからのものとすることであり、その理性につらぬかれた平和を求める叫びを拡げるための行動に立ち上がることである。この危機を阻止できるのは、世界諸人民の、多様多彩に組み立てられながらも事態の真の要因と対決する方向に合流・統一してゆく連帯以外にない」と書きましたが、こうした諸運動・諸個人の連帯を形成してゆくための帝国主義イデオロギー批判としての、機関紙誌を基軸とした思想運動の展開という以上に重要な仕事はない、と言っていいでしょう。ただ、その際に、情報伝達の手段と現状変革の運動との関係に関する歴史的把握、すなわち印刷技術の発達と宗教改革・ドイツ農民戦争との関係や19世紀における新聞の普及とレーニンの「全国政治新聞」の提起といった歴史の理解に立ったうえで、新しい媒体の積極的な活用の検討も必要です。キューバのディアス=カネルは、アメリカ政府の仕掛ける情報戦について「いま、他の武器や他の戦線があり、その一つがソーシャルネットワークです。わたしたちはこの挑戦を受け入れました。ソーシャルネットワーク上で戦い、勝利をめざしています」(『国際主義』11号)と語りましたが、こうした主張もまた、日本においても「認知領域における情報戦」の激化とそれによる大衆意識の戦争体制への統合がこれらの諸媒体を通して進むなかで、わたしたちと無縁のものとしてとらえることできません。しかし、いずれにしても、イデオロギー批判の徹底なくしては、運動における相互の連帯も統一戦線も、いまの帝国主義の再編過程に対する抵抗という現代の主要課題とはけっして自覚的に切り結びえない、という点を忘れてはならないでしょう。
【大村歳一】

【資料5】日本資本主義の現在
①日本における一人あたり実質国内総生産(GDP)の成長率
②日本における資本金に対する利潤率(ROP)と資本金の年間成長率(Inv growth -RHS)。2017年段階での下の線が利潤率、上の線が資本金の年間成長率。
※出典は、マイケル‐ロバーツ「日本の選挙――停滞は続く」、2024年10月26日付。

(『思想運動』1115号 2025年8月1日号)