〈活動家集団 思想運動〉第57年度総会報告(世界情勢部分)
現代世界における危機の構造とわれわれの思想的課題

大村歳一(活動家集団思想運動常任運営委員)

1、はじめに
――個々の事象と全体的展望の関係

こんにち、わたしたちがみずからの課題を考える際に、それを日増しに危機を深める世界史の総体的な動向と切り離して考えることはできません。一国におけるどのような個別の事象もそこでの活動も、何ひとつ孤立的な過程として進行するわけではなく、インターナショナルな視野でこれをとらえなければ、眼前にある現実のもつ真の意味もとらえ損なってしまいます。つまり、世界情勢なくして各国の情勢はなく、あらゆる個別の事象は全体としての世界構造に規制されてあるのであって、そうした全体のなかに位置づけられなければその正姿は見えないのです。そして、世界史は現在いかなる過程をたどりつつあるのかに関する具体的で歴史的な把握なくしては、プロレタリア国際主義の思想的立場を見定め、その思想的立場をもって現代のさまざまに生起する諸問題に対峙することもできず、また、世界諸人民の運動に連なってトータルな変革の過程に意識的に参与していくこともできません。
もとよりわたしたちの問題提起は、会の綱領的文書である「呼びかけ」にあるように、「現代という時代についての鮮明な歴史認識」にもとづいたものでなければならないわけです。わたしたちが日本の労働者階級・人民諸階層にたいしてインターナショナルな視野から問題を提起してゆけるかどうかは、何よりもさまざまに生起してくる個別的な諸契機とそこでの課題の意味をつねに全体的展望のなかでとらえかえしてゆけるかどうかにかかっているのです。そうでなければ、視野を固く内向させてゆく現在の日本の大衆的諸運動ないしはイデオロギー状況のなかにあって、過去の革命運動にかならずふくまれていた思想運動ないし思想改造運動の契機を意識的にとりだして結成されたわたしたちの会の活動が、その一翼を担っていくという積極的な意味もなくなってしまいます。


2、立脚点について
――
第22回IMCWP「最終宣言」とディアス=カネルによる閉会演説

(1)人類が直面している危険な状況
いま、世界は危険な状況にあります。数年前、2022年10月に開催された第22回共産党・労働者党国際会議(IMCWP)でキューバのミゲル‐ディアス=カネルのイニシアティブで起草された「最終宣言」において、「人類が直面している危険な状況」について各党が警告を発したと述べられているように、これは世界のコミュニストにとっても共通する認識です。「最終宣言」が発表されたのはウクライナ事態のエスカレーションと同年であり、この会議中にも事態は核戦争に転化する危険をはらみつつ激化の一途をたどっていました。そして、その後の数年間で、シオニストによるパレスチナ・ガザの住民の強制追放を目的とした大量虐殺、シリアでの反帝人民政権の転覆とその後のコミュニストに対する大弾圧、そして最近のイランに対する侵略の激化にまで至る中東地域のエスカレーションがこれに続きました。西アフリカでは、帝国主義諸国の支援を受けるECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)によるニジェール介入の待機軍が結成され一触即発の状況が生まれ、東アジアでは、朝鮮戦争再開を計画した尹錫悦によるクーデターが起こり、また対中国軍事包囲がますます厳しさを増しています。ラテンアメリカでもキューバやベネズエラ、ニカラグアに対する「制裁」による「レジームチェンジ」攻勢がいっそう強化されています。つまり、ヨーロッパ、中東、西アフリカ、東アジア、ラテンアメリカで同時多発的に危険な状況が生起してきたのです。新聞7月1日号に「それまで住んでいた場所に死屍と瓦礫が敷き詰められる破滅の瞬間は、地球上のあらゆる地域で近づいているのである」と書いたのは誇張でも何でもありません。いずれにしても、わたしたちの世界構造の把握は、何よりもこれらの具体的な現実に即したものであるべきだと思います。

(2)IMCWPの「最終宣言」における認識
そして、こうした危険な状況の要因についてIMCWPの「最終宣言」は、「帝国主義の攻撃が激しさを増し、地政学的な再編が進行した結果、われわれが直面しているのは、軍拡競争の新たな激化とNATO(北大西洋条約機構)の増強・拡大、新たな軍事同盟の出現、ウクライナにおけるような緊張と軍事衝突の激化、世界各地でのファシズムと『冷戦』の復活、核戦争の脅威であり、それらをわれわれは、はねのけなければならない」、「アメリカ合衆国とその同盟国の力が徐々に低下しているのは、その内部の危機の結果であり、競争相手を目前にして、二重基準の見境のない使用と封鎖政策による脅し、不当な威圧的措置、軍事介入、諸国の内政問題への干渉が激化している。帝国主義は、従来型でない戦争という文脈で、破壊活動のための大量の軍備を展開している。とくに、自分たちの利害に同調しない国の政府を粉砕するための不安定化手段として、メディア関連の活動が行なわれている」という認識を提示しました。わたしたちはこの宣言を立脚点とすべきだと考えますが、それはこの認識の妥当性はもとより、以前、わたしたちの会の情勢認識が中ソ論争の混迷のなかにありながらも「モスクワ声明」(共産党・労働者党代表者会議、1960年)を基礎にしつつ独自の立場を保っていたように、新たな分裂とその固定化に向かう世界コミュニストの運動状況のなかにあっても、こうした国際的な協働の成果を活かしてゆかない手はないからです。

(3)ディアス=カネルの国際コミュニストへの訴え
これを、「最終宣言」採択後のディアス=カネルによる閉会演説における分裂主義・セクト主義への批判と運動の統一に向けての提起、そして中国・朝鮮・ベトナム・ラオスの社会主義諸国およびベネズエラ・ニカラグアの反帝人民政権への連帯の訴えとともに、確認する必要があります。現在、ヨーロッパの共産主義運動のなかでは、ドイツにおけるDKP(ドイツ共産党)からのKO(共産主義組織)・KP(共産党)の分裂をはじめ、中国に対する立場の違いから運動を分裂させ、新しい「共産党」をセクト主義的かつ綱領主義的に結成する、という流れが生まれています。あるいは、中国に対して何らかの批判的決議を行なう、という動きもさまざまに生まれています。最近では、欧州共産主義アクションのオーストリア労働党が党大会で「中国共産党と中華人民共和国に関する決議」を行ない、『インディフェンスオブコミュニズム』がそれを報道したということもありました。たしかに、開放政策後の中国における社会主義建設の過程には何の歪みもない、と言えば嘘になるでしょう。しかし、その歪みを、単に外的な対象として客観主義的に裁断するのではなく、ヨーロッパ革命をいまだ実現できていないヨーロッパのプロレタリアートとコミュニストの歪みの結果として、歴史の主体の立場から把握しなければならない、と思います。中国もまた快適で気楽な環境のなかで革命後の歴史があったわけではなく、その困難は、1917年以来のヨーロッパ革命不在に端を発する原因結果の不可避的連鎖のなかで生まれているものです。DKPはそうした自覚を非常に強くもったコミュニストの党ですが、中国評価を理由にドイツの共産主義運動の戦線をかき乱すことは、その歪みをいっそう拡大する行為でしかありません。日本共産党や新左翼諸党派による中国に対する無責任な言葉が飛び交う日本もまた例外ではなく、むしろ日本帝国主義による中国侵略の歴史を考えれば、ヨーロッパ以上に大きな歪みを日本の左翼運動はもっているわけです。
わたしたちは国内外におけるこれらの動きが歴史過程のなかでもつ意味・役割を明確に見極めつつ、ディアス=カネルの閉会演説の訴えを、帝国主義に封鎖されながら苦闘するキューバからの、いまだ革命をなしとげていない国々のコミュニストのこうした頽廃状況に対して投げかけられた訴えとして受け取らなければなりません。ディアス=カネルはそこで「分裂は、つねに、国際金融資本や反革命、そして帝国主義を代表する諸勢力に利益をもたらします」と言いましたが、ここでは、個々の行為が世界の総体的諸関係のなかでいかなる意味をもつかということをつねに厳しく問いながら活動を進めるという、歴史過程への意識的な加担の論理が求められるのではないでしょうか。

3、現代世界の歴史的・構造的な理解
――社会主義世界体制倒壊から「帝国主義の一元支配」構想とその新段階

(1)キューバに対する反革命のエスカレーション
そうした社会主義の苦闘に連帯していくためにも、わたしたちは帝国主義の現在における再編のプロセスをはっきりさせ、近年のエスカレーションをもたらしている諸要因を歴史的かつ構造的に正確にとらえる必要がどうしてもあります。そうでなければ、現に進行している過程に対して、これに対抗するという労働者階級・人民諸階層の自覚を形成していくという大衆的思想運動の課題も果たしていけないからです。
最近のアメリカのトランプ政権による対キューバ政策の強化ひとつとってみても、傍目には過剰とも思えるような危機感をもたなければならないということを痛感させられます。対キューバ政策に関する「国家安全保障大統領覚書」(NSPM)再版へのトランプの署名は、第一次トランプ政権が施行し、その後のバイデン政権によって遵守されたキューバに対する「制裁」をいっそう強化し、キューバのいわゆる「レジームチェンジ」(体制転覆)を実行するというプランを公然と宣言するものにほかなりません。この文書には「バイデン政権によって緩和されたキューバ政権への圧力をふたたび強化する」と記してありますが、2月のHOWS講座の際、ヒセラ‐ガルシア駐日キューバ大使が「2024年はキューバ革命以来、もっとも厳しい年だった」と述べられたように、バイデン政権によって「圧力」は緩和されたわけではないのです。むしろ、第一次トランプ政権からバイデン政権にいたるまで強化されてきたキューバに対する攻撃を、第二次トランプ政権が次の段階に進めようとしている側面に注意する必要があります。たしかに文書の内容は2017年6月16日に発表された「国家安全保障大統領覚書」(NSPM)とほぼ同じなのですが、同時に発表された文書に関する「ファクトシート」(概要書)の内容の違いはそのことを語っています。
2017年の「ファクトシート」では「アメリカとキューバの関係が改善するかどうかは……キューバ国民の生活を改善しようとするキューバ政府の意欲に全面的に左右される」とされていたのに対して、今回発表された「ファクトシート」では、「トランプ大統領は自由で民主的なキューバの実現に尽力しており、共産主義体制下で長年苦しんできたキューバ国民の声に応える姿勢である」と帝国主義の言う「レジームチェンジ」の発想が前面に出てきています。それは、キューバにおける「反体制派」の存在について、前回の「ファクトシート」では触れられていなかったのに、今回のものでは再三にわたって強調されている点をみても明らかです。「政府と人民は別だ」と言う、いわゆる「人道的介入」(人道的帝国主義)のイデオロギー攻勢がキューバに対していっそう顕著になっているのです。アメリカによるキューバ制裁は革命以降60年間にわたって続いてきたものですが、その続いてきたという側面とともに、現在のキューバに対する攻勢が新しい次元に向っているという側面も見落とせません。

(2)社会主義世界体制倒壊後の「帝国主義の一元支配」構造・構想
少し歴史的に見てみましょう。アメリカ・イギリス・イタリア・カナダ・ドイツ・日本・フランス・EUからなるいわゆる「G7」の帝国主義諸国は、社会主義世界体制倒壊後に「帝国主義の一元支配」、すなわち「わずか10億ほどの人口の先進資本主義国が、第三世界の途上国にソ連‐東欧の旧社会主義諸国を加えた40億にものぼる人びとを、軍事力と経済力を背景にして支配・管理し、その資源の略奪、労働の搾取によって富を集積していくという構造、そして、しかもそれを永続させたいという構想」(第26年度総会報告より)を実現しようとし、この構造・構想を一定の範囲で現実のものとしてきました。NATOの主要諸国は、社会主義世界体制解体後のロシアと東ヨーロッパに対する事実上の支配権を主張し、IMF・世界銀行といった機関の要求として資本の投下に有利な条件を創出するように各国の政府に介入し、社会保障プログラムといった社会主義の成果を一掃していきました。その過程の多くは政治的・経済的な干渉による傀儡政権の建立という方法をとりましたが、ユーゴスラビアの場合、民族間の内戦にひきずりこまれたのち、最終的に劣化ウラン弾をも使用したNATOの直接爆撃という軍事的手段によって沈められました。アフリカではモザンビークやアンゴラ、エチオピアの、ラテンアメリカではグレナダやニカラグアの反帝民族解放闘争のなかで生まれた政権が内戦の泥沼にのみこまれました。中東では、PLO(パレスチナ解放機構)がオスロ合意によって「事実上の降伏」(エドワード‐W‐サイード)を強制されました。そして、社会主義世界体制倒壊後にも存続しえたキューバ・朝鮮・ベトナム・中国といった社会主義諸国や、リビア・シリア・南アフリカといった反帝人民政権もまた大きな後退や譲歩を迫られました。このようにしてかつての反帝勢力諸国の人民を「被抑圧民族」として改めて分割・編入し、衛星通信・コンピューター化・コンテナ船といった生産の分散と貿易・金融の自由化を可能にする新しいテクノロジーの発展を背景に、①海外直接投資(FDI)による古典的な資本輸出および②現地下請け企業に生産を委託しつつウルグアイ・ラウンド交渉の結果「知的財産権」としてその独占が保護された商標やデザイン、特許の莫大な使用料による剰余移転といった方法でもって収奪を繰り広げ、そこで得た天文学的な利潤を金融カジノに投入して生産を介さずより多くの資金を生みだすことで、一般に「グローバリゼーション」と呼ばれる「帝国主義の一元支配」構造・構想は実現されていったのです。レーニンがコミンテルン第2回大会における「民族・植民地問題についてのテーゼ」に関する報告で述べたように、帝国主義の問題に対する抽象的立場からではなく具体的立場からのアプローチが必要です。
もちろん、だからといって、その時期に世界がロシア革命以前のものに戻った、と言うのは誤りでしょう。というのも、現代はロシア革命による現存社会主義国家の成立に端を発する「資本主義から社会主義への全般的移行期」(モスクワ声明)のなかで中国革命、朝鮮革命、ベトナム革命、キューバ革命が成立したのちの世界であり、あくまでも「社会主義世界体制倒壊後」の段階であるからです。ソ連や東欧の社会主義解体をもって、現存社会主義の存在というファクターを世界構造の認識のうえで除外するようなものの見方は、ブルジョワ・イデオロギーへの屈従にすぎないでしょう。たしかにそれは社会主義世界体制が存在していたのと同じ時代ではなく、ソ連という巨大な後ろ盾を失ったキューバや朝鮮、ベトナムの社会主義建設も多くの困難を抱えているのが実情です。ただ、革命を中心に歴史をとらえれば、1990年代以降の世界は、社会主義世界体制とともに存在してきた社会主義諸国や反帝民族解放政権が、その多くは解体・破壊されながらも、存続しえた部分による、帝国主義の脅迫・封鎖・干渉に曝されながらの後退をともなう苦闘が続いてきたという過渡期の世界なのであって、これを帝国主義と社会主義・反帝国主義のせめぎ合う時代における固有の段階としてとらえなければならないのです。実際、わたしたちの会は社会主義世界体制解体後の世界の基本構図をそのように把握してきたのではないか、と思います。

(3)経済的衰退を軍事的な優位で相殺しようとする帝国主義諸国の危険な戦略
そのうえで、問題は、社会主義世界体制倒壊から30年後にある現代世界の理解にあるわけですが、一言で言ってしまえば、帝国主義諸国が経済的衰退の傾向【資料1】をまえにしていっそう侵略的になり、第三世界に旧社会主義圏を加えた諸国を収奪し続けるという世界を維持するために、軍事的な優位性【資料2】にすがりつき、自律的な発展を志向する社会主義・第三世界諸国に対する攻撃をいっそう激化させている状況、と言うことができるのではないでしょうか。つまり、IMCWP第22回大会の「最終宣言」がとらえているように、アメリカとその同盟諸国がその内的な危機から現在ひとつの曲がり角にさしかかっていて、それにともない世界中で封鎖・威圧・介入・干渉を激化させ、核戦争の危機をも現実的なものとして近づけている、ということをみる必要があるわけです。
こうした状況の下で、ヒセラ‐ガルシア駐日キューバ大使が訴えたような、いまのキューバが置かれているかつてない異様な困難も現出しているのです。そして、これが最近のイラン事態などと同期しながら進行している事態であるということを確認しなければなりません。イランの事態に際して、新聞に、「『G7』の先進資本主義諸国は、過去半世紀の利潤率の低下のなかで、過剰資本のはけ口を、中国を含む第三世界への海外投資と金融市場への投機的な進出に求め、国内の製造業への投資を減少させてきた。その結果、『G7』は、『冷戦』体制崩壊後に『新世界秩序』を構想し、それを一定の範囲で実現させたものの、自国の工業生産力を空洞化させて生産面における優位を失い、また2000年代半ば以降には金融危機に直面したのである。そして、経済的な覇権を喪失しつつある帝国主義諸国は、いま、軍事力における圧倒的優位を利用して、工業生産力で『G7』を凌駕しつつある中国とその他の自律的に発展しようとする第三世界諸国を封じ込め、さらにはそれらの国々の体制を全面的に転覆しようとする誘惑に駆り立てられているのだ。それは衰退しているからこそ危険なのである。この過程のなかに今回のイラン爆撃も位置づける必要がある。つまり、帝国主義諸国はイランの政権転覆を長年にわたって追求し続けていると同時に、新たな戦略のなかでますます攻撃的になっているのである」というように書きましたが、これはキューバに対する攻勢の強化においても同様に言えることであり、パレスチナ人に対する強制追放と大量虐殺、シリアのアサド政権の体制転覆、朝鮮戦争再開を計画した韓国のクーデターといった近年生起する諸々の事態のどれひとつとして孤立して進行する事態ではなく、現在の帝国主義がとる戦略と無関係ではありません。
そして、この戦略のなかで最大の標的となっているのが、中国の、社会主義への「移行経済」(マイケル‐ロバーツ「中国は社会主義への移行経済なのか?」、『国際主義』11号)のなかですでに「G7」諸国に対して優位にある工業生産力【資料3】および昨年のパレスチナ14団体による「北京宣言」(『国際主義』9号)発表にみられる国際政治における役割であり、ロシアの、エリツィン時代とは異なり強く主権を要求していて社会主義諸国・第三世界諸国中の反帝勢力とも強固な関係(国連憲章擁護友好グループや朝ロ戦略的パートナーシップ条約)にあるその政治的・国際的な位置です。トリコンチネンタル社会調査研究所は、この中国、そしてロシアに対する「アメリカの地政学的目標」について、「中国とロシアの政権を打倒し、両国を非核化し、可能であれば分断していくつかの小国に分割し、二度とアメリカの軍事的あるいは経済的な覇権に挑戦できないようにすることである」(『ハイパー帝国主義――危険な衰退の新たな段階』、2024年)としてまとめました。ここ数年の、台湾や香港、ウイグルにおける「人権外交」という名の下での帝国主義による内政干渉や情報戦、NATOの東方拡大とマイダン・クーデターに起因するドンバス戦争およびウクライナとロシア・クルスクでのエスカレーションといった事態は、こうした戦略の一環として引き起こされているものとしてみることができます。
このように理解することは、中国共産党の掲げる「中国の特色ある社会主義」の現段階をどう評価するかであったり、ロシアの「特別軍事作戦」実施を支持するか否かであったりといった問題とはそれほど関係がありません。むしろ現代に核戦争としての第三次世界大戦の危機を惹起している帝国主義の戦略の全体像をとらえ、一連の事態をまえにその主要因に対してこそ立ちむかうために必要なのです。矛先を向ける相手を誤れば反戦運動も反戦運動としては成り立ちえません。もっと言えば、一定の諸関係のなかにあって主観的な意図とは別に客観的な機能をもちうるみずからの言葉や行為の意味を見極めるためにもその理解は必要でしょう。たとえば、「○×の政府ではなく○×の人民に連帯する」といった善意の表明が、客観的には帝国主義の「人道的介入」イデオロギーを補完する役割を担ってしまう、という場面をわたしたちは嫌と言うほどこの数十年間見てきたと思います。そこで欠けていたのは帝国主義がとる軍事的・イデオロギー的な戦略との関係で自己の位置を対象化していく作業なのですが、現にわたしたちが置かれている諸関係の全体的な理解がなければ、ある一定の時空間で展開されるみずからの言葉や行為がもつそうした客観的な意味・機能をとらえることもできず、現在の状況に対して責任ある対応もとれないわけです。この場合、無拘束的な「中国批判」や「ロシア批判」が全体のなかでもってしまう、帝国主義によるいっそうのエスカレーションの呼び水としての機能に対する把握と批判が必要なのですが、それは現代中国を欠点のないユートピア社会であるといったりロシアの「特別軍事作戦」を何ら問題のない選択であったといったりする安易な信念に基づくものではなく、あらゆる言葉や行為はけっして真空では展開されないという認識に基づいたものです。

(4)「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」とは何か
トランプ政権による「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」(MAGA、アメリカをふたたび偉大に)というスローガンもまたこの全体的連関のなかにとらえられる必要があるでしょう。その一つの側面が現在の軍事的エスカレーションであることは言うまでもありませんが、もうひとつの側面に関税政策があります。これについて数か月前、キューバの経済学者たちが集まって「貿易戦争――交戦で本当に勝利するのは誰か?」というテーマのテレビ番組で話すのを見たのですが、その全員の意見に共通していたのが、アメリカは軍事や金融の面で依然として優位にあるものの、技術発展による貿易と金融の自由化というグローバリゼーション下の産業移転のために、その基盤である工業生産力を喪失しており、関税によってこれを逆転しようとする「夢想」を抱いている、というものでした。そして、この関税政策がトランプの期待する結果をもたらす可能性は非常に低くほぼ不可能ではあるが、その追求が世界に大きな混乱・破局をもたらしかねない、という点でも全員が一致していました。
より具体的に見れば、現在、中国は世界の製造業の総生産における35%を占めており、それに次ぐアメリカの12%、日本の6%、ドイツの4%、インドの3%、韓国の3%、イタリアの2%、フランスの2%を合計した額を上回っていて(経済政策研究センター〔CEPR〕の統計より)、これはおそらく中国共産党の指導下で収益性の高い部門よりも生産性の高い部門に投資を行なってきたため(前掲・ロバーツ)ですが、他方で、アメリカでは当然に収益性を基準として投資判断を行なうブルジョワジーが金融部門よりも収益が低くなる製造業への投資を減退させてきた結果、自国の産業基盤をむしばみ、工業生産力の面での覇権を喪失したのです。これをかつて「世界の工場」から「世界の銀行」となりその後に衰退の一途をたどったイギリスの歴史と重ね合わせてみることもできます。
そもそも国内における産業部門への投資を減退させ、海外投資および金融部門への投機的進出を拡大させたのは危機の結果であって、けっして危機の原因ではありません。危機の原因ではなく結果にアプローチしたところで、結果は変わらないわけです。マイケル‐ロバーツといったマルクス経済学者が統計を提出している過去半世紀における利潤率の低下の結果【資料4】、アメリカの資本主義はそれを回復するために、債務危機とソ連倒壊を経て政治的地位を低下させた第三世界諸国の「労働力プール」の低賃金および金融市場への投機に活路を見いだしたわけであって、より効率的に商品を生産するために生産力を発展させれば発展させるほど、不変資本に対して可変資本の相対量を減少させることで利潤率を低下させ、生産に投下されなくなる過剰資本を生みだしてしまうという資本主義そのものの矛盾が問題であるはずだからです。この点で、トランプの関税政策の不可能性を言う必要はあります。
ただ、そうした第二次トランプ政権の動向について単に「トランプの暴走」として矮小化すべきではなく、関税の目的も国内における産業の再生というよりもそれ以上に他国の産業の破壊であって、「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」を追い求めることで現在の世界にいかなる事態をもたらすのか、その危険性を現在の軍事的エスカレーションとの関係で正しく見極めなければなりません。トランプに関する著書をもっているジャーナリストのロベルト‐モントーヤが第二次トランプ政権について「〝メイク・アメリカ・グレート・アゲイン〟(アメリカをふたたび偉大に)というスローガンは、この衰退に歯止めをかけようとする試みである。それは必死のあがきではあるが、衰退を自覚しているこの時期において、かえってアメリカをさらに危険な存在にしている」(『ディアリオ』2025年4月19日付)と述べているような認識が重要でしょう。政治は経済に優先するというのはマルクス主義のABCであり、ここでも重視されなければならないのは、いかにその政治が展開されるかです。そして、アメリカが効果的に使用しうる政治の手段としては、いまなお圧倒的な優位にある軍事力と情報分野なのであって、それがいかに用いられるか、何をもたらすかということにあるのです。この点の歴史的かつ具体的な把握が肝心でしょう。
これはフランスの国民戦線、ドイツのAfD、日本の参政党といった新たに登場している他の「G7」諸国のファッショ勢力にも共通するところであり、これらの動向を単にこれまでの政治の延長線上にとらえるだけでは不十分ではないかと思います。かつて1929年の株式市場の大暴落後にケルンの銀行家クルト‐フォン‐シュレーダーの自宅で決まったヒトラーのナチス党への権力移譲がそうだったように、ブルジョワジーは、既存の国家形態を利潤率の回復にとって効果的と思われる措置を講じることができる国家形態に置き換えることに何の抵抗も抱きません。いずれにしても、第二次トランプ政権による一見奇妙で矛盾に満ちているように見える諸々の政策にしても、その他の国々における極右・ファシスト勢力の台頭にしても、現在の帝国主義の再編過程と切り離して理解することはできないのです。

(5)短期的・中期的利益を犠牲にしてでも長期的利益を追求する他の「G7」諸国
そして、日本を含む他の「G7」諸国は、短期的・中期的な利益を犠牲にしてでも、アメリカとともに「帝国主義の一元支配」を維持するという長期的な利益を追求する姿勢を鮮明にしています。2022年にアメリカによってノルドストリーム2を破壊されて経済的損失を被ったのちのドイツの反応はそれを物語っているでしょう。
最近、党大会を開催したドイツ共産党(DKP)は「帝国主義の転換期――独占資本はみずからの衰退を阻止するために戦争を準備している」という党大会に向けて発表された文書で、「アメリカ主導の帝国主義諸国は、無制限の経済支配が終焉を迎えたために、覇権喪失との闘いにおいて暴力と戦争に頼らざるをえなくなっている。かれらは、ロシアと中国に対する公然の戦争の準備を進めている。その主要な手段はNATOである」という認識を前提にしつつ、「ドイツ帝国主義は、アメリカがロシアと中国に対してとる対立路線に意識的に従属している。ガス供給問題やそれに伴うエネルギー価格の上昇といった経済問題を容認している。そのいっぽうで、長期的な世界覇権の野望を維持している。……現在、ドイツ帝国主義は軍事的に弱く、世界覇権を確立する力はない。そのため、NATOを必要とし、自国の利益のために大規模な軍備増強を進めている」と指摘しました。東アジアにおけるNATO諸国の進出(軍事演習)および「アジア版NATO」結成の動きを含めて、ウクライナ事態以降に進んだ帝国主義諸国の完全な軍事ブロックとしてのこの統合の過程こそ何よりも現在の帝国主義の再編過程にほかなりません。帝国主義の巻き返し戦略で用いられる軍事力の最大の構成要素はこの軍事同盟のネットワークなのです。
中東地域では、イスラエルがハマスやイスラム聖戦、パレスチナ解放人民戦線(PFLP)といったガザの抵抗勢力から、イランの反シオニズム政権やレバノンのヒズボラ、イラクの民兵組織と議会、イエメンのアンサール・アッラーまでを含む「抵抗の枢軸」と呼ばれ、社会主義諸国や他の第三世界勢力とも友好関係を築きつつあるアラブ反帝民族解放勢力を軍事的に圧殺する役割を担っており、アフガニスタンに続いてイラクからの完全撤兵も予定する帝国主義諸国の戦略のなかでイスラエルの役割が増大している点も見逃せません。
いずれにしても、ここでの主題は、「G7」諸国の経済的な衰退および中国その他の国々が工業生産力でそれを凌駕しているという事実それ自体にあるのではなく、その関係をこうした政治的手段によって逆転させようとするところに生まれる「人類が直面している危険な状況」にこそあるのです。

4、世界の反帝国主義・反戦平和運動と国際連帯の困難/可能性
――「先進」資本主義国の労働者階級・人民諸階層の現状をいかにみるか

(1)世界の反戦平和・反帝勢力の統一戦線を
もちろん、現在の危機的な世界情勢は資本主義そのものの矛盾に由来するものである以上、その根本的な克服には世界社会主義革命の完成という以外にはなく、ヴィジャイ‐プラシャドがいみじくも「同志のみなさん、選択肢は二つだけです。『共産党宣言』でマルクスとエンゲルスは書きました。――社会主義へ移行するか、それとも相対立する階級同士の破滅的な滅亡か。社会主義か、破滅か。現在の世界を見れば、それは破滅の様相を呈しています。ガザは破滅の場所です。ガザには2800万トンの瓦礫があります。その瓦礫を地中海にすべて投入すれば、新たなガザを築くことができます。これが爆撃による瓦礫の量なのです。2800万トンの瓦礫。これが廃墟です。これこそハイパー帝国主義がもたらすものです」(ベネズエラ・カラカス、2024年4月)と言ったとおり、現代における革命の必然性(必要性)ないしはアクチュアリティもはっきりと確認できるわけです。
ただ、あくまでもその実現は20世紀の歴史が証明するように長期的で複雑な過程を描くものであって、その過程の一環として、世界の反戦平和・反帝勢力が連帯し、帝国主義諸国のエスカレーションを転換・阻止するたたかいがますます急務となっています。そして、わたしたちは日本と東アジアにおいてその運動の一翼を担う戦線を構築してゆかなければならないわけです。この点について、IMCWP第22回大会の行動指針では、「帝国主義に反対する闘いを強化し、資本家の利害に支配されている現在の不公正で非民主的な国際秩序を平和と持続可能な発展、社会的公正、連帯に基づく国際秩序に転換することに貢献し、社会主義社会の建設への道をきりひらくための取り組みに加わること」「諸人民の自決と独立、主権の平等、国の内政問題への不干渉という諸原則に対する尊重ならびに平和を求め自分たちの発展の道を選ぶ諸人民の正当な権利に対する尊重を求めること」「帝国主義戦争と国際関係における脅迫と力の行使を強く拒否し、平和を求める闘いを推進すること」「軍拡競争とそれが引き起こす社会的支出の大幅削減、核兵器の存在と近代化、外国軍基地を強く非難し、拒絶し、NATOとその拡大計画、世界的軍事組織になる計画に反対する人民大衆を結集すること」「暴力、排外主義、人種差別主義、政治的、思想的、社会的、民族的、宗教的、性的な不寛容を激化させ、民族紛争を推進している反共主義、反動、超国粋主義、ファシストの勢力が世界各地で再登場していることに反対して闘うこと」「帝国主義の干渉と攻撃に抗し、各国政府と諸人民に対する圧力と脅迫の手段としての封鎖と制裁、一方的な威圧的措置、二重基準の政策を拒絶している諸人民への連帯を強化すること」など、その諸側面が多面的に確認されていますが、たとえば労働運動でも文化・芸術運動でも日朝連帯運動でもわたしたちの個々の取り組みはすべて、ウクライナ事態を契機にますます破局を増大させてゆく世界情勢をまえになされたこの提起との関係で把握され実践されなければならない、と思います。

(2)BRICSとキューバ、モディ政権、インド共産党(マルクス主義)
そもそも世界における諸勢力の存在をとらえていくうえでも、この「現在の不公正で非民主的な国際秩序を平和と持続可能な発展、社会的公正、連帯に基づく国際秩序に転換する」という当面の課題との関係で、現代の個々の問題とその全体的な意味をとらえてゆかなければならないのではないでしょうか。たとえば、現代の問題のひとつにBRICSの評価ということがあるわけですが、その構成部分が丸ごと反帝国主義勢力ないしは政治的に進歩の側にあるというわけではないものの、枠組みの全体としての位置については、ディアス=カネルの言う「多極性、相互尊重、主権の尊重、自己決定権の原則に基づく真の関係を発展させるために、グローバルサウスが持つべき空間」(『国際主義』11号)を形成するという観点から、その意味をとらえる必要もあると思うのです。現状、ドルの基軸通貨としての地位は挑戦を受けつつも保たれたままですが、キューバその他の国々に対する「制裁」がそのドル決済の支配的位置ゆえに有効性を持つものである以上、ここでのディアス=カネルの「BRICSは、開発銀行も設立しました。この銀行が推進する、均衡のとれた市場での活動、各国通貨の承認、通貨の活用という仕組みは、今日の排他的で不公平かつ搾取的な国際経済秩序が世界に築き上げた構造と金融論理を打ち破るものです」という期待を軽んじるべきではありません。
もちろん、その場合にも、インド共産党(マルクス主義)によるモディのインド政府に対する闘争のように、この党の機関紙である『ピープルズ・デモクラシー』の内容をいま詳細に伝える時間はないものの、みずからのたたかいを世界の全体的連関のなかに位置づけながら「最終宣言」の課題の実現をいっそう押し進めようとする思想性をもったコミュニストのたたかいが、BRICS諸国内部の革命運動として尊重されなければならないでしょう。「いまやインドは世界4位の経済規模だ」とモディ首相が語るいっぽう、BRICS全体の国際的位置をディアス=カネルと同様の観点から評価するトリコンチネンタル社会調査研究所が「インドにおける労働者階級の状況」(2023年5月)という報告で、非農業労働力の45%にあたる1億2000万人が失業し、スラム街に押し詰められた何億人もの都市労働者に疫病が蔓延、遺体がガンジス川を流れ全国の火葬場や墓地に積み重なっているというCovid‐19パンデミック後にインドの労働者階級に襲いかかった「社会的大惨事」を訴えている事実、そのトリコンチネンタル社会調査研究所とともに国際人民委員会(インターナショナル・ピープルズ・アセンブリー、キューバ労働総同盟も加盟)の大衆運動報道機関『ピープルズ・ディスパッチ』がモディ政権の親シオニズム政策に対するインド共産党(マルクス主義)を中心とする左派政党のたたかいを報じている事実――、これらの問題をはじめとする多様な要素を複眼的にかつ「最終宣言」に示された現代世界の中心課題との関係で、しかも「全人類の物質的・精神的生活条件の根本的改造」という大目的を見据えつつ、とらえる必要があるわけです。

(3)「G7」諸国におけるウクライナ事態後の運動状況
ただ、ここで問われるべき最大の問題は、ウクライナ事態以降の帝国主義のエスカレーションに何よりも責任をもっている「G7」諸国における運動のあり方でしょう。ウクライナ戦争勃発直後、わたしたちはメリーナ‐デイマン(DKP機関紙『ウンゼレ・ツァイト』編集長)による「ウクライナでの戦争は敗北である。何よりも、西側、ドイツにおける平和運動の敗北である。――差し詰め、北大西洋条約機構(NATO)の戦争政策に対する30年間の闘争にわれわれは敗北したのだ。ロシア側の行動をどのように評価するかにかかわらず、……西側諸国の侵略的なエスカレーションを止められなかったことが、今日われわれが大惨事の危機に直面している要因となっているのだ」という言葉を引用しつつ、同様の運動意識が日本を含む帝国主義諸国の人民全体に必要であると提起しましたが、それらの諸国の労働者階級・人民はこの要因を逆転させるというみずからの歴史的使命をとらえ、これと対決してゆく方向での連帯を実現してきた、あるいは実現しようとしてきたのでしょうか。否、と言うほかありません。
DKP議長のパトリック‐ケベレは、この一年後に、DKP党執行委員会第10回会議での「ウクライナ戦争の背景と立場に関する報告」(『ウンゼレ・ツァイト』2022年4月13日付)で、ドイツの大衆運動の状況について次のように述べました。「支配層はもはや人びとの思考をコントロールするだけではありません。かれらの感情をも支配しようとしているのです。……ウクライナ戦争のメディア演出は、この感情を巧みに利用しています。……労働者運動と労働組合運動の大部分は、現在の状況に対する歴史的背景を無視した分析に完全に欺かれています。かれらにとって唯一の敵はロシアとプーチンであり、NATOはほとんど役割を果たしておらず、連邦政府の軍備増強パッケージは程度の差はあれ単に受け入れられているだけではなく一部では必要不可欠なものとして認識されています。これは当然、社会民主主義政権が汚い仕事を担っていることとも関係していますが、それだけでは説明が不十分です。わたしはこれをわたしたちの敗北の一部と見なしています。わたしたちは、少なくとも労働組合運動の幹部層において、政治的に根拠のある平和姿勢が広く根づいているという幻想を抱いていました。……左翼党は現在分裂しています。ただし、この分裂の結果は、左翼党がドイツ帝国主義の戦略に統合される方向になるだろうとわたしは予想しています。ローザ‐ルクセンブルク財団は、NATO批判のイベントへの支援をすでに撤回しています。平和運動の伝統的な組織のなかには、統合に反対する者が少なくありません。これは、個別労働組合内の平和組織も含まれます。これは強化される必要があります。とりわけ、支配層が〝ウクライナとの連帯〟を中核とする〝オルタナティブ〟平和運動を確立しようとしているからです。この〝連帯〟とは、8年間、ドンバスで流血の戦争を続ける民族主義国家への連帯を意味します。突然、平和の歌が響き渡り、その後〝ウクライナの栄光、英雄の栄光〟という古い反共産主義的でファシスト的なスローガンが叫ばれます。このスローガンは、実際には戦争を恐れている人びとによって叫ばれることも少なくありません」、と。
トリコンチネンタル社会調査研究所が「第二次世界大戦の主要なファシスト国家であるこの2か国の再軍備は犯罪と見なさなければならない。……アメリカは帝国主義陣営内の内部統合を強化し、第二次世界大戦で敗戦した二つのファシスト国家、日本とドイツに再軍備を認め要求している」(『ハイパー帝国主義――危険な衰退の新たな段階』)と指摘するように、かつてロシアを侵略したドイツと同様の政治過程を中国侵略の過去をもつ日本も現在たどっているのですが、この両国における運動状況も同様の状態にあって、ウクライナの国旗があちこちにはためいたり香港の「民主化運動」との連帯が声高に叫ばれたりする「憲法集会」の惨状を見るとき、実際に戦争を恐れている人たちまでもが帝国主義の戦略にいかに組み込まれているかということを理解できる、と思います。もっとも、日本の場合は共産党までもがその戦略に統合されてしまっていて、いっそう悲惨と言えるかもしれませんが、それ以上に「G7諸国」の運動状況はどこも似たり寄ったりの状態であって、このDKPの報告を長々と引用したのは、そういう「先進」資本主義諸国の運動状況を典型的に描きだしていると考えたからです。
また、最近のDKP党大会に向けての文書では、「労働運動の思想的・組織的な弱さと、帝国主義の侵略的な政策への組み込みにより、矛盾の解決は帝国主義の思想の枠組み内でのみ行なわれる。……労働者階級の一部は、独占的な超過利潤によって腐敗し、物質的に体制に縛られる可能性がある。国際的な力関係の変動は、この相対的な繁栄に対する脅威として認識される。ここに、ヨーロッパ中心主義と西洋の優越思想の社会的要因があります。これらのイデオロギー的概念は、支配層が中国やロシア、さらにはアフリカ諸国に対する政策に人々を巻き込むために利用されている」(前掲・「帝国主義の転換点」)と指摘されているのですが、ここにはマルクスが「普通のイギリス人労働者は、アイルランド人労働者を自分の生活水準を低下させる競争相手として嫌っている。この対立が、組織化されているにもかかわらず、イギリス労働者階級が無力である秘密である。資本家階級が権力を維持している秘密である。そして、資本家階級はこのことをよく承知している」(シグフィールド‐メイヤーとアウグスト‐ヴォグトへの手紙、1870年)と言い、エンゲルスが「どんなことがあっても、ここで本当のプロレタリア運動が起こっていると錯覚してはならない。……本当に普遍的な労働者運動は、イギリスの世界独占が崩壊したという事実を労働者に実感させたときに、初めてここで生まれるだろう。……世界市場の支配への参加は、イギリス労働者の政治的無価値性の基礎である」(アウグスト‐ベーベルへの手紙、1883年)と警告して以来の問題があるわけです。DKPの主張にあっては、ドイツ社会民主党(SPD)と労働組合の結びつきを赤色労働組合主義の反省をふまえつついかに切り離すか、というドイツ固有の問題も背景にあるのですが、それ以上にこれらの事実は、この思想状況を突破する大衆的思想運動の展開なしに、「G7諸国」での反戦運動の有効な展開は不可能であることを物語っています。しかもドイツでは、他のあらゆる国に増してパレスチナ連帯運動が「反ユダヤ主義」として扱われ、物理的に弾圧されるという事態が続いています。DKPとサミドゥン・ネットワーク(在外パレスチナ人の運動)が主催した行動では、在独のアラブ人がナチ党の親衛隊ないしは突撃隊まがいの警察権力によってリンチを受けるということもありました。

(4)帝国主義の再編プロセスに対する「G7」諸国内の自覚的な抵抗運動
ただ、弾圧の事実は、そうした困難のなかでたたかいが続けられているということも同時に示しています。ドイツの政府と情報機関によるパレスチナ連帯運動を「反ユダヤ主義」と言いくるめるイデオロギー操作のすさまじさは想像を絶するようなところがあり、諸団体・諸個人に対する大弾圧が敢行され、運動参加者の多くが職を失っているのですが、同時にかつてのディミトロフ裁判を彷彿とさせる裁判闘争も存在しているのです。また、ドイツでは、「平和のための労働組合会議」という会議が複数の団体の主催で開催され、比較的大きなIGメタル労組やザルツギッター・フラッハシュタール労組の組合員もそこに参加し、平和擁護の立場に立つ労働者階級の連帯が一部で強化されています。昨年のこの会議で発表された「軍備と戦争に反対する労働組合」というアピールは、ドイツ労働組合総連合(DGB)加盟組合の執行委員会のほとんどで検討を拒否され、依然として全体の動向は戦争体制に統合されたままであるのが実情ですが、下部における労働者階級の連帯は深まっているのです。最近、DKP機関紙『ウンゼレ・ツァイト』に掲載されたフロリアン‐ハインリッヒというIGメタル労組の組合員のインタビューで、現在のドイツ労働者階級全体に拡がる戦時体制への同調に触れつつ、そこから抜けだすには繰り返しの議論が必要であるということが述べられていましたが、そこには「平和のための労働組合会議」に参加している労働者階級による、その取り組みを全体に波及させようとする粘り強いたたかいおよびコミュニストとの協働が存在しています。
現在の帝国主義のエスカレーションにおいて中心になっているアメリカにおいても、バイデンと全米自動車労組(UAW)本部、トランプとチームスターズ(トラック運転手組合)の結びつき、あるいはトランプの関税政策の全体的な意味を見ないでそれを「自動車労働者にとっての勝利」(公式、3月26日)として支持するUAWのショーン‐フェイン会長の声明に見られるように、大規模労組は体制内に統合され、アメリカ共産党(CPUSA)も民主党との擬似統一戦線によって体制化したままですが、しかし、UAWの第2710支部や第4811支部、「アパルトヘイトのための技術にノー」の技術労働者、レイシズムと戦争に反対する米国労働者(USLARW)といった労働者階級の運動は存在しています。コロンビア大学やハーバード大学の学生たちのパレスチナ連帯の取り組みはご存じのとおりでしょう。また、米国平和評議会やANSWER連合、ピープルズ・フォーラム、平和のための黒人同盟、パレスチナ青年運動や朝鮮共同発展のためのノドゥットゥルといった組織のすぐれた思想性をもった運動は続いています。これらの組織は2023年に、国際民主法律家協会やトリコンチネンタル社会調査研究所、カナダ共産党、ケニア共産党に加えて、キューバとベネズエラの政府ともに協働して「アメリカ帝国主義に関する国際人民法廷――制裁と封鎖、強制的経済措置」を開催し、世界の平和擁護・反帝勢力が力を合わせ帝国主義の戦争政治を縛ろうとする取り組みを一歩先に進めようとしました。
ここでは一種の思想運動として反帝・反戦平和の取り組みが続けられているのですが、帝国主義のエスカレーションに対抗する大衆的なたたかいを多層的にとらえ、これにいかに連帯していくかということをわたしたちの問題提起の基礎におかなければならないと思います。現に進行している帝国主義の再編プロセスのなかでそれと対抗する労働者階級・人民の自覚がどれほど高まっているかという問題をぬきにして、中国をはじめとする帝国主義の攻勢の標的になっている国々の抱える諸問題をとりあげることはできないし、そうすべきでもない、と考えるからです。

【資料1】帝国主義諸国(「グローバルノース」「G7」)の経済的衰退の傾向
①グローバルサウスとグローバルノースのGDP(PPP、購買力平価)の変化〔1993~2022年〕
②BRICS10とG7のGDP(PPP、購買力平価)の変化〔1993~2022年〕

【資料2】アメリカとその同盟諸国の軍事力
①アメリカとその同盟国の軍事費の割合(2022年)
②アメリカの海外軍事基地の分布(2023年)
③アメリカ主導の軍事ブロックを構成する国々(2023年)
※資料1と資料2の出典はトリコンチネンタル社会調査研究所『ハイパー帝国主義』(2024年1月)より。

【資料3】中国の工業生産力
①世界の総生産に占める各国の割合(右は中国の総生産とその他のトップ10を合わせた総生産の比較)
②世界の製造業に占める各国の割合(㊧総生産量、㊨付加価値込み)
③労働生産性の年次成長率(中国、アメリカ、日本の比較)
④中国(上)とアメリカ(下)における固定資本投資の割合〔1972~2020年〕
※出典は、リチャード‐ボールドウィン「中国は世界唯一の製造業超大国――台頭の軌跡」(2024年1月17日)、トリコンチネンタル社会調査研究所『ハイパー帝国主義』(2024年1月)、マイケル‐ロバーツ「〝2つのセッション〟中国」(2025年3月8日)

【資料4】過去半世紀における利潤率の低下(アメリカとG7)
①アメリカの企業(法人)部門における利潤率の推移〔%〕
②アメリカの企業(法人)全体の黒字(剰余)に占める金融黒字の割合〔%〕
③アメリカの非金融部門における利潤率の推移〔%〕
④G7全体における利潤率の推移〔%〕
※出典は、マイケル‐ロバーツ「2021年におけるアメリカの利潤率」(2022年12月18日付)、「世界の利潤率――新しいアプローチ」(2020年7月25日付)

(『思想運動』1115号 2025年8月1日号)