2026年 年頭座談会
戦争への道を突き進む高市反動政権
内閣支持の高さが孕む日本社会の危機的状況

藤原晃(学校労働者・司会)/広野省三(活動家集団 思想運動)/稲垣博(『思想運動』編集部)/逢坂秀人(自治体非正規労働者)/沖江和博(国際政治研究)/米丸かさね(清掃パート労働者)/藤本愛子(公務労働者)

高い支持率を維持する高市政権
藤原 いま、政治、経済、軍事、文化・思潮など、あらゆる分野で世界と日本の資本家階級の暴力的意図が加速度的に実行に移されつつあります。ウクライナ・ロシア戦争、ガザでのイスラエルによるジェノサイドにいまだ終息が見られないままなのに、今度はアメリカによるベネズエラへの戦争が画策され、すでに証拠もないまま「麻薬輸送船だ」と決めつけ100人前後が殺されています。トランプ政権が空爆しているのです。
いっぽう日本国内では、追い詰められた人民の右翼・排外主義への回収も着実に拡大しています。しかし、それへの抵抗は、理論的にも実践的にもあまりにも弱いのが現状です。若年層に顕著ですが極右勢力への支持がいっそう高まる一方で、抵抗運動の内部では、いかんともしがたい高齢化が進んでいます。にもかかわらず、その原因が真面目に、思想的・歴史的に検討されることすらない状況です。
しかしわたしたちは、なんとしてもこの危機を転換する進路を模索し、その糸口を見つけ出さないわけにはいきません。今日はこうした視点から座談会を行ないたいと考えていますので、協力をお願いします。では、どこから入っていきましょうか。やはり高市政権についてでしょうか。そこから少し遡ったり、逆に今後の展望を考えたりして、分析で終わらせずに、具体的に何が課題になるのか、どうしていけばいいのかという方向へ話が広がっていくことを期待しましょう。
稲垣 高市政権が日本国内でどのように評価されているか、最近の世論調査の数字をいくつかプリントしてきました。やはり高市政権の支持率は高いですね。若干落ちたとはいえ、11月22日?23日の『毎日新聞』の調査では支持が65%、不支持が23%です。年代別の支持率もありますが、若い世代ほど高い。18?29歳で74%、30代で76%という数字です。それから、いま問題になっている台湾有事をめぐる「存立危機事態」発言については、「問題があったとは思わない」が50%、「問題があったと思う」が25%という結果です。定数削減の問題については、賛成63%、反対14%。
さらに『毎日』では、10月にトランプと高市が会談した際、日米同盟の強化方針を再確認しましたが、それを「評価する」が64%、「評価しない」が15%という数字が出ています。また昨日発表されたJNN(TBS系)の世論調査では、高市政権を「支持する」が75・8%で、不支持は20・7%です。とはいえ、先月の調査より支持は6・2ポイント下落し、「支持しない」は6・4ポイント上昇しています。先月は支持するが82%という数字が出ていました。
それから、先ほど触れた台湾有事発言については、「台湾有事は存立危機事態になり得る」という高市発言に対し、「問題はない」と答えた人が55%、「問題だと思う」が23%という結果です。マスコミの報道を見る限り、国民世論としては高市発言を支持する傾向が強いと言えます。「存立危機事態」発言への支持率の高さをどう考えればよいか。12月1日号には逢坂さんの文章と墨面さんの文章もあります。そうしたものも踏まえて議論していきたいですね。
広野 わたしは、逢坂さんと墨面さんの主張に全面的に賛成です。その上で言うのですが、わたしはこの高市発言を聞いて、突拍子もないかも知れないけれど1938年の「近衛声明」を連想しました。近衛内閣は事態の進展に沿ってそれぞれ意図の異なる対中政策を同じ年に3回出したのですが、その第1次声明は「帝国政府は爾後(じご・これ以降)国民(蒋介石)政府を対手(あいて)とせず」と宣言しました。その後中国社会に分断を持ち込み親日傀儡政権をつくり、抗日闘争をつづける国民党の蒋介石派(もちろん中国共産党も抗日民族統一戦線に参加し闘っていたが)をひっくり返そうとしたもののうまくいかず、日中戦争の拡大から太平洋戦争に至ったわけです。わたしは今回の高市発言を、これに似た、平和な関係を作り出すのではなく対立と戦争を求める、明らかに一線を越えた発言と感じたのです。
もちろん時代状況、近衛と高市の成育歴、個人的資質などは相当に違うけれど、天皇主義者で反共主義者、アジアへの優越感を抱き抑圧民族としての尊大さを隠さない。その共通点ははっきりとみてとれると思うのです。

軍事国家化の諸相、それを促す要因とは
1938年当時と今日の国内・国際情勢の違い。中国は購買力平価GDPで米国を追い抜き世界第一位、日本の約6倍の経済力を持ち、人口は14億人。技術力でも米国を圧倒しているし、軍事力も米・露に次ぐ第3位(日本は8位)。「だから高市政権がいますぐにも戦争すると考えるのは短絡的で的外れだ」と考える人もいるでしょう。
「世界はいま、劇的に変化する移行期、転換期にあることは間違いない。……国際社会における『グローバルサウス』の台頭と、それに伴うパワーバランスの変化……多くの世界経済予測が、中国、インド、ブラジル、ロシア、インドネシア、メキシコ、トルコの7カ国が2050年には世界経済の約50%を占め、主要7カ国(G7)の占める割合は約20%まで低下するとしている。米ドルを基軸とした国際金融秩序や経済力を背景にしたパワーバランスは変化していくだろう」。(『毎日』11月13日「激動の世界を読む=中満泉・国連事務次長」)ことは明らかでしょう。
しかしまた、日本の独占支配階級(もちろん米国や西側の資本家階級も)、その政治的代理人であるトランプや高市たち、そしてそれに仕える官僚、財界人たちも、こうしたブルジョワ研究機関の報告を熟知しているでしょう。
だからこそ、わたしは、奴らの危機意識は強烈であり、資本主義体制の危機からの脱出口を求めて実際に戦争し、遮二無二戦争を遂行する法体制と実行体制を整備し、軍事産業を育成し、軍事力を増強し、経済・社会全体の軍事化を図っているのだと思うのです。
「スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は12月1日、世界の軍需企業の2024年販売額に関する報告書を発表した。上位100社の軍需関連の販売額は前年比5・9%増加し、6790億ドル(約106兆円)で過去最高になった。100社に入った日本企業の販売額の合計は前年比40%増の133億ドル(約2兆円)。防衛力強化を図る日本国内の需要が伸びた。……1位は米国のロッキード・マーチン。100社入りした日本企業は5社でトップは32位の三菱重工だった。他は川崎重工業(55位)、富士通(64位)、三菱電機(76位)、NEC(83位)。各社の販売額は前年比25?87%増となった。……米国企業が販売額全体の49%を占めた」【ロンドン共同】全世界で戦争経済化が急進行している。
日本の5社が過去最大の伸びとなったのは日本政府が2022年末の安保・防衛3文書改定により23─27年度の5年で防衛力整備費43兆円を計上したことが主因だろう。
岸田政権は27年度にGDP比2%まで増額させる方針を決定したが、高市政権は「2年前倒し」して 25年度中の2%への引き上げを決めた。11月には防衛費と関連費を含めた計約1兆1000億円を含む補正予算案を閣議決定し、当初予算を含む25年度の防衛費と関連費の総額は約11兆円にのぼる。これを仮に日本のGDPを600兆円として、米国が求めているとされる3・5%となれば、約21兆円となる。
日本政府は台湾有事を念頭に沖縄島を含む南西諸島・九州でのミサイル基地を整備し、日本全土で軍事基地を強化している。自衛隊と米軍の共同演習も1年中行なわれている。
2025年10月20日に結ばれた「自由民主党・日本維新の会 連立政権合意書」の、12の柱と47項目の政策には、▼天皇の男系継承維持、▼憲法9条改悪・緊急事態条項創設、▼別姓ではなく通称使用を法制化、▼「日本国国章損壊罪」の制定、▼長射程ミサイル等の整備と原子力潜水艦の保有、▼「防衛装備移転三原則の5類型を撤廃・防衛産業の育成、▼スパイ防止法の制定、▼原発再稼働、▼外国人対策の強化、▼衆議院定数の1割削減等々、超反動政策が記されている。
高市はトランプとの会談で「いまや日米は世界でもっとも偉大な同盟になった。日本も世界の平和と繁栄に貢献していく」と伝え「日米同盟の新たな黄金時代をトランプ大統領とともに作り上げていきたい」と呼びかけているが、その根底にはこの同盟への対抗軸として形成されている中朝ロの協力関係への怨念ともいうべき敵対心があるのだろう。
こうした内外状況のなかで、日本国の内閣総理大臣である高市は、11月7日の衆議院予算委員会で米中衝突も想定される台湾有事について日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」にあたる具体例を問われ、「先ほど有事という言葉がございました。それはいろいろな形がありましょう。例えば、台湾を完全に中国北京政府の支配下に置くようなことのためにどういう手段を使うか。……それが戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであるとわたしは考えます」と答弁した。これを高市は、「中国人民抗日戦争及び世界反ファシズム戦争勝利80周年」の年に、わざわざ日本の国会で公言したのです。わたしが先に抱いた近衛声明への連想は、この高市の発言が日本の針路の分岐点になるのではないか、との感覚があったからです。
1972年の「日中共同声明」前文には「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」があるし、第2項には、「日本政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」そして第3項には、「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」とある。高市の発言は、中国側からすれば「なぜそんなことをいま言うのか」となるし、歴史の経過を踏まえれば、「日本は昔と同じようなことをしようとしているのではないか」「第二次世界大戦の敗戦国である日本が、中国と国際社会に対して行なった約束を公然と破るものである」と受け止められても当然だ。
高市は、おそらくそうした歴史的事実と合意を知った上で発言しているのだろう。わざわざ「中国北京政府」などと発言し、両岸関係に分断を持ち込む反共主義者としてのみずからの考えを隠さないでいる。高市を支持している多くの国民は、その歴史と意味をほとんど理解してはいないのではないかと思うが……。
わたしは、なぜ自分たちの祖父母、父母の世代が、なぜあんな無謀で馬鹿げた戦争を止められなかったのかということを子どもの頃から思ってきましたが、それがいま、まさに自分が生きている時代に似たような状況が作られてきているのに、それを止められない。そして世論は圧倒的に高市支持が高い。だからこれをどうするかという問題が出てくるけれど、まずはこの情勢そのものの捉え方、高市発言をどう位置づけるのかをはっきりさせないといけないのではないかと思っています。
藤原 12月1日号の1面で書かれていることとも関わると思うんですが、いまの話にあった状況について逢坂さん、いかがでしょうか。
逢坂 広野さんがおっしゃったように、高市発言を支持している人たちが、その中身を本当に理解した上で支持しているかどうかは、大きな疑問だと思います。わたしたちは一応、学校で平和教育を受け、近現代史について最低限の知識は得てきた世代ですから、本来であれば「何が問題なのか」はある程度わかるはずなのです。
ところが、この数十年の右翼潮流の浸透によって社会の反動化が進行し、敵のイデオロギー攻勢の結果として、そうした歴史的実体が見えなくなってしまっているという問題もあるのではないでしょうか。
広野 そうすると、やはり日中戦争、アジア・太平洋戦争の時代を思い出すわけです。当時は天皇と軍部、そして教育、新聞マスコミ報道等によって、「この戦争は聖戦だ」「日本は正しい」と刷り込まれ、国全体が日の丸を振って兵士を送り出すようになってしまっていた。暴支膺懲(ぼうしようちょう・けしからん中国をこらしめる)の声が子どもも巻き込んで全国に響いていた。

1995年の発言に見る高市の歴史認識
いまの社会全体を見ても、自衛隊幹部が集団で靖国に参拝したり、自民党の西田や参政党の神谷が沖縄戦についてデタラメを大声で語ってそれが一定の支持を得たり、全国の小学校に『子ども版 防衛白書』を配布したりと、戦争遂行体制を強化する方向が意識的につくられています。高市の教育勅語好きは有名な話です。マスコミも自分たちのアジア太平洋戦争での戦争賛美・戦争犯罪の事実に頬かむりし、両論併記や政府の言い分の垂れ流しに終始している。日教組をはじめ労働組合も結集力が極端に落ちている。こうした状況に追い込まれていることが、高市政権の支持率が高い背景にあるように思います。
もうひとつ、さっき稲垣さんと話していたのですが、1995年3月16日の衆議院外務委員会で、当時新進党所属の委員として出席していた高市は、河野洋平外相に、国連特別委員会で朝鮮民主主義人民共和国の代表が「『敵国条項』を削除し日本の罪をぬぐうなら、侵略と犯罪を正当化し、国連憲章を踏みにじることになる」と反対したことを取り上げ、「わたし自身は、敵国条項というものが国連に加盟した段階でわが国とあまり関係がなくなっているというふうには思っていなかったわけです。非常に屈辱的な条項だと考えておったわけです」と述べている。またワシントンで当時の栗山駐米大使が記者会見をして、「日本がきちんと第二次世界大戦にいたった歴史を見据え、その反省のうえに立って戦後の日本があることを忘れてはならないし若い世代もこれを知っておかねばならない」と発言したことを取り上げて、「少なくともわたしは当事者とは言えない世代ですから、反省なんかしておりませんし、反省を求められるいわれもないと思っております」と発言している。
わたしは、高市のこの発言の報道を見て、〈思想運動〉の先輩で中学校の教師をしていた二谷利子さんが、当時「本当に驚いた。こんな人間が国会に出てくるとは」と憤慨していたのを覚えています。
つまり高市は、一貫して、彼女なりの歴史観を持ちつづけている。こうした発言の裏には「もう一回やったろか」という考えがあるとすら感じる。
藤原 司会として補足すると、高市は1995年の発言で「わたしは戦後世代だから反省する必要はない」と述べましたが、同じことを安倍も70年談話で「あの戦争には何ら関わりのない、わたしたちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と言っている。「若い世代に、謝罪を続けるような宿題を残したくない」と。そこがぴたりと一致していて、しかも若い世代には好感を持って受け取られた。いやそれが支持されるだろう世相をつかんだうえで「談話」が用意された。若い世代で高市支持が高い背景には、戦争に対してそうした意識が広がっているという点があると思います。つまり、日中戦争の経緯や、逢坂さんが書かれている「敵国条項」がなぜ盛り込まれたのか、台湾が中国と不可分の領土であると日本の総理大臣がかつて明確に約束している事実など、本来は戦後史として学ぶべきものがある。
しかし、それらを知っていたとしても「テストのためだけの知識」であって、必要から出発して主体的に掴み取った知識ではない。つまり自分自身とも、現代社会とも関係がないものだ、と受け止められている。
それを裏付けるのが、たとえば先ほどのTBS系の世論調査です。TBSは比較的政府批判も行ない、フジやテレ朝よりは真っ当だと評価されることも多いのに、そこでも高市の支持率が高い。
わたしも番組をよく見るのですが、青木理さんのように比較的真っ当な発言をするような論者もいる。しかし、「国旗損壊罪」や「スパイ防止法」を批判するときですら、かならず最後に「でも中国や北朝鮮みたいな暗い国になってもいいんですか」と締めくくられる。このように、なんだかんだ言っても日本は民主的で平和的な国なんだというメッセージが「真っ当」で「左派的」な論者の口から出る〝締めくくり〟が圧倒的に効いてしまっているのだと思います。
つまり、「過去の経緯はどうあれ、日本はいま、攻撃されているのでしょ?」という言い方が強い説得力を持ってしまう。
わたしたちの世代であれば、父母や祖父母から戦争体験を直接聞いたことがあるけれど、90年代・2000年代以降に生まれた世代になると、それはもう遠い昔の話。関係のない〝過去〟として処理されてしまっている。
そしてそこに「中国は人権を無視する危険な国で、いつ攻撃してくるかわからない」というイメージが、左派的な層を含めて広がっている。
だから、高市的な強硬姿勢が、ある意味〝革新的〟にすら見えてしまう状況を生んでいるのではないでしょうか。
軍事費の増額方針に賛成が60・4%、反対が30・4%という数字が出るなんて、20?30年前ならとても考えられなかったわけですが、その理由もそこらあたりにあるのでしょう。
逢坂 かつて自民党のなかには、元宏池会会長の古賀誠や野中広務元幹事長など、戦争体験をもつ政治家がいましたよね。かれらは中国に対してかれらなりの反省意識を持っていた。しかし、いまの自民党にはそうした人物がほとんどいない。中国が今回の高市発言を批判しているのも、高市個人というより、その発言に象徴される極右的な姿勢、そしてそれを支持する日本の世論や政治全体を批判しているのだと思います。
少しネットを見ていたら、『人民網』が、「鐘声」という『人民日報』では権威ある署名でかなり的確な国際論評を掲載していました。11月7日の高市発言の直後に党首討論がありましたが、それに臨んだ際に高市は台湾についてこう言ったのです。「サンフランシスコ平和条約で日本はすべての権限を放棄しており、台湾の法的地位を認定する立場にはない」と。しかしこの言い方は、日中共同声明のなかの「ポツダム宣言第8項を堅持する」、さらにはカイロ宣言まで遡る一連の日本が遵守すべき取り決めを完全に無視するものです。
広野 この台湾問題に関しての高市発言については、国連の設立国の一つであるフランスを含め、多くの国が中国の立場を支持しているはずですが、これらを積極的に報道し、本来であれば日本でももっと明確に誤りを指摘していいはずです。ところがマスコミも政党もそう簡単には言えず、結果的には中立を装う態度に落ち着き、「中国が難癖をつけているだけ」という風にあつかわれてしまう。高市自身は「従来の政府の立場を超えて答弁したように受け止められたことを反省点としてとらえている」などと言っているが、まるでそう受けとった側の方が悪いかのように述べている。反省という言葉を使いながらまったく反省せず、撤回しない。佐高信さんが5月に出版された本のなかで、玉木雄一郎、立花孝志、斎藤元彦、石丸伸二をあげ、「かれらに共通するのは反省のないこと。あるいは反省を求められても受け付けないことである」と書いているらしいが、いまとなってはその一族に参政党の神谷宗幣、日本維新の会の面々も加える必要があるでしょうが、そこに30年前も堂々と「反省しない」ことを宣言し、いまもそれを実践している先輩格の高市がいます。
藤原 どうですかね、藤本さん。職場ではこのあたり、話題になったりしますか。
藤本 いっさいないです。本当にいっさいない。それが逆に深刻な問題だと思います。すごく内向きなのですよ。もう職場の話題しか出てこない。
逢坂 若い人は日本と中国が戦争したことを知らないのではないですか。アメリカと戦争したことは知っていても。
広野 いや、以前学校の先生が言っていたのですが、「いま、こんなにアメリカと仲良くしてるのに、昔日本がアメリカと戦争していたなんて話は、子どもたちの頭のなかでつながらない」って。
藤原 うん、そうだと思いますね。アメリカは〝いいもの〟だというイメージが、歴史認識や政治的文脈ではなく、商業的な商品の文脈で幼い頃から刷り込まれている。ディズニーランドとかミッキーマウスなどはその象徴で、わたしは大嫌いなんですよ。
米丸さんは今までの話を聞いていて、どうですか。

中国の対抗措置は「やりすぎ」なのか
米丸 わたしの参加する労働運動は、高市政権に反対し反軍拡・反戦行動もつづけているのです。ところが、「高市発言は撤回させるべきだ」という点では一致しているものの、それと同時に「この間の中国の対応──たとえば経済関係や人的文化的交流までストップ弾圧するようなやり方はやりすぎではないか」「そんな対応はかえって危機を煽ることになるのではないか」という声がけっこう出るのです。たとえばアニメ歌手のコンサートが中止になって、テレビでその映像がくり返し流されたりするでしょう。
高市支持ではない人たちのなかにも、中国のやり方に対して、その主張の「中身」で判断するのではなく、メディアによってつくられた「見た目」だけで忌避感を抱いている人がかなり多いのではないか。それが非常にまずい、危ない状況だと感じています。
稲垣 高市の発言を批判してはいるけど、その「重さ」、犯罪性をどれだけ深刻に受け止めているかが問題だよね。中国にしてみれば、国交断絶のような断固たる態度を取って当然、というくらいの重い問題だと思う。
米丸 そうなのですよね。その重さを、こちら側が十分に説明しきれていない。そこが一番の問題だと思います。
広野 日本軍の「殺し尽くし、焼き尽くし、奪い尽くす」三光作戦で1000万とも2000万、いやそれ以上の中国人が殺されたと言われているわけでしょう。どういう殺され方をしたか、その具体例すら日本ではほとんど知られていない。
だからいまの感覚で「そこまで、文化公演まで中止させなくてもいいんじゃないか」といった発言が出てくるのかもしれない。でも、殺された側からすれば「忘れない」というだけではなく、「反省していないなら、またやるのか」という受け止めにもなるでしょう。そこが理解されていない。高市たちは、中国が怒ることはわかっていて、それを国内世論の動員に利用しようとしているのではないかと思います。
藤原 そうですね。そう考えていくと、あれは「口が滑った」という類いのものではなく、むしろ計画的に行なわれた発言だった可能性がいっそう強くあります。
世論調査も踏まえた上で、各年代層が中国との関係をどうとらえているのか、中国政府をどう見ているのかを把握したうえで、あのタイミングで切り出した──そう考えてもおかしくないわけです。
「尖閣」の問題にしても、メディアでは「あそこは日本の領土だ」という前提に異議を挟む論調はまず出てこない。たとえば中国戦闘機のレーダー照射が大きく報じられていますが、そもそもあの海域がどういう性格のものなのか、公海だとされているけれど、歴史的経緯からすればあやしい部分もある。それでも「中国が一方的に挑発してきた」という枠組みで固まってしまっている。
沖江さん、ここまでの話を聞いてどう感じましたか。

意外だったアメリカと台湾の反応
沖江 ぼく、この墨面さんの論文を読んで非常に興味深かったのは、高市はアメリカを巻き込みたい意図があるけれど、アメリカ─トランプは必ずしもそう動いていない、と指摘しているところだったのです。それともう一つ、台湾の人びとはもっと冷静だ、という指摘。こうした視点での報道はほとんど見かけないですよね。
正直、わたしはトランプの言動がこういう形だったなんて、この論文を読むまではまったく知りませんでした。
藤原 その後、メディアでも「トランプは中国の態度を批判せず」という小さな記事がちらっと出ました。大きくあつかうことはなかったのですが。
逢坂 電話会談の内容も、きちんと報道されていないのですよね。意図的に隠されている印象がある。高市自身も何も語らない。
でも実際には、トランプは助言しているのです。どこかのインタビューでそう述べているでしょう?
藤原 ええ、FOXニュースのインタビューですね。調べたら、司会者が「中国は友だちじゃないですよね。あんな連中はどうしようもないですよね」と振ったのに対して、トランプは「いやいや、他の連中の方がよっぽどアメリカから利益を奪っている」と言った。
トランプの言い分では、貿易の関係でアメリカから一番奪っているのは別の国だ、と。
沖江 その「別の国」というのは明らかに日本だということを墨面さんが論文の中でコメントしていますよね。
藤原 つまり、アメリカとしてはやはりプラグマティズムで動いている。中国とは本気でことを構えたくない。ベネズエラ周辺への対応や、パレスチナ、イランへの対応との違いを見ても、アメリカがどこを「リスクの高い相手」と判断しているかはわかる。中国と衝突することは、アメリカにとってあまりにも危険過ぎるんですよ。
沖江 それにアメリカ国内では分断が進み、トランプへの反対票もどんどん増えている。民主社会主義を掲げる民主党急進左派のゾーラン‐マムダニ氏(34)が当選し、トランプとの対立もあったりして、揺れているよね。
広野 日本は「対米従属」と言われているけれど、それと別に、日本の支配階級も独自の権益があって、協働して先進資本主義国の既得権体制を維持することに必死だと思うのです。
アメリカと歩調を合わせなければどうにもならないから、「兵器を買え」「軍事費を3・5%まで上げろ」と求められる。韓国は韓米首脳会談では国防費を早期に国内総生産(GDP)比3・5%に引き上げる方針を表明し、原子力潜水艦建造の承認も明記されました。韓国ではハンファグループ、現代(ヒョンデ)ロテム、LIGネクスワン、韓国航空宇宙産業(KAI)の防衛産業上位4社が、2023年に続き2年連続で世界の防衛産業上位100社に含まれました。すさまじいですね、韓国の軍事費も、韓米演習の規模も回数も。ユンソンニョル退陣後もこうした状況がつづいている。
藤原 世論の流れを見ていると、台湾の問題を強く打ち出せば、軍事拡大の国内世論をつくり出す効果が大きくなる。その点に注目したのかもしれませんね。そうすれば、もともと5年かけてGDP比2%に引き上げると言っていた軍事費を、前倒しして2年短縮で達成するということもやりやすくなる。核の問題についても「認めさせる」ために、逆算して動いているような印象すらあります。財源の問題にしても、細かい議論をしていたら実現できない。だから手法としては、一気に盛り上げてしまう。「高市さんはよく言ってくれた」「守旧派のオールドメディアが批判しても、高市さんは一人で立ち向かってくれた」という物語をつくり、その勢いで通してしまおうとしているのかもしれません。
稲垣 一昨日あたりの報道では、防衛費増額のために所得税を引き上げる「防衛増税」を、2027年1月から実施する方向で検討に入ったと言われています。『共同通信』の世論調査でも、防衛費増税に「賛成」が圧倒的に多い。
しかし当然軍拡によって人民の生活はさらに苦しくなる。想像力を働かせればそんなことはわかるはずなのに、それよりも「中国や朝鮮の脅威」というイメージのほうが強く効いてしまっている。
広野 国民の想像力が働かないように「操作」されているのじゃないかと感じる。非正規で年収200万円以下、シングルマザー、物価高騰で毎日の生活だけでも大変な人たちが本当にたくさんいる。ぼくはよくスーパーに行くけど、コメだけじゃなくて、野菜をはじめ生鮮食品などみんなアホみたいに高いよ。
そこに増税まで重なったらどうなるか、すこし考えれば「こんなのおかしい」とわかるのだろうけど、もう考える余裕すら奪われているのではないかな。スマホは肌身離さずもたされながら……。世界の巨大企業はAIバブルのもと、エヌビディア、アップル、グーグル、マイクロソフト、メタなどアメリカ巨大情報企業が圧倒的に上位を占めている。
藤原 だいぶ前だけど、うちの組合でも企業の内部留保は増えつづけているのに、労働者の賃金、つまり労働分配率はどんどん下がっている。そのことが数字としてはっきり示されているという情報の提供をやりました。
広野 ファクトチェックはもちろん必要なのだけど、トランプが来日したときに「日本では『トランプ帰れ』のデモがないから気分がいい」とか言っていましたよね。

大衆運動の規模に大きな違い
稲垣 『しんぶん赤旗』で各地の反戦行動が地図入りで紹介されているのだけれど、その参加人数が書いてある。それが200人とか300人とか。むしろ書かないほうがいいのではないかと思うくらい少ない数字を、「全国でこういう行動が展開されています」と載せている。もちろんいまの状況では100人の人を集めるのにも主催した人たちが大変な努力をしていることはわかる。しかし、それにしても外国の運動と比べると、ケタが違うんだね、本来必要なのは3万とか30万とか、そういう規模の行動が求められているのだけれど、現実にはまったくそうなっていない。2ケタ、3ケタ違っている。
藤原 いま、世界的に戦争が止まらない状況のなかで、諸外国の大衆運動はどうなのか。海外の運動体には日本の状況がどう受け止められているのか。どうなんでしょう。
稲垣 この20?30年で欧米の大衆運動も全体としてはかなり後退していると思うけど、少なくともガザのジェノサイドに反対する行動は世界各地で数万から数十万人規模で闘われています。
沖江 そう。ヨーロッパでも
各地で、パレスチナ人民に連帯する闘いが、数十万人の集会やデモ、そしてゼネストが行なわれている。たとえば、ガザでの停戦が発表された後、英国のロンドンで、「パレスチナのための全国行進」が行なわれ、50万人以上が参加し「パレスチナの解放を求める闘いは続く」と宣言し、英国政府にイスラエルへの武器供与をやめ、ガザの飢餓を止めるよう要求している。オランダのアムステルダムでもガザの大量虐殺は限界点を超えていると訴え赤い衣服を着て行進する「レッドライン」デモに、過去20年間で最大となる25万人が参加した。スペインでは、パレスチナ連帯の24時間ゼネストが実施され、1000以上の労組支部が参加し、マドリードで7万人以上がデモ行進を行なっている。
虐殺終結を訴える闘いは、ヨーロッパのみではなく全世界で闘われている。キューバのハバナでは、ディアス=カネル大統領の呼びかけで、ガザ虐殺に抗議する10万人集会がアメリカ大使館前の広場で開かれた。イタリアでも50万人規模のゼネストがあったし。ギリシャでもゼネストが闘われているし、アメリカでもさまざまな運動が起きている。日本とはまったく違う。稲垣 で、その〝差〟をどう考えるかが今後われわれが論議すべきもう一つのテーマでもあるわけですね。
藤本 わたしたちが開いた「10月社会主義革命100周年記念集会」に世界労連から寄せられたメッセージに「わたしたちは、日本の状況を、深刻な懸念を持って注視しています。日本では、大規模な軍事拡張、アメリカ帝国主義への従属の深まり、軍国主義とファシスト思想の復活を図る反動勢力の危険な台頭がおきています。こうした諸動向は、日本の人びとの平和と諸権利のみではなく、アジア太平洋地域全体の安定をも脅かしています」と書いてあったでしょう。つまり、日本の危険な状況は世界的にも注視されているのですよね。
藤原 中国が日本の高市発言について、ドイツやアメリカ(トランプ)など各国に自分たちの考えを伝え、意見を聞いて回っていますよね。どこも日本を正面から批判することはしないけれど、中国を一方的に非難するといった対応には非常に慎重です。
ところが日本のメディアでは「中国が各国を回り、自分の味方を増やして策謀している」という論調ばかり。書き方そのものが、もう他国とはまったく違っていますよね。
労働運動をはじめとする日本の大衆運動は、いま出てきたような世界各地での運動参加者の数と比較しても圧倒的に弱い。その背景には、これまでわたしたちが議論してきたような歴史的とらえ返し、労働者階級としての立場を鮮明にすること、そして国際的視点の弱さがあるでしょう。
こうしたことを確認したうえで、その状況を変えるために「ではわれわれはどうするのか」という議論をつぎに行ないましょう。

(『思想運動』1120号 2026年1月1日号)