究極の搾取強化策を絶対に葬り去ろう
残業代ゼロ・過労死促進を財界が再び提案


4月22日に開催された政府の経済財政諮問会議・産業競争力会議合同会議で、競争力会議の雇用・人材分科会主査の長谷川経済同友会代表幹事が、「新たな労働時間制度」=労基法上の労働時間規制を撤廃し、「労働時間とのリンクを外す」「成果ベース」の賃金制度とすることなどを求める提言を提出した。安倍首相はこれに対して、「時間ではなく成果で評価される新たな仕組みを検討してほしい」と表明し、6月に改定する成長戦略に盛り込む意向を示した。第一次安倍政権時代に「残業代ゼロ・過労死促進法」との強い批判を受けて断念したホワイトカラー・エグゼンプション制(WE)に新たな衣をまとわせ、仕切り直しをして「宿願に再挑戦」(『日経』)しようというのである。世界の労働者が闘いによってかち取ってきた一日8時間労働制の原則を根底から突き崩す究極の搾取強化策を絶対に許してはならない。

24時間365日働けと強要

提言は「基本的な考え方」で、「労働時間ベースではなく、成果ベースを基本とする時間や場所が自由に選べる働き方」を目指すとし、「高い専門性の人材」だけではなく、「子育て・親介護世代や定年退職後の高齢者、若者等の活用も期待される」と、すべての労働者にこの制度が適用されることを示した。長谷川代表幹事が合同会議で、「子育て中の女性が退社後に自宅に持ち帰って仕事ができるようになれば、子育て・介護世代を活用しやすくなり、雇用が増える」と主張したと『朝日』が報道しているように、公然と持ち帰り残業を奨励するばかりか、IT機器の急速な普及で可能となった「時間や場所が自由に選べる」=24時間、365日仕事に縛りつける働き方を強要しようとしているのである。
提言は「制度のイメージ」として、Aタイプ(労働時間上限要件型)とBタイプ(高収入・ハイパフォーマー型)の二つを提起している。Bタイプは年収1000万円以上の「高度な職業能力を有する社員」を対象としている点で、いったんは頓挫したWE制に類似する、いわば焼き直しだが、Aタイプは国が示す年間労働時間や対象者の範囲の基準のもとで労資合意により導入できるとされ、事実上無際限に対象者が拡大される危険性が大きい「一般社員型」と言うべき代物だ。『朝日』が「まるでブルーカラー・エグゼンプション。WEよりひどい」との公明党幹部の発言を紹介し、「収入が低い働き手も巻き込みかねない。実に乱暴な提案だ」と批判しているのは正鵠を得ていると言えるだろう。

労働時間と賃金のリンクを切断

両タイプともに、本人希望の尊重や不利益取扱いの禁止、当初は過半数組合のある企業に限定などを適用の要件としている。だが、労働者の団結とストライキを背景に資本と対等に渡り合える力を持つ労働組合がいま日本にどれだけ存在するだろうか。人事や査定で資本が圧倒的に強い力を持つもとで、個々の労働者がNOの主張を貫き通すのは至難の業であり、これらは適用を抑止する歯止めには到底なりえない。
「労働時間と報酬(賃金のことだ!)のリンクを外す」、「報酬は労働時間と峻別」、「報酬は目標達成度、成果を反映」――提言が繰り返し強調するここにこそ、WE制の核心がある。多様性、柔軟性、創造性などの美辞麗句をまぶして核心を覆い隠し、企業が求める成果が達成できなければ何時間、何日でも無制限に働かせ、残業や深夜、休日出勤手当を支払わずともお咎めなしという、資本にとってこれほど好都合な制度はないと言わねばならない。
提言は「早期に全国一律での展開が不可能な場合には、国家戦略特区や企業実証特例にて速やかに検討を行なうことも一案」としている。「世界で一番ビジネスがしやすい環境」を整備するために、企業活動の手を縛る法規制を緩和する特区や特例を活用して、かれらお得意の「小さく生んで大きく育てる」手法を使おうというのである。
日本の労働時間規制は、時間外・休日労働の上限が36協定さえ結べばほとんど青天井状態で、変形労働時間制や裁量労働制、フレックスタイム制の導入により、標準労働日=一日8時間労働制は形骸化の一途をたどってきた。提言の「新しい労働時間制度」が採用されれば、これにとどめを刺されることになる。この暴挙に何としてもストップをかけねばならない。

共同の闘いで労働法制改悪阻止を

規制改革会議や産業競争力会議がこの間あい次いで提案し、安倍政権が導入を目論んでいる一連の労働法制改悪案ももれなく提言に盛り込まれている。「予見可能性が高い紛争解決システムの構築」と称する解雇をめぐる労資紛争の「金銭救済システム」の創設、仕事がなくなれば容易に解雇でき正社員より安上がりに雇用できる「多様な正社員」=限定正社員の普及、「既存制度の見直し」と称する企画型裁量労働制、フレックスタイム制のいっそうの柔軟化=規制緩和などである。
見逃せないのは、最後の「実行体制づくり」の項で、経済政策と雇用政策を一体化した「総理主導の新たな会議を官邸に設ける」ことを提案していることである。これまで紹介してきた三つの会議はすべて関係閣僚と財界代表、学者で構成され、労働者代表は排除されてきた。労働法制・政策の策定は公労資三者構成の労働政策審議会で行なうという原則がこの間投げ捨てられ、財界の要望がこれらの会議を通じてストレートに反映する異常な状態が続いてきたが、「新たな会議」は経済政策=成長戦略に奉仕する雇用政策=労働法制の規制緩和を「総理主導」で一気に突き進めようとするものだ。
連合は提言が出た翌日の23日に反対声明を発表し、26日のメーデー中央大会で労働法制改悪に反対する特別決議を採択した。全労連、全労協、全港湾など幅広い労働組合の共闘組織「安倍政権の雇用破壊に反対する共同アクション」は5月9日、今国会に提出されている労働者派遣法改悪法案の審議入りを許さず、廃案に追い込むために衆院第二議員会館前で座り込みを行なった。これ以上の労働法制改悪を許さないナショナルセンターを束ねた共同の闘いを早急に大きく作っていこう。 【沢木 勇】

(『思想運動』936号 2014年5月15日号付)