「限定正社員」の本質は何か
それは『新時代の「日本的経営」』の質的深化だ
 

郵政の労働現場では四月から「新人事・給与制度」がスタートした。この制度の眼目のひとつは査定幅の拡大であり、競争を煽ることを通じて労働強化と人員削減を目論む。もうひとつの目玉は「新一般職」の導入。この「新一般職」はこの頃よく人口に膾炙する「限定正社員」とよく似ている。すなわち正規雇用と言いつつも従来の正規より待遇に大きな差がつけられているのだ。30歳過ぎで10対8くらいであった年収差は昇給がストップする55歳時点では10対6くらいに拡がる。生活給的部分がごっそり削られるのである。
これを「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換ともてはやしてよいものだろうか。この10対6とは、今年2月20日に発表された厚労省の賃金構造統計調査における正規と非正規の賃金格差の比率とほぼ同じ。ただ、限定正社員が職種や地域限定であって仕事そのものが消滅あるいは経営側がその地域から撤退した場合は解雇が正当化されるのに対して郵政新一般職は定年までの雇用は保証される。メンバーシップ性がなお濃いのである。
しかし、そんな違いを含めて新一般職を郵政版限定正社員と呼んで間違いではないと思う。そもそも「限定正社員」といってもさまざまなバリエーションがあるのだから。たとえば飲食業界などであまりに酷い労働条件のため人が集まらず、経営者が苦し紛れに正社員にしますよなんて言う。かなり場当たり的であって「名ばかり」の可能性大である。いっぽう産業競争力会議などで去年あたりから盛んに言われ出したのは、こうした先行する「名ばかり正社員」からもおそらくヒントを得ながら、もうすこし戦略性を持ったものだと思われる。

郵便事業の三区分
どういうことか。かつて1995年に当時の日経連が打ち出した『新時代の「日本的経営」』は労働力を次の三つに区分した。
①長期蓄積能力活用型(無期雇用)
②高度専門能力活用型(有期雇用)
③雇用柔軟型(有期雇用)
すぐ気づくのは、三区分といっても②の高度専門能力活用型の影が薄いことだ。郵政なら②に該当すると思われるエキスパート社員というものは40万人を超すグループ全体で3000人に満たない。他業界だって似たようなものではないかしら。ところが、限定正社員が拡がって行った先には、これとは異なる三区分が現出する。
郵政のうち郵便事業に話を絞ろう(郵貯、簡保や窓口は措いて、区分・配達など物流の現場のこと)。会社は労働力の「あるべき姿」を提示している。会社にとってこうしたいという労働力構成である。その最新版を見ると総数17万5100人が、こう三区分される。
①地域基幹職(管理者と再雇用を含む)5万8300人
②新一般職4万1100人
③非正規雇用(時給制)7万5700人
今現在がこの数字だというのではない。会社がそう持って行きたいという図である。現状では地域基幹職は10万近くいるし、新一般職は出来たばかりだから5000に満たぬ。地域基幹職とは従来の正規雇用のことで、今年四月から新一般職発足に伴いこう呼ばれるようになった。3年前2011年四月時点では10万2300人いた(この年、非正規の総数は15万1800人)。ちょっと大雑把に言えば、約10万の正規雇用が二分され、四割強が低賃金正規雇用になる。いっぽう斜陽産業である郵便事業でリストラによる人員削減の矢面に立たされるのは非正規雇用であるのは、その減少数の大きいことからも窺われる。

新三区分のねらい
これから何が見えてくるか。
少なくとも郵便の労働現場においては、『新時代の「日本的経営」』は爾後一九年を経た今日、質的に深化しようとしているということだ。かつての三区分は
①少数精鋭的正規雇用
②低賃金正規雇用(限定正社員)
③非正規雇用
という新たな三グループに変わろうとしている。急いで断っておけば、これは正規雇用が増えるということではない。従来の正規雇用が二つに割られ、非正規に近い低賃金の「正規雇用」が作り出されるに過ぎぬ。経営側とすれば、こんな手の込んだことをやるより、もっと一直線に正規を削り非正規を増やしたくもあったろう。しかし、終身雇用下での能力主義管理を通じて労働者性を骨抜いて企業主義的に絡め取ってきたがゆえに正規をただちに非正規にすることには困難もあるし(たとえば整理解雇四要件の存在)、終身雇用の経営側にとっての旨味もまた捨てがたいのである。
ここまで郵便の労働現場に即して見てきたけれども、これはわが労働社会全体の縮図になりうるのではないか。であればこそ、郵政における新一般職登場と符丁を合わせるがごとく産業競争力会議あたりで限定正社員が喧伝されるようになったのである。2013年改正労働契約法で、五年以上有期契約を反復更新してきた有期契約労働者は希望すれば無期契約に転換できることになった。限定正社員の核とされるのは、この人たちであろう。
ならば、かれらの労働条件を改善しゴマカシではない正規雇用に近づけていく闘いは資本の意図との正面対決となる。従来の正規雇用が削られていく過程とは少数精鋭化=労働密度の激しい強化に他ならず、これへの抵抗も併せて重要である。わたしたち郵政について述べれば、新一般職を含む「新人事制度」の導入を許してしまったけれども、導入妥結を承認したJP労組の昨年の全国大会における本部批判票が同労組結成以来最高(賛成336に対し反対124)となったところに闘いが無駄ではなかったことを確認したい。導入阻止から新制度下での抵抗へ、闘いは続く。【JP労組員・土田宏樹】

(『思想運動』936号 2014年5月15日付)