憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認のねらい
閣議決定を断固許さない!

「防衛問題」のタブー視を払拭

安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)と安倍晋三首相による壮大な「防衛問題」キャンペーンは、功を奏している。
安倍首相は、憲法解釈を変更して集団的自衛権を使えるようにする閣議決定を今国会中(六月二十二日会期末)に行なうため、再三にわたり自民党幹部に公明党との協議をまとめるよう指示した。年末の日米防衛協力のための指針(ガイドライン)「見直し」前に結論を出すためだ。
安保法制懇が、五月十五日に「集団的自衛権」報告書を提出した。五月二十八日、安保法制懇が提出した集団的自衛権の行使容認報告と安倍首相の検討表明をめぐって、衆議院予算委員会で国会論議があった。解釈改憲による集団的自衛権の行使容認に否定的な野党との論議はかみ合わず、安倍首相の独演会に終わった。
こうした動きに対し、護憲勢力を中心に解釈改憲反対の大キャンペーン、国会前での抗議行動が連日繰り広げられ、われわれも取り組んでいる。
そうしたなかで、安保法制懇および解釈改憲勢力は、労働者・勤労人民を含む「国民」の「防衛問題」タブー視を完全に払拭し、その目論見を貫徹しつつある。
一九八〇年代に有事立法問題が起きたとき、当時の中曽根康弘首相は、満を持したように、早速「これまで防衛問題を取り上げることは、世論を恐れてタブーになってきた。しかし、『平和』とか『人権』とか聖域とされてきたタブーに挑戦するときが来ている」と決意を表明した。

解釈改憲で明文改憲機能を果たす

安倍壊憲は、明文改憲をその先に見据え、「積極的平和主義」・「人道保護」などのマヌーバを使って解釈改憲で憲法「改正」を実現しようとしている。
二〇一四年一月十九日、自民党大会で採択された運動方針は、靖国参拝継続、改憲を明記した。「不戦の誓い」は削除。憲法について「時代に即した現実的な改正を行なう」と明記。第九条の明文改憲を明確にした上、基本的人権の永久不可侵性を削除した自民党憲法改正草案への「正しい理解」を深め、改憲への「機運を高めていく」として、全国で改憲についての「対話集会」(=国民的合意形成)を展開している。
いっぽう海外での戦争を可能にする集団的自衛権の行使容認を前提にした解釈改憲によって「積極的平和主義」を「強力に支援し、そのための国際貢献、外交を展開し、日本国民の人権を保護する」と強調。侵略戦争への反省を投げ捨て「戦争国家」づくりを進めている。これは明らかに日本国憲法の三大根本規範の一つ戦争放棄・国際平和主義に違反している。
安倍壊憲における「解釈改憲」論の展開は、明文改憲要求を一時的に沈黙させ、自民党憲法改正草案を封印させた。さらに「解釈改憲」は、憲法九条問題について「憲法と安保体系の矛盾があたかもないように説明するための理由付け」の役を果たしている。
これまでの憲法論によれば、「解釈改憲」は、支配者側にとっては、それがなし崩し的であるため国民に与えるショックが小さい。しかし、マイナス面として、①一挙に事態を転換することができず、②法や権力に対する国民の不信を増大しかねない。さらに、③解釈改憲というものには、やはり一定の限界がある。
安倍壊憲は、解釈改憲はどこかで限界に到達することが避けられないという法理論的常識を無視し解釈改憲を無限大に拡大化している。安倍政権は、解釈改憲によって、明文改憲でなければ為しえないとされた、集団的自衛権の行使を容認し、単に軍隊の存在を合法化するだけでなく、軍隊の合法化を梃子として国家支配体制としての軍事的体制を構造的全面的に確立する再編を同時進行で強行。
ファシズムの本格的確立は、憲法に基づいて、その支配を正当化することさえも必要としなくなり、したがって憲法論そのものが法律論としても意味を持たなくなる。その意味で憲法の「法」としての存在理由は終わりを告げる。安倍壊憲は、そうしたファシズム的性格を明確に有している。ファシズムは、帝国主義下における最悪の搾取・収奪体制であり、この点においても新自由主義と共通する。

安倍壊憲の歴史的性格と階級的性格

帝国主義の属性=過剰資本蓄積の下M&A(合併・買収)で拡大巨大化する資本、いっそうの海外市場争奪、資源および市場の利権獲得・拡大、それを担保する外交・軍事力。TPP(環太平洋経済連携協定)は、市場獲得競争の世界的拡大にともなうブロック化現象である。
新自由主義に基づく搾取・収奪の最大化。飽くなき搾取・収奪の典型は、とめどなく続く労働法制の改悪=憲法二五条(生存権)・二七条(労働権)・二八条(労働三権)違反の常態化である。とりわけ、就労している労働者の四割近くを占める非正規労働者を正規労働者化することは、労働組合運動だけの問題に止まらない社会主義革命運動を含む広い意味での労働運動がめざすべき最重要課題である。
急速に進む世界構造の再編のなかで、日本の資本家階級と安倍政権による軍事国家への再編、軍産複合体の抬頭が進んでいる。日本資本主義にとっては、日本国憲法に基づく平和主義が桎梏になっている。日本資本主義の図体にあった国家再編のためには、日本国憲法の破壊が何としても必要なのである。

閣議決定で九条も九六条も亡きもの

ブルジョワ・マスコミによる「防衛問題」の大合唱(その際、ありもしない朝鮮と中国の軍事的脅威が最大限にあおられる)のなか、自衛隊の本格的な海外派兵に向けた国民的合意形成が進行していることを見落としてはならない。
集団的自衛権をめぐり安倍首相は憲法解釈を変え、自衛隊による米艦防護やペルシャ湾の機雷除去に道を開くことに強い意欲を示した。首相は答弁で「国民の命や平和な暮らしを守る」と繰り返し強調した。
国民の合意を形成できる可能性のある「防衛論」を大いに盛り上げ、〝夜郎自大〟的改憲論の繰り返しでなく、解釈改憲を必要とする根拠を「防衛」、「国際貢献・外交展開」、とか「日本国民の人権保護」、「国際社会の一員」など、人びとが関心を持ちやすい問題に求めている。改憲イデオロギーが他のイデオロギーと一体となって出てくる。
改憲イデオロギーは、日本国憲法の価値理念の「肯定」「承認」を巧みに強調する。つまり改憲が「平和」「人権」「民主主義」の「拡充」「強化」として説かれている。支配者側の〝平和主義〟の原理とは、日米安保体制とその下での自衛隊の存在を含んだ現存する日本国の軍事体制の原理である。〝民主主義〟とは、自民党一党支配下の議会制である。
安倍政権は「国家安全保障会議(日本版NSC)」設置法、特定秘密保護法、国家安全保障基本法案の三点セットのうち、その要である国家安全保障基本法案を先送りし、これに関連する自衛隊法や周辺事態法などの「改正」案を秋の臨時国会に出すと言っている。奥平康弘東京大学名誉教授は、「今度こそはこれまでの憲法運動のあらゆる経緯を捨てて、何としても憲法九条二項を亡きものにして、自衛隊に集団的自衛権の行使を容認するいかなる法律も許さないことが大切だ。特定秘密保護法のときは運動の側の起ち上がりが遅かった」と指摘した。
閣議決定による解釈改憲は、立憲主義を否定し、憲法九条の平和主義と、九六条の憲法改正手続=国民主権(人民主権)の死刑宣告である。安倍政権の今回の手口は明文改憲を経ずして、憲法「改正」を成し遂げてしまう攻撃だ。いわば九条も九六条も一括して亡きものにするものだ。歴史的暴挙を決して許してはならない。われわれは、特定秘密保護法成立の二の舞を演じないように、安倍政権と真正面から対決し、今度こそかれらの思惑を打ち砕くため協力・共同しよう。【新田 進】

(『思想運動』938号 2014年6月15日号付)