『朝日』バッシングと言論封殺の危機
『朝日』第三者委員会設置は自殺行為


朝日新聞社は、「慰安婦報道」と「吉田調書報道」をめぐる政府と右派メディアによる大衆意識操作といってもよい猛烈な『朝日』バッシングによって満身創痍となっている。
「『朝日』報道」が軍事的性奴隷制という「固定観念」をつくりあげたという安倍は、10月6日の衆院予算委員会において、「河野談話」が吉田虚偽証言に依拠してのみ作成されたかのように、『朝日』の誤報訂正記事について、「誤報により多くの人が苦しみ、悲しみ、怒りを覚えた。そして日韓関係に大きな影響、そして打撃を与えた。誤報を認めたのだから、記事によって傷つけられた日本の名誉を回復するために今後努力していただきたい」(『朝日』10月7日付)と臆面もなく強弁した。安倍は当時の官房副長官石原信雄が、吉田証言にたいする疑義から「河野談話」の資料とはしなかったと明言しているのを知らぬはずはない。
第一次安倍政権いらい、「慰安婦にたいする狭義の強制性はなかった」とし、人権感覚のかけらもない安倍は身内の失態には甘い。安倍内閣の新閣僚山谷えり子国家公安委員長が「在特会」元幹部と写真撮影していた問題や、高市早苗総務相や稲田朋美自民党政調会長が、ネオナチの団体「国家社会主義日本労働者党」関係者と写真に納まっていた事実はうやむやとされる。ナチズムに厳しい欧州であれば政界追放の憂き目だ。
極右ナショナリストで固められた第二次安倍改造内閣と右派メディアの大合唱のなかで、『朝日』の毅然とした態度が求められていた。偏狭なナショナリズムに屈することなく、8月の紙面で公表した「慰安婦報道」訂正記事について、報道を訂正するまでなぜ長期間を要したのかなど客観的で公明正大な検証が求められていた。
バッシングの嵐が吹き荒れるなかで『朝日』は、慰安婦報道について検証する第三者委員会なるものを設置し、9日初会合が開かれた。
まず驚かされたのは第三者委員会7名の顔ぶれだ。ここには「慰安婦」問題を当事者の立場に立って論究する専門家がひとりもいない。安保法制懇座長代理の北岡伸一などはその言動において反動性が明らかな人物だ。
憲法九条の戦争放棄を否定しているのではない。九条第二項の「戦力の不保持」と「交戦権の否認」について、世界標準に合わせて否定することが必要だと述べ、集団的自衛権の行使にあたっては「行使を主張しているのではなく、いざというときのために行使できるようにしておくべきだ」と主張するペテン師だ。
委員会は、「慰安婦問題」における右派論客秦郁彦など有識者を招聘し、慰安婦報道をめぐる記事作成の背景、取り消しの経緯、日韓問題はじめ国際社会への報道の影響などを検証するという。はたして『朝日』木村社長がいうように「忌憚のない批判と提言」が可能だろうか。断じて否といわなければならない。すでに、「河野談話」をめぐり萩生田総裁特別補佐は、TV番組の発言で「見直しはしないが、談話の役割は終わった。来年は戦後70年だから新たな談話を出すことで(河野談話)が骨抜きになっていけばいい」(『朝日』8日付)と嘯いたが、その含意は安倍の政治信念、「河野談話を継承する」という立場の本音でもある。『朝日新聞』労働者とともにたたかうすべての仲間はこうした攻撃に屈してはならない。【逢坂秀人】

(『思想運動』945号 2014年10月15日号)