資本の危機乗り切り戦略の一環
労働者の幅広い結集で廃案に!


 第二次安倍改造内閣は今年6月に閣議決定した「日本再興戦略改訂2014」=新成長戦略に盛り込んだ労働法制改悪案を着々と実行に移そうとしている。その内容は、①労働時間と賃金のリンクを断ち切る「新たな労働時間制度」、②対象範囲や手続きを〝見直す〟「裁量労働制の新たな枠組み」、③柔軟でメリハリのある働き方を可能にすると称するフレックスタイム制の〝見直し〟の次期通常国会での法制化、職務等を限定した「多様な正社員」の普及・拡大、などである。
 日本の名目国内総生産(GDP)は過去20年来増大していない。アベノミクスによる第一の矢(金融緩和)、第二の矢(公共事業)の効果も長続きせず、4~6月のGDPは年率換算6.8%マイナスとなった。労働法制の全面的改悪は、独占資本の危機乗り切り策としての新成長戦略――「企業が世界一活動しやすい国」づくりにとってきわめて重要かつ即効性のある「戦略」なのである。そのことは、2007年、第一次安倍政権時に法案提出断念に追い込まれたいわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」、すなわち残業代ゼロ法案を「新たな労働時間制度」と称してまたぞろ登場させようとしている、独占の側の「執念」に如実に表われている。
 かれらは前回の失敗に学び、また衆参両院の絶対多数を背景に、労働者側委員を排除した諮問機関(経済財政諮問会議、産業競争力会議など)を使って資本の意を反映した政府方針(日本再興戦略)を固め、事務方(厚労省)の隠然たる抵抗(われわれの観点から見ればきわめて不徹底な抵抗)を封じたうえで三者構成(労・使・公益)の労働政策審議会にかけ法制化をめざしている。集団的自衛権行使容認に向けて内閣法制局長官の首をすげ替えたのと同じ周到なやり口である。この動きを甘く見ることは危険だ。よりいっそう搾取・収奪を強めるために、資本家階級は、〝粘り強く〟攻撃を仕掛けてくる。労働者階級もこの粘り強さだけは見習うべきだ。
 安倍政権の「雇用改革」案に対して、日本弁護士連合会、自由法曹団、日本労働弁護団など弁護士団体がこぞって反対声明、意見書提出を行ない、集会や学習会、街頭での宣伝行動を行なっている。
 労働運動の側でも、全労協、全労連、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)、全国港湾、航空労組連など幅広い労働組合が参加する「安倍政権の雇用破壊に反対する共同アクション」(昨年10月に結成。略称「雇用共同アクション」)が、労働法制をめぐる情勢の緊迫化を受け、9月17日には決起集会を開き、続けて10月22日には衆議院第二議員会館で「安倍雇用破壊をゆるさない集会」を開催するなど、ナショナルセンターの枠を越えた共同行動を進めている。「雇用共同アクション」は、先述の労働政策審議会の開催に合わせて、今後共同署名の推進や厚労省前アクション、国会前座り込み等の行動を展開していく。
 しかし全体としては運動の盛り上がり、労働者の結集と世論形成はいまだ非常に弱いと言わざるを得ない。昨年12月に日弁連が主催して日比谷野音を会場に行なわれた労働法制の規制緩和に反対する集会には、全労協、全労連傘下の組合だけでなく連合に所属する組合も参加し、大きな成功を収めた。いまこそこうしたより幅広い枠組みでの共同行動がいっそう強力に推進されるべきだ。
 当面の闘いの焦点は、一度廃案となったものの9月29日に衆議院に再提出された労働者派遣法〝改正〟案である。現行法の根本原則である「常用代替防止」をなくし、最長三年とされている派遣期間を条件付き(過半数労働組合の意見聴取)ですべての業務で延長可能にしようというもの。まさに派遣の自由化、恒久化であり、正規と非正規の就労構造の割合を逆転させようとする攻撃である。
 安倍政権は今臨時国会での成立をねらい、10月28日に審議入りする。二閣僚辞任に至った「政治とカネ」問題追及という波乱は予想されるものの、派遣法改悪法案に対する野党の足並みは揃ってはいない。派遣法の国会審議を立ち往生させ廃案に追い込むために、また、労働時間規制の解体と残業代ゼロ、解雇の金銭解決放任等の資本の目論みを葬り去るために、すべての労働者は、ストライキを背景に闘い抜く気概をもって、職場、地域からの反対運動を急ぎ構築しよう。
【吉良 寛・自治体労働者】

(思想運動 946号 2014年11月1日号)