国際時評ベネズエラ 米国のクーデター策動を直前で阻止
反革命勢力と闘うベネズエラ人民に国際的連帯を!
         

 以下の時評と世界平和評議会の声明で明らかなように、中南米においてアメリカを先頭にした帝国主義による新自由主義政策に抗し社会主義的方向性を持った国家建設を進めているベネズエラが現在反革命の危機に直面している。同国が社会主義キューバとともにラテンアメリカの進歩的統合をめざす中心的存在であることを考えれば、この反革命策動はベネズエラ一国を標的としたものではなく、この十数年で大きく前進した中南米全体の変革の流れを逆転させようとする攻撃である。国際的な支援・連帯の声をあげよう。 【編集部】

 2月12日、ベネズエラのマドゥーロ大統領は、米国のクーデター策動を直前で防いだと発表した。
 「このクーデターを主導したのは、米国のオバマ大統領である。オバマは、わたしを殺害し、政権から追い出し、権力を奪取しようとした。その策動は失敗した」と。そして、ベネズエラ人民に、引き続き「血塗られたクーデター」策動に対する厳重な警戒を呼びかけた。

米英カナダによるクーデター策動

 今回のクーデター計画は、米国が主導し、英国とカナダが協力した。
 首都カラカス市長でファシストのA‐レデスマ、米州機構(OAS)でベネズエラ政府攻撃を行ない国民議会の議員資格をはく脱されたM‐マチャド、暴動教唆罪の被告で現在刑務所にいるL‐ロペスたちは、クーデター実施予定日の1日前、2月11日に「ベネズエラ国民にむけた改革宣言」を発表し、マドゥーロ政権の暴力的打倒を訴えた。
 米欧のマスメディアは、M‐マチャドやL‐ロペスを「自由の闘志」「真の民主主義者」と持ち上げ称賛し続けている。オバマ大統領は昨年9月の国連総会でL‐ロペスの釈放を訴えた。昨年6月、M‐マチャドが政府転覆罪で告発された際には、告発をあざわらい「告発にはなんら根拠がない」と反マドゥーロ宣伝を連日行なった。
 クーデター計画の具体的な内容が次つぎと明らかにされている。
 計画は、昨年2月の街頭破壊活動開始日(後述)をクーデター実施日としていた。集会およびデモ行進のなかで多くの人びとを殺害することも計画されていた。ジェット機を使用し、大統領官邸、軍事情報本部、防衛公正省、地方自治体本部、検察庁、テレスール(南のテレビ)本部、全国選挙本部、カラカス地下鉄網を爆撃する予定であった。
 計画に関係した米国大使館員が特定されている。カナダ騎馬警備隊首脳と英国外務省首脳の関与も明らかになっている。証拠品として押収したパソコンから、クーデター時の爆撃目標を明示した地図が出てきている。
 また、軍幹部が、マドゥーロ大統領が政権からすでに追放されたことを発表しているビデオが押収された。このビデオは、爆撃実施後、カラカスあるいは米国マイアミのテレビ局から放送される段取りになっていた。カラカスの米国大使館はクーデター計画本部であった。

米国に支援された破壊活動

 2013年12月にベネズエラ全土で実施された市長・行政区議員選出の一斉地方選挙は、当初、既得権益を持つ独占資本による経済サボタージュの実施などに伴う経済困難のなかで、ベネズエラ統一社会主義党(PSUV)が軸となったマドゥーロ政権を支える左派同盟の苦戦が予想されていた。
 結果は、議員選挙では左派同盟が49%、右派の民主連合会議(MUD)が43%で左派が勝利し、市長選では六四の未確定行政区を残している段階でベネズエラ統一社会主義党が210を獲得し、53を獲得した民主連合会議陣営に圧勝した。
 L‐ロペスやM‐マチャドなど民主連合会議内の極右派は、選挙では勝てないと判断し、大学生組織、米政府援助機関、コロンビア極右や、内外のマスメディアと連携して、2014年2月から5月にかけ、野党が市政を握る各市を中心に2万件におよぶ街頭破壊活動を展開した。「死者43人、負傷者800人、外国人破壊活動分子60人を含む逮捕者2300人、被害総額150億ドルを出した。狙いは国軍を分裂させ、クーデターを誘発することであった。政府当局は、空軍の現役将校3人、陸海空軍の中堅将校30人を逮捕した」(伊高浩明、『世界』2014年10月号)。
 オバマ大統領は、今年に入ってベネズエラの反政府勢力支援のため500万ドルの国務省特別資金を承認した。また、「ベネズエラの民主主義を守るため」米国議会で集められた寄付は120万ドルにもおよび、ベネズエラ反政府勢力に手渡されている。
 ウクライナでは米欧の介入により、ファシストたちが政権につき、共産党が非合法化されている。米欧はロシアへの制裁を続けている。ロシアの輸出収入の7割が石油・ガスであり、原油価格下落はロシア経済を直撃する。「原油収入に依存するロシアを価格低落で揺さぶりたい米国と、原油下落で米国のシェールオイル生産に打撃を与えたいサウジアラビアの『同床異夢』」(名越建郎、『エコノミスト』11月25日)との指摘もある。
 原油価格急落は、原油確定埋蔵量世界一(300兆バレル)で石油産業による収入が外貨収入の96%を占めているベネズエラへの攻撃でもある。なお、キューバの貿易相手国(2013年)は、ベネズエラ(33%)、EU(22%)、中国(13%)である。ベネズエラへの攻撃はキューバへの攻撃ともなっている。

マスメディアによる扇動と意識操作

 「資本主義世界の情報の90%は六つのシオニスト・アングロサクソン巨大マスメディアによって操作されている」(P‐コーニング、『グローバル・リサーチ』2月14日)。マスメディアによる扇動と意識操作はますます手が込み人民にとって危険なものとなっている。
 『タイムズ』や『ワシントン・ポスト』は、マドゥーロ大統領を「才能のない元バス運転手」「不安定で専制的」と罵倒し、「マドゥーロ政権はいまにも倒壊しそうだ」と報じている。
 米国の経済紙『ブルームバーグ』(1月2日)は、マドゥーロ政権がガソリン値上げを発表したことをとりあげ「ベネズエラは国民に世界一安い石油を供給する余裕がない。国民はより少ない銃とより多くのバターが必要だ」とマドゥーロ大統領に勧めている。
 ベネズエラの防衛予算はGDPの1.2%にすぎない。中南米では、アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、ペルー、パラグアイ、ウルグアイよりずっと少ない。米国の軍事予算1兆5000億ドルとは較べものにならない。
 『ニューヨーク・タイムズ』(1月29日)は第一面に、「原油収入減、ベネズエラの店舗の棚は空である」との記事を掲載し、ベネズエラ経済が危機的状況にあると述べている。そのなかでは、独占企業のサボタージュによる物不足、マスメディアの扇動による人びとの消費物資の買いだめ、物価高騰をあおり密輸や備蓄をする独占企業の実態などは一切報道されていない。
 マスメディアは「ベネズエラの陰惨な状況」を連日のように伝えているが、ベネズエラの失業率は6%未満であり、居住費には国から補助金が支給されている。また、95%が一日三度の食事をし、1990年代と較べると消費量は2倍になっている。
 ベネズエラの最大の支援国は中国である。「2007年以降560億ドルの借款をもらい、原油で返済」(伊高浩明、同前)している。1月7日、北京を訪問したマドゥーロ大統領は中国による200億ドル超の新規投資で合意した。米州ボリバル同盟(ALBA)結成から10年が経った。相互援助、連帯、自決尊重の原則を堅持しながら、加盟国は当初のベネズエラ、キューバ、ボリビアの3か国から8か国に拡大している。
 ベネズエラ人民は中南米諸国人民との連携を強化しながら帝国主義および国内独占資本との闘いを進めている。米国に支援された反動勢力との闘いは予断を許さない。中国の動向も含め引き続き注意深く見ていく。
 (注)明記した以外に、『グローバル・リサーチ』のS‐レンドマン論文(2月16日、2月14日、2月4日)、E‐ゴリンガー論文(2月4日)を参照した。 【沖江和博】

(『思想運動』953号 2015年3月1日号)