中国人民抗日戦争勝利70周年記念式典をめぐって
その世界史的意義を歪曲する日本政府
戦争法案の強行採決阻止に集中しよう!


 中国政府は、「中国人民抗日戦争ならびに世界反ファシズム戦争勝利70周年」記念日となる9月3日、北京・天安門広場において、70発の礼砲を鳴らし記念式典を盛大に開催した。これは、昨年3月の全国人民代表大会の決定にもとづく。外交部報道官は当時、記念日の決定についてつぎのように述べていた。「日本帝国主義の侵略に立ち向かった中国人民の苦難に満ちた戦いを銘記し、侵略に反対し平和を守るという中国人民の堅い決心を示すため」と。
 第二次世界大戦の終結から70周年にあたる今年、ヨーロッパにおけるドイツ・ファシズムの敗退と結びつけて、世界反ファシズム戦争の東方における主戦場であった日本軍国主義に勝利した抗日戦争を記念する式典であった。日本が、英米中ソによるポツダム宣言を受諾し(8月14日)、東京湾に停泊した米国戦艦ミズーリ号甲板上で連合国と降伏文書を調印したのは1945年9月2日だった。式典を3日に開催したのは、当時中華民国政府の臨時首都があった重慶で抗日戦争勝利記念式典を開催したのが9月3日であったことによる。

習近平国家主席の談話

 記念式典における習近平主席の談話は、「中国が今後も平和の道を歩み続ける」という平和的発展路線を堅持する決意を述べるとともに、「新型国際関係」という独特の見解も表明した。以下の要約は『人民網日本語版』9月3日付による。
●中国人民抗日戦争の期間をこれまでの日中全面戦争勃発(1937年)から8年ではなく、「満州事変」(31年)から14年と強調し、世界反ファシズム戦争におけるアジアの主戦場としての地位と意義について述べた。
●国連憲章と国際秩序を守り、「中国がどの段階まで発展しようとも、永遠に覇を唱えず、永遠に拡張を行なわないと強調したほか、過去に軍国主義が我々にもたらした悲惨な経験を、決して他の国にもたらさず、反ファシズム戦争の成果を断固として守っていく」と決意を示した。
●習近平主席は談話のなかで、中国人民解放軍の定員を30万人削減することを宣言するとともに、最後につぎのように訴えた。「正義は必ず勝つ! 平和は必ず勝つ! 人民は必ず勝つ! 歴史の啓示したこの偉大な真理を共に銘記しましょう。」

歪められた「記念式典」

 今回の記念式典にはロシアのプーチン大統領や韓国の朴槿恵大統領、国連の潘基文事務総長ら49か国と11の国際機関の代表らが出席し、首脳の派遣は20か国にとどまった。それは、ひとつには、70年前の第二次世界大戦終結にいたる歴史認識において欧米とは大きな落差があることを物語っている。「抗日戦争」でもそのことは例外ではない。「中国人民抗日戦争」が中国共産党による抗日戦争と理解され、当時の国民党・国民政府を無視しているという批判がそれである。抗日戦争の遂行は、世界大恐慌後の世界情勢の激変、ファシズムの台頭と関連してコミンテルンの政策転換にうながされた中国共産党の抗日民族統一戦線政策の提起によって、国民政府を抗日の姿勢に導き実現したものである(1937年)。したがって国際的な反ファッショ戦線と密接な関連を持っており、国際情勢の推移と深くかかわった性質のものである。記録映画作家のヨリス‐イヴェンスや報道写真家のロバート‐キャパが中国戦線に入り、国民党と信頼関係をつくりスペイン人民戦線・国際義勇軍に繋がる抗日民族解放闘争を世界に発信したのもそのためである。今回の記念式典の標記がその視点を明瞭に示している。
 「抗日」に拘泥し日本政府は記念式典への出席を拒んだ。それどころか菅官房長官は、国連の潘基文事務総長が記念式典に出席することについて、恥知らずにも「国連は中立性を保つべきであり、過去の特定の出来事に過度に焦点をあわせるべきではない」と難くせをつけ、自民党はこの問題で国連に抗議書を送付することを決定した。
 今年は国連創設70周年でもある。国連創立大会の直前、4月12日にその理念づくりを主導したルーズベルト米大統領は急死する。帝国主義戦争として始まった第二次世界大戦の性格に反ファシズム・民主主義擁護、民族解放戦争としての内容の質的変化をもたらしたのはナチス・ドイツの侵略戦争に抗するソ連邦の参戦による。社会主義ソ連邦が主権国家として存在し、激烈な独ソ戦を戦い抜き2000万人以上の犠牲を出しながら、東ヨーロッパ各地・ベルリンを解放したこと、反資本主義・反帝国主義勢力を代表していたことが、反ファシズム解放戦争の硝煙のなかで誕生した国連創設に深く関係している。
 中国人民の抗日戦争は、反ファッショ・民主主義擁護の国際的な闘争を主導したもう一方の最重要な闘いであり、その勝利は国連憲章に示された平和と民主主義を基本理念とする戦後の国際的な枠組みづくりに決定的な貢献をする。
 抗日戦争の勝利を祝うことは、その世界史的な意義を再確認することであり、その式典に国連の事務総長が出席するのは当然のことである。
 1945年5月に、サンフランシスコで開催された国連創立大会には、共産党側の代表も中国代表団に参加している。当時、米国に滞在していた評論家の石垣綾子はつぎのように述べている。「終戦当時、アメリカの対中国政策は中共敵視ではなかった。蒋介石の国民党と延安にある毛沢東の共産党との連立政府を、戦後の中国に樹立する構想を立てていた。けれども、蒋介石の独裁政権は、腐敗して、中国民衆から愛想をつかされるとみてとったルーズベルト大統領は、中国の民主勢力をもりたてるために、国連創立大会には共産党側の代表をおくることを、強く望んだのであった。」(『回想のスメドレー』)
 潘基文事務総長の返答は、軍事パレードを含む記念式典への出席は「歴史の教訓と未来のため事務総長として当然のことだ」というものだ。外交部報道官は「歴史を銘記し、烈士を偲び、平和を大切にし、未来を切り開くという中国人民の決意は、国連憲章の重要な精神でもある。国連は歴史の失敗を繰り返さないための仕組みでもある」と非合理な要求をして騒ぎ立てないよう関係国に促すとコメントしている。(『人民網日本語版』9月8日付)
 10年ごとの国慶節に行なわれていた軍事パレードにおける観閲式も抗日戦争記念式典では初めて実施された。メディアの注目は、披露された最新兵器に集まり、「パレード軍事力誇示」(『朝日』9月4日付)と中国の「軍備拡張」を喧伝するものだった。株安に揺れる中国経済が減速するなかで開催された記念式典をめぐって、日本のマスコミの報道は、「人権より主権にこだわる習政権の姿勢は、それこそ70年前までの全体主義にも通じる統治ではないのか」(『朝日』社説8月30日付)と揶揄するもので、改革開放後の社会主義市場経済がもたらした矛盾を突くのではなく、もっぱら批判の矛先を共産党による指導体制に向けていた。

戦争法強行突破を許すな

 安倍政権は、支持率が急落するなかで、日中関係の好転を画策していたが、抗日戦争勝利記念日をずらして訪中する計画を断念し、いまも反対世論が6割を超える戦争法案強行突破に賭けている。
 いまそのための世論誘導として辺野古新基地建設に向けた工事の一時中断、新国立競技場建設の白紙撤回と支持率挽回に躍起である。「72年見解」も「砂川事件裁判最高裁判決」による集団的自衛権行使容認の立法論拠も破綻したいま、山口繁元最高裁長官からも「集団的自衛権行使は違憲」だと批判される始末だ。参議院審議においては、朝鮮・中国脅威論を全面展開し、安全保障環境の変化をふりかざすしか能はなくなった。朝鮮が厳しく告発していた米韓合同軍事演習「ウルチ・フリーダム・ガーディアン」が強行されているさなか、韓国軍兵士2名が地雷によって負傷するという事件を契機に南北間で一触即発の危機が発生した。背景には朝鮮戦争が休戦状態のなかでの米韓合同軍事演習の性格が、「共同局地挑発作戦計画」という戦略を行使している点にあると考えられる。安倍政権は韓国側の一方的な「朝鮮による挑発」というデマを煽りたてている。
 また中国については、東シナ海・南シナ海における海洋進出を安保法制強化の必要性の根拠にあげ、「力による現状変更」と一方的な主張を弄んでいる。先述した抗日戦争記念式典の軍事パレードに触れて「軍拡の脅威」を煽り戦争法案を正当化している。
 欺瞞的な「安倍70年談話」が、支持率急落を押しとどめる役割をはたしたことも見逃してはならない。「談話」が語る「いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。この原則を堅く守り」とは、常識的に理解すれば「抑止力論」の否定であるはずだ。
 嘘とペテンで固めた「積極的平和主義」の旗を引きずり下ろせ! 安倍政権にとどめをさすために、八・三〇集会が示した人民の力をさらに押し広げよう。 【逢坂秀人】

(『思想運動』965号 2015年9月15日)