2016年年頭アピール 敗北の総括こそが勝利への鍵
階級的見方を研ぎ澄まし、安倍政権と対決しよう!


 1945年8月、アジアの人びと2000万人以上、日本人約310万人の命を奪いとって、天皇を頂点とする日本軍国主義は敗北した。なにをいまさらあたりまえのことを、といわれるかもしれない。しかしわれわれ日本人民の現代の歴史は、すくなくともこの苦く、悲惨な歴史的経験を確認することから出発しなければならないはずだ。
 にもかかわらず安倍政権は、2015年8月に、自国の侵略と植民地支配の歴史に一切誠実に向き合うことなく、無知と無恥でぬりかためた自己中心の「戦後70年談話」を発表し、9月には第二次大戦の結果として国際的な反ファシズム勢力の総力をもって獲得された日本国憲法の平和主義を骨抜きにする、憲法違反の戦争法を強行採決した。こうして安倍政権は、自民公明の国会議員の圧倒的多数を頼みに、内外の批判を封じ込め、戦後70年を乗り切った。国会前をうめつくした最大12万人の抗議の人の波。われわれも連日、「壊憲NO! 96条改悪反対連絡会議」の旗のもと行動にかけつけた。そこには「SEALDs」や「ママの会」をはじめ、これまでの運動ではみられなかった人びとが数多く参加していた。またそれをリードし下支えした「戦争をさせない1000人委員会」や「戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会」の活動も日を追って活発になっていった。われわれは、戦争法が成立させられた後のいまこそが、この闘いを真剣に総括し、次の闘いにのぞむ重要なときだと考えている。

安倍政権の本質

 日本資本主義は世界第3位の経済力をもっており、それを維持・拡大するためにもそれに応じた軍事力をもつ、平和憲法にしばられない「普通の国家」=ブルジョワ独裁の日本帝国主義としてある。
 少し長くなるが、その性格をはっきりと示す最近の典型例をあげる。2015年12月11日から3日間、安倍首相はインドを訪問し、モディ首相との首脳会談を行なった。新聞各紙は一斉にその外交「成果」を報じたが、内容をみると①「平和安全法制」(戦争法)を「積極的平和主義」の具体的実践として支持するよう要請、モディ首相が同法制を支持する旨発言。②安倍首相は防衛装備品及び技術移転協定と防衛関連情報を交換するための情報保護協定の署名を歓迎。米印海軍の合同演習「マラバール」への自衛隊の恒常的参加を決定。
 「JAI」(日米印)の協力を進めたい旨発言。海上自衛隊の救難飛行艇「US2」の輸出については引き続き協議。③日本の原発技術をインドに供与する原子力協定の締結で原則合意(インドはNTP・核拡散防止条約不参加国だ。インドが核実験を行なった場合日本が協力を停止することで理解を得たとは言うが、どうなることかわかったものではない)。④(インドネシアの高速鉄道計画で、日本は中国との受注競争に敗北したが)インド西部ムンバイ―アーメダバード間のインド初の高速鉄道計画に日本の新幹線方式を導入。総事業費約1兆8000億円のうち最大で81%、約1兆4600億円の円借款を供与。条件は償還期間50年(据え置き期間15年)、利子率年0.1%と「過去にない破格の設定」(日本政府筋)。さらに新たにインド進出日本企業向けに1.5兆円の金融特別枠を設定しビジネス機会を創出する。

軍事化への傾斜

 なんともあけすけな、としか言いようがない合意内容である。これは第一に、米中逆転時代の到来といわれる中国の台頭を前に、日米同盟を強化し、米日豪印、そしてそこにフィリピン、ベトナム、さらに韓国も加えて中国包囲網を形成するぞという宣言だ。安倍政権は戦争法成立の前に自衛隊と米軍の役割分担を定めた防衛協力の指針(日米ガイドライン)を改定し、東アジア太平洋地域をこえる全世界的規模での軍事共同行動を可能にした。TPP(環太平洋連携協定)の大筋合意も、経済ばかりでなく政治的・軍事的意図のあることを隠さない。また経団連などの業界団体からの強い要求を受けて、武器輸出三原則を「防衛装備移転三原則」に変え、軍需生産の拡大を「成長戦略」の目玉にしようとしている。文民統制も外し、軍事費は今年初めて5兆円を超える。米軍を軸とする軍事演習は通年が恒常化している。
 戦争法に反対する運動の中で「アメリカの戦争に日本がまき込まれる」という声が広くきかれた。しかし基本的にアメリカ帝国主義の指揮のもとに日本帝国主義の路線が敷かれているにしても、安倍らは安倍らで日本独自の国益・ナショナリズムを追求しており、そこには日米の確執も存在する。
 ソ連・東欧の社会主義体制崩壊後、イデオロギーの対立は終わったと喧伝され25年がすぎたが、事実はまったく違う。旧東欧社会主義諸国では共産党の非合法化も行なわれているし、戦後70年の今年、第二次大戦の評価をめぐって先進資本主義国と中露、朝鮮などとの認識の違いが公然化した。その最たるものが「安倍70年談話」であった。

普遍的価値とは?

 戦争法反対運動のキーワードとして、「立憲主義・民主主義を守れ」が使われた。しかし安倍たちが進める普遍的価値にもとづく政策とは、かれらなりの(つまりブルジョワ支配階級の)自由、民主主義、基本的人権、法の支配、市場経済の「尊重」ということだ。これとわれわれ労働者人民の求めるものはどう違うのか。
 こうした日本政治の反動化の根底に、80年代以降の資本家側の攻撃に有効に反撃できず妥協と敗北をつづけた労働運動の弱体化をみるべきだ。2006年9月から1年間の「第一次安倍内閣」では、教育基本法が改悪され、防衛庁が防衛省に格上げされ、日本国憲法の改悪手続に関する法律(国民投票法)が制定された。その後の第二次安倍政権での特定秘密保護法制定、集団的自衛権の行使容認の閣議決定をはじめ、この10年であらゆる部面で安倍が掲げた「戦後レジームからの脱却」は確実にすすんだ。われわれの任務は、日本社会の反動化を食い止める職場生産点での労働者・労働組合の力をなんとしても再生させることだ。

沖縄県民の闘い

 状況は圧倒的にわれわれ人民の側に不利にみえる。しかし、12月14日、沖縄県民は県内の市民団体、労働組合、経済界、政党など幅広い団体を網羅する「辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議」を結成した。沖縄県民は唯一、先の衆議院選挙の四つの小選挙区すべてで自民党候補を破って基地反対派を当選させた。名護市長選挙で稲嶺候補を、県知事選挙では翁長候補を当選させ、明確に新基地建設反対の意思を示した。「オール沖縄会議」の設立趣意書は言う、「沖縄の政治・社会大衆運動史上かつてない世論の結集をつくりだし、中央政府と対峙してでも沖縄の未来は沖縄が切り拓くという気概に満ち溢れている」と。
 沖縄県民の闘いの根底には、県民の4分の1近くの12万人以上にのぼる沖縄戦での戦死者の教訓がある。これがこんにちの、いのちを大切にする闘いにつながっている。さらに沖縄の闘いは、基地あるゆえにベトナム戦争をはじめアメリカの戦争に加担させられているという加害者としての意識と、朝鮮・韓国、中国にたいする侵略の歴史が常に意識されている。『琉球新報』と『沖縄タイムス』の2紙が県民世論をリードしているのも大きな特徴だし、意見のちがいを議論する場がある。沖縄の不屈の、あきらめない闘いに学び、連帯し闘いつづけていくことを、新年に確認しあおう。【広野省三】

(『思想運動』972号 2016年1月1日・15日号)