〝常軌を逸している〞者は誰か?
労働者の目で朝鮮と世界、日本を見つめよう!


オバマ発言のウソ

 4月26日、オバマ米国大統領が、訪問先のドイツでアメリカのCBSテレビのインタビューに答えて、核実験やミサイルの発射を繰り返す朝鮮民主主義人民共和国(報道では北朝鮮、以下本文では朝鮮と表記)について、「常軌を逸した国」と述べたという。その上で、金正恩第一書記について、「あまりに責任感がなく、われわれは近寄りたくもない」と非難したともいう。
 しかし、常に“反北朝鮮キャンペーン”を繰り広げているブルジョワ新聞の報道にもとづいてみても、事実はこうである。3月7日から4月30日までの2か月ちかく、「史上最大、史上最先端」の米韓合同軍事演習=米軍の増援演習「キー・リゾルブ」と野外実動演習「フォール・イーグル16」が実施された。韓国軍約30万人、米軍約1万7000人が参加。原子力空母「ジョン・ステニス」や最新鋭のステルス爆撃機B2や戦闘機「F22」なども派遣された。また、米韓両軍は昨年、ゲリラ戦の要素を多く盛り込んだ新たな計画「5015」を策定した。輸送機で特殊部隊を朝鮮に送り込んだり、海兵隊が海から上陸したりして朝鮮の内陸部に進撃する訓練を時間をかけて行なう。破壊対象となる重要施設には、朝鮮の軍事基地や金正恩第一書記の居所も含まれるとみられる。これに対し朝鮮は、SLBM=潜水艦発射弾道ミサイルの発射や新型の中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射を繰り返すなど、激しく反発した。
 朝鮮の李洙外相は4月23日、訪問した米ニューヨークでAP通信のインタビューに応じ、米軍が韓国周辺の海域で韓国軍と合同で行なっている軍事演習をやめれば、朝鮮も核実験をやめる用意があると明らかにした。それに対してオバマ米大統領は、24日、メルケル独首相とハノーバーで共同記者会見し、「真剣に受け止めていない」とこの提案を退けた。冒頭のオバマ発言はそうした経過のなかでのものである。
 4月4日付の『朝鮮中央通信』は、〈朝鮮半島の核問題は徹頭徹尾、米国によって生じたものである。/朝鮮戦争の時期、侵略の群れが共和国地域に対する『原爆投下』説を持ち出した時から数十年間、米国の核脅威は日増しに増大している。/共和国に対する核先制攻撃が国家政策として公式化され、毎年、朝鮮半島に米国の各種の核戦争兵器が投入されてわれわれの目の前で核戦争演習が露骨に強行されている。/今この時刻にも、米軍と南朝鮮かいらい軍の30余万の大兵力とB52核戦略爆撃機、原子力潜水艦、原子力空母打撃集団など、米国の核戦略資産が総動員されて核戦争の賭博に狂いたっている。/これが、わが共和国の安全と平和を重大に侵害し、わが人民の生存権に直接的な脅威になるということはあまりにも明白である。/米国の核脅威・恐喝と合同軍事演習は、朝鮮半島の情勢が核と核が衝突しかねない一触即発の極端な境地に突っ走るようにした根源である。/米国とその追随勢力がわれわれを核で脅かし、共和国の尊厳と主権を侵害しようと襲いかかっている状況で、われわれが核を保有し、それを強化する方向へ進むのは至極当然であり、必須不可決のことである。/世界最大の核兵器保有国であり、世界的に唯一に核兵器を使用して特大型の核犯罪を犯した米国、そして南朝鮮を米国の核前哨基地に転変させたかいらい逆賊と、陰に陽に莫大なプルトニウムを保有した日本が誰それの「脅威」についてけん伝することこそ言語道断であり、正義と平和に対する欺まんの極みである〉と主張している。
 一方、『西日本新聞』4月30日付は、〈安倍晋三首相は5月1日からの欧州歴訪で、弾道ミサイル発射など挑発行動を繰り返す北朝鮮に圧力をかけるため、英国など先進7カ国(G7)に連携強化を提起する方針だ。一連の首脳会談で、国連安全保障理事会決議に基づく経済制裁の厳格な実施を確認。北朝鮮に早急に核放棄するよう強く迫り、26、27日の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の首脳宣言に反映させる。……北朝鮮は首相歴訪中の6日に朝鮮労働党の最高指導機関である党大会を36年ぶりに開く。5回目の核実験実施が懸念されており、結束を示す必要があると判断した〉と報じている。自分たちの思い通りにならない者にはどんなことでもやる。まさに、執拗で野蛮な帝国主義のむき出しの姿が、ここにある。

朝鮮に対する態度は日本人民の力量試す

 昨年9月に戦争法(安保関連法)を強行採決した安倍政権は、3月末にこの法案を施行し、戦争への道をひた走っている。明文改憲について安倍は「任期中に成し遂げるために次の参議院選挙で3分の2の議席を獲得する」と再三にわたり明言している。
 そしてその戦争政策を正当化するために、中国と朝鮮を敵とみなし、かつ侮蔑する政策を強力に進めている。日本の支配階級は、アジアの盟主としてあった自分たちが中国に追い抜かれた現実がなんとも受け入れ難いのだろう。政府・マスコミ一体となった猛烈な反中キャンペーンによって、日本国民の九割近くが中国に好感をもたない状況が生みだされている。
 朝鮮に対しては、人工衛星打ち上げや核実験、そして拉致問題を政治的に利用した「反北キャンペーン」が大々的につづけられている。だが、先に見たように、真実はまったくあべこべである。朝鮮に対し先制核攻撃を含む軍事的脅威を一貫して与え続けているのは、米韓日の帝国主義の側である。朝鮮政府は朝鮮戦争の休戦協定を平和協定にすることを常に提起してきたが、それを頑なに拒んでいるのが米国である。そしてその米国と同盟関係を結ぶ日本政府が率先して反北政策をとり、在日朝鮮人の民族教育を受ける権利の妨害や渡航制限の強化などの攻撃をエスカレートさせる。それが原因となり、結果となって、ヘイト行為の横行を許している。
 こうしたなか、2000年春に多くの方々との協働で出発し、今年で16年目の活動に入る「変革のための学習と行動のひろば」HOWS(本郷文化フォーラムワーカーズスクール)は、米韓合同軍事演習最終日の4月30日、2016年前期プレ企画として、白宗元(歴史学博士)先生を招き「米韓合同軍事演習に対峙する朝鮮はいま――『独自制裁』発動後に平壌・開城を訪れて」を開催した。会場満員の60余名の日本人と朝鮮人参加者は、93歳を過ぎてもなお、反帝国主義のファイティングスピリットをみなぎらせる白先生の熱弁に聞き入った。白先生は、米韓合同軍事演習の最中の3月に訪朝されたが、平壌や開城の市街は緊張感はあるものの平常の社会生活が営まれていたこと、しかし米韓の軍事侵略には国をあげて防衛する態勢が敷かれていること、そして目を見張る朝鮮の発展、とりわけ科学技術を重要視する政策とその成果、日朝の歴史と日朝人民連帯の必要性、を縦横に語られた。
 国会前で、そして全国で戦争法反対、憲法改悪反対が叫ばれている。しかし、米韓合同軍事演習に反対する日本人の側の声と行動は極端に少なかった。アジア太平洋地域の2000万人、日本人310万人の犠牲を生んだアジア太平洋戦争の歴史、朝鮮と台湾の植民地支配の歴史の総括がなされないまま、「平和な戦後の日本」に滑り込むことは許されない。朝鮮戦争特需による日本帝国主義復活の歴史ひとつを取り上げても、安倍「戦後70年談話」の欺まん性は明らかだし、昨年末の被害当事者を無視した日本軍「慰安婦」問題の日韓「合意」は破棄されるべきだ。わたしたちが戦争反対を叫ぶとき、極右反動安倍政権と対決するときには、必ずこのアジアと日本の歴史を胸に刻んで考え行動する必要がある。なかでも、朝鮮民主主義人民共和国の政治・経済・軍事・社会にたいする学習、事実の追究は不可欠だ。

沖縄の反基地闘争と連帯するために

 ここでは十分触れられないが、沖縄の反基地闘争に連帯するときにもこうした歴史認識と現実の理解が求められている。辺野古代執行訴訟は3月4日に国と沖縄県が和解した。しかしその後も安倍は「辺野古が唯一の解決策」と言いつづけている。3月31日にワシントンでオバマ米大統領と会談した際も、「辺野古移設が唯一の解決策との立場は不変だ。急がば回れの考えの下、和解を決断した」と表明し、辺野古での新基地建設推進を改めて対米公約している。
 4月3日付の『琉球新報』は、〈沖縄県が実施した2015年度「地域安全保障に関する県民意識調査」で、米軍普天間飛行場の辺野古移設に対して58.2%が反対と答え、賛成する25.5%の倍以上になった。普天間飛行場の固定化についても「容認できない」が68.6%と圧倒的だ。「容認できる」は6.7%にすぎない。/県民意識調査結果から言えるのは、米軍普天間飛行場を閉鎖し、県内移設でない新たな選択を模索すべきだ、というのが県民多数の意思ということだ。「辺野古が唯一」と繰り返す安倍政権は、真剣にこの結果と向き合い、沖縄の民意を尊重すべきだ。……在沖海兵隊の実戦部隊を海外に後退させる計画がある中、辺野古移設に固執し、新基地を沖縄に造ろうとする態度は理解し難い。基地は沖縄に押し付けておけばいいという差別意識すらうかがえる。/そうした政権の本質は県民に見透かされている。本来、国民が等しく負うべき安全保障上の負担を「沖縄問題」とすり替え、国民の目をそらし続けてきたからだ。意識調査で「沖縄の基地問題は本土の人に理解されていると思うか」という質問に、県民の82.9%は「理解されていない」と答えたことが、それを示している〉と報じている。

人民の困難を逆用する安倍政権

 安倍政権は憲法改悪で「緊急事態条項」の新設をもくろんでいる。今回の熊本地震に際しても、この条項の必要性を強調する便乗的・政略的発言が自民党や政府関係者から相次いだ。安倍たちは、憲法にこの条項を加えることで独裁的な権限を内閣に集中し国民の基本的人権を大幅に制限できるように画策している。今次震災への便乗という点では、米軍のオスプレイが「救援活動」に投入されたことは断固糾弾されねばならない。
 これは日米軍事同盟を美化し、防衛省の同機購入(17機で3600億円)への同意形成をねらい、佐賀空港への配備問題を前進させようとの魂胆が見え見えだ。さらに許せないのは、熊本地震の広がりが予想できないなかで、政府と九州電力が国内で唯一稼働中の川内原発の営業運転を平然とつづけていることだ。
 東日本大地震と福島第一原発事故の大惨事からわずか5年、いまだに溶け落ちた核燃料のありかすらわからず、10万人ちかい住民が福島県内外で避難生活を強いられているというのに。これは福島と熊本、鹿児島の人びとの苦しみを足蹴にする行為としか言いようがない。
 安倍政権が看板政策として掲げた日本経済の現状は、円高・株安の進行でお先真っ暗の状況だ。資本主義の矛盾は世界中いたることころで噴出している。そのことにブルジョワジーは気づいていないわけではない。だからこそ、自分たちの地位を守るために必死に動き回っているのである。
 さて冒頭の見出しに答えよう。言うまでもなく“常軌を逸している”者とは、とどまることを知らない金儲けの追求、その実現と体制の維持のためには、謀略・脅迫・経済封鎖・内乱醸成・侵略戦争などなど、ありとあらゆる汚い手口をつかっても少しも恥じない、いや、その“常軌を逸した”行動の理由を相手のせいにして自分たちの「正当化」をはかる米日韓帝国主義、その政治的代理人のオバマ・安倍・朴、そしてそれを大々的に擁護・宣伝するブルジョワ・マスコミである。
 敵は強大でずる賢い。しかし人民を信頼し、分断を許さず団結して闘いつづければ、決して負けはしない。朝鮮と沖縄の闘いは、そう教えている。 【広野省三】

(『思想運動』979号 2016年5月1日)