朝鮮への「制裁」を問うシンポジウム開催
安倍政権の敵視政策を止めさせよう
 

 5月21日、東京・田町交通ビルホールにおいて、在日本朝鮮人人権協会の主催で「日本の朝鮮民主主義人民共和国への『制裁』を問う」シンポジウムが開催された。報告は、李春熙さん(弁護士)、金舜植さん(弁護士)、山口正紀さん(ジャーナリスト)が行ない、3名のパネリストの討論を鄭栄桓さん(明治学院大学准教授)がコーディネートした。
 安倍政権は、本年2月10日、朝鮮民主主義人民共和国(以下「朝鮮」)の核実験と人工衛星打ち上げロケットの発射を理由に、「我が国独自の対北朝鮮措置」とする「制裁」を発表し、実施してきている。国連安全保障理事会が「北朝鮮への制裁決議」を採択した3月上旬より約1か月早い独自「制裁」である。
 野党を含め国会がほぼ全会一致で「制裁」強化を決議し、マスコミは「国際社会(内実は米国を筆頭とする独占資本主義国家群)は正義、朝鮮は悪」とする情報を毎日、朝から晩まで垂れ流している。今回のシンポジムは、日本社会にあって、独自「制裁」が在日朝鮮人に対する深刻な権利侵害に及んでいる実態を明らかにし、対朝鮮「制裁」の法的・人道的問題を批判的に検討するために開催された。
 このルポでは、李弁護士の行なった「制裁」の具体的内容と問題点について伝える。金弁護士の朝鮮学校排除・差別問題、山口氏のマスメディアの問題は、双方単独で取り上げるべき重要な課題と思うが、紙面の都合で割愛させていただく。

拡大する「制裁」

 2月10日、外務省発表の「拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決するために何が最も有効な手段かという観点から真剣に検討してきた結果」とした、新たな対朝鮮独自「制裁」の内容は以下の通りである。
●人的往来の規制措置
 ①朝鮮籍者の入国の原則禁止
 ②在日朝鮮当局職員および当該職員等の再入国の原則禁止(対象者を従来より拡大)
 ③日本から朝鮮への渡航自粛要請
 ④日本の国家公務員の朝鮮渡航の原則見合わせ
 ⑤朝鮮籍船舶の乗員等の上陸の原則禁止
 ⑥対朝鮮の貿易・金融措置に違反し刑の確定した外国人船員の上陸、およびそのような刑の確定した在日外国人の朝鮮を渡航先とした再入国の原則禁止
 ⑦在日外国人の核・ミサイル技術者の朝鮮を渡航先とした再入国の禁止
●送金、資産凍結など
 ⑧朝鮮を仕向地とする支払手段等の携帯輸出届出の下限金額を100万円超から10万円超に引き下げ
 ⑨人道目的かつ10万円以下の場合を除き、朝鮮向けの支払を原則禁止
 ⑩資産凍結の対象になる関連団体・個人を拡大(40団体・20個人)
●船舶・航空機
 ⑪人道目的の船舶を含むすべての朝鮮籍船舶の入港を禁止
 ⑫朝鮮に寄港した第三国籍船舶の入港を禁止
 朝鮮との輸出入は2006年10月以降全面禁止が継続中で、さらに、人的往来の規制措置、送金の規制、資産凍結を強化したのだ。たとえば在日朝鮮人から朝鮮への親族への10万円を超える送金(現金の手渡しを含む)は禁止される。朝鮮の親戚が亡くなっても、10万円を超える香典はできない。在日朝鮮人は10万円以上の遺産を、朝鮮の親族に渡せない。また、朝鮮籍の人が日本から海外に出国するときに、「私は北朝鮮には渡航しません。北朝鮮に渡航したことが確認された場合には、再度上陸(日本再入国)が認められないこと承知した上で出国します」との「誓約書」への署名を求められる。これも重大な人権侵害である。

マスメディアの朝鮮バッシング報道

 シンポジウムに参加してのわたしの感想を述べる。
 『朝日新聞』は国連安保理の「制裁決議」が出た直後の3月4日に、「北朝鮮制裁 着実に実行してこそ」と題する社説で「(北朝鮮の)行動パターンを改めさせるには、過去4回の決議を上回る制裁が必要だった。(中略)北朝鮮の貿易・金融の機会が絞られるため、市民生活への影響も避けられないが、現状のまま無謀な兵器開発を見過ごすことはできない。厳しい制裁強化はやむをえまい」と臆面もなく主張し、在日朝鮮人差別に加担した。
 これまで4回の安保理決議にもかかわらず、国連加盟国(朝鮮を含む193か国)のなかで「自国の北朝鮮制裁を一度も報告したことのない国」が半分近くあり、朝鮮の貿易相手先は中国が約9割といわれる(3月4日『朝日』社説)。
 米日韓による国連安保理を舞台にした必死の「制裁」と妨害にもかかわらず、朝鮮は自国のみの力で核開発と人工衛星を軌道に打ち上げる技術を持つにいたった。国連安保理(実質は米国主導)決議、日本の独自「制裁」でも朝鮮の経済と科学技術は発展している。
 「制裁」が朝鮮の政治に及ぼす効果は確認できていない。しかし、日本の独自「制裁」による在日朝鮮人の人びとへの影響は計り知れないものがある。
 現在の在日朝鮮籍の人びとは1910年の朝鮮併合以降、日本による植民地支配の結果として日本に移住することになった人びとである。これらの人びとの基本的人権と権利を旧植民地宗主国である日本政府は、保護すべき義務があるはずだ。ところが安倍政権は反対に、「制裁」によって人権を侵害しているのである。
 朝鮮半島の非核化を実現させ、休戦状態のままの朝鮮戦争を正式に終わらせるためには、朝鮮が何度も米国に申し入れているように、国連(実態は米国)との休戦協定を平和協定にかえる協議を抜きにしては実現しない。安倍政権には在日朝鮮人攻撃を止めさせる、マスメディアには朝鮮バッシングの報道を止めさせよう。【田沼久男】

(『思想運動』981号 2016年6月1日号)