イギリスのEU離脱と参議院選挙 (上)
激動期の世界、日本人民の進路を考える

 六月二十三日、欧州連合(EU)からの離脱か残留かを問う国民投票がイギリスで行なわれ、離脱の意思が示された。離脱一七四一万七四二票(五一・八九%)、残留一六一四万一二四一票(四八・一一%)、投票率は七二・二%と報じられている。二十四日、離脱が確実になると、世界の金融市場は大荒れとなり、世界同時株安に発展した。
 「(二十四日の)日経平均株価は取引時間中に前日終値比1374円34銭(8・5%)安の1万4864円1銭まで下落。終値は前日比1286円33銭安の1万4952円2銭と約16年ぶりの下げ幅で4カ月ぶりに1万5000円を割った。/株安は各国に広がり、……アジアでは韓国が一時4・7%安となったほか、インドが4・0%安、中国は2・9%安となった。震源地の英国は8・7%安、フランスが10・3%、ドイツが10・1%それぞれ下落した。米ニューヨーク株式市場でもダウ工業株30種平均が一時、538ドル(3・0%)値下がりした。……円相場は一時、約2年7カ月ぶりに1ドル100円を突破し、99円0銭まで急騰した。円は対ユーロ、ポンドでも上昇した」(『毎日新聞』六月二十五日朝刊)。株の下げ幅は「一〇〇年に一度の危機」といわれたリーマンショックの時を超えた。 
 各国の支配階級、安倍政権と日本独占ブルジョワジーは、肝を潰し、あるいは頭を抱えたにちがいない。マスコミが伝えた大方の予想は、まあいろいろあっても残留するだろうという楽観的なものが多かったし、米・独・仏の首脳をはじめ安倍も残留を進言していたのだから……。結果が出てからの「情が理に勝った」「大番狂わせ」「国民の不満読み違え」「ポピュリズム」などといった評言も、この間の事情を物語っている。
 しかし、ひるがえって、われわれ日本人民はどうだったか。事態の推移を正確にとらえようという姿勢さえ弱かったのではないか。こうした反省の上に立って、ここではイギリスのEU離脱問題をとりあげ、われわれが教訓化すべき課題を検討したい。

欧州覆う移民問題

 現代世界では、政治・経済・軍事その他すべての情報が、瞬時に全世界を駆け回る。われわれは日々ブルジョワマスコミの報道に囲まれて生活しているが、その情報だけでは、世界の動きを正確にとらえきれない。支配階級による情報の取捨選択が行なわれているからだ。だからわれわれが日本社会の変革とプロレタリア国際主義にもとづく活動を進める上では、闘いの当事者の声・第一次資料、海外の論評などにあたる必要が、どうしても出てくる。インターネットの発達で情報量は飛躍的に増えているが、そうだからこそ、われわれの必要とする情報を探し出す能力の向上が求められている。そうした意味で、本紙の姉妹誌『社会評論』二〇一六年冬・一六年一月十日号の〈インターナショナル レビュー〉欄に掲載された「難民危機と米国――NATOによる干渉の大量虐殺的性格」キーラン‐ケリー執筆・田窪清秀訳の一部を紹介してみたい。
 それは、「世界は突然気づいた、難民危機が始まっていることに。現在世界には、第二次世界大戦以後のどの時期よりも多くの難民が存在する。その人数は、二〇〇一年末の時期に比べて、三倍に膨れあがった。この問題は、ごく最近に起こったことのように扱われているが、実はそれが起きるには、長い年月を要した。その圧力は、くりかえし、くりかえし加圧され、ついに意図的な無関心の堤防を決壊させたのだ」と書きはじめられている。
 国連難民高等弁務官事務所の二〇一六年六月二十日の発表によると、二〇一五年末時点での世界の難民や難民申請者、国内で居住を追われた人の数は推計六五三〇万人に上り、一年間で五〇〇万人増、世界で一一三人に一人が難民化しているという。近年のヨーロッパの移民問題は、八九年から九一年にかけてのソ連・東欧社会主義体制の倒壊とその後のアメリカ帝国主義を先頭とする全世界的規模での資本のグローバリズムの爆発的展開、新自由主義=規制緩和・構造改革・民営化路線の徹底的推進がその背景にある。広大な旧社会主義国の市場が出現し、安い労働力・ヒトの移動の自由が実現した。
 東方拡大で二〇〇四年にポーランドなど一〇か国が新たにEUに加盟、イギリスには東欧などから年間三〇万人を超える移民が大量に流入した。
 移民労働者の多くは低賃金で働き、多くの英国人が移民たちに仕事を奪われたと感じた。イギリスの無料の公的医療や、子どもの養育手当や住宅補助制度の利用などをめぐっても反感が広まっていった。キャメロン政権は、移民の流入を抑えると公約したが成功しなかった。そして欧州大陸には、内戦がつづくシリアなどからの難民があふれている。
 キーラン‐ケリーはこう書く。「現在の危機の原因には、あらたなホロコーストが含まれる。しかし誰もその事実を認めようとはしない。巨大な暴力と巨大な破壊の事実は、隠し通すことができない。われわれは、西側諸国の干渉の後に起きた、破壊と死の跡形を見ることができる。しかしわれわれは、意図的な無知と否定を貫いてきた。かつてのドイツ人が、明白な事実とドイツ人による大量虐殺の性格を否認したように」と。そしてさらに「真実は、中東、アフリカ、中央アジアには、広範なジェノサイドが拡がっているということである。ひとつの新しいホロコーストが、われわれの上に覆いかぶさっており、おびただしい難民の数は、その氷山の一角にすぎない。空爆、侵略、不安定化、政権転覆、バルカン化、経済封鎖、汚職、債務、価格暴落、破壊、暗殺、零落、さらに凶暴化さえ用いて、……」と。
 二〇〇一年の九・一一事件以降、アメリカ帝国主義はアフガニスタン、イラク、シリアなどの中東地域で一五年間になんなんとする「テロとの戦争」を続けている。そしてその終戦の目途はたたない。そればかりかそのアメリカの侵略戦争の中からIS(イスラム国)が産み落とされたのだ。二〇一一年からはチュニジアを皮切りに北アフリカで「アラブの春」となづけられた政変が起きた。リビアには「カダフィ政権の弾圧から人民を救い出す」との口実で、八〇〇〇回以上の空爆が行なわれ、いまだに政情は不安定のままである。シリア内戦にもその裏にはアメリカ帝国主義の影がある。
 イギリスのEU離脱問題では、移民の問題と同時に、欧州各国での右翼勢力の伸長が取り上げられる。フランスの極右「国民戦線」、オランダの極右「自由党」などなど。
 しかし問題がそれだけであるはずがない。資本家階級と労働者階級の現実を見てみよう。世界の六二人の金持ちが世界人口の約半分の三二億人分の資産を持ち、租税回避地・タックスヘイブンには大企業や富裕層がおおよそ三〇〇〇兆円ものカネを保管しているという。日本の国家予算は約一〇〇兆円だからその三〇倍のカネが裏で回されている。いっぽう労働者人民の生活はといえば、「国家にはカネがない、大企業がカネを儲けることが先決だ」と生活の改善は常に先送りされる。改善どころか、各国政府は横ならびで金持ちと大企業を優遇し、賃下げと労働条件の改悪を進め、失業率は青年層を中心に慢性的に高止まり。そして年金・医療・介護・生活保護・子育て・教育などの社会福祉・公的資金は削減されるいっぽうだ。「ここで起ちあがらないで、なにが労働者だ!」この気概がEUからの離脱の流れの中にかならずあるはずだ。それをつかみ出すことは、八〇年代半ば以降闘いらしい闘いもできずに後退をつづけている日本の労働者の闘いを活性化させることにつながるだろう。そして日本における反改憲闘争の前進にも必ず資すると思う。

国民投票の力

 そう考えていくと、もうひとつ、今回のイギリスでの国民投票の結果は、国会での圧倒的多数の議席を背景に憲法改悪の道を突きすすみ、任期中に国民投票を実施して明文改憲を狙う安倍たちにとっては、あってはならないこと、悪夢と映ったにちがいない。国家の進路をめぐって議会の多数だけでは実現できない意思表示、国民投票の威力・怖さに気付いたにちがいない。内部にさまざまに矛盾する要素を抱え込んでいても、それが一つの方向にまとまると、底知れぬ力を発揮する、その事例が今回のイギリスの国民投票で改めて示されたのだ。
 もちろん国民投票は人民が選択すべき万能の策ではないし、われわれは、日本国憲法の改悪を発議させない闘いに全力をあげる。
 安倍たちは、風向きがまだ弱いと感じてか、あるいは寝た子を起こすなと思ってか、意識的に改憲問題を今度の参院選の争点から外している。しかし改憲勢力で三分の二の以上の議席が獲得できれば、これまでもそうだったように、これで自分たちの改憲の方向は支持されたと言いだして、当然のように明文改憲を口にしだすだろう。国民投票は、改憲を望む者たちが、自分たちが必ず勝てると判断したときに、大々的な改憲宣伝を行ない、かつ改憲反対の宣伝が十分できないようにさまざまな手を打って、しかけられるだろう。しかし、この国民投票の持つ、支配階級にとっての恐怖、われわれにとっては逆にも利用できる利点の意味を、今回の事例も含めてわれわれは十分検討する必要がある。六月二十四日、新聞各紙は朝刊で一斉に参院選の序盤情勢を報じたが、『朝日』『毎日』『東京』『読売』『日経』『産經』の六紙のうち、『読売』「与党改選過半数の勢い」以外、五紙がそろって「改憲勢力三分の二をうかがう」の見出しをつけている。今回の参院選をめぐるこの状況は、国民投票法反対運動の強化と、国民投票に備えた準備の緊急性も示している。

批判の自由について

 さらに言えば、イギリスでの離脱派の勝利は、運動内の批判と討論の在り方にも示唆を与えるかもしれない。EU離脱が、それだけでイギリスの労働者階級人民の未来を約束するものではないことは自明の理だ。労働者階級の未来を勝ち取るためには、自国の独占資本と、EUという欧州の帝国主義センター、あくまで資本主義の枠内での解決を目ざすもの、あるいは右翼排主義者との闘いに勝利しなければならないのだ。
 いかに野蛮で矛盾に満ちた資本主義であっても、労働者階級人民によってそれが打倒され、社会主義が実現されない限り、自分たちの支配は未来永劫つづけられる。その帰趨をきめるのは、熾烈な階級闘争にどちらが勝利するかであることを、ブルジョワジーは知り抜いている。しかし、この階級闘争の観点が、労働者階級の側に圧倒的に弱い。あるいはこの観点をなるべく薄めよう、隠そうとする傾向が見られる。いわく社会主義とか資本主義とかイデオロギーの時代は終わったとか、本心を言えばみんなに嫌われる。そうして「事を荒立てるな、選挙で票が欲しい」の本音が顔をだすのだ。
 このことは憲法にとどまらず、日米安保、自衛隊、天皇制、さらには沖縄の基地問題、日米地位協定、原発再稼働、日米原子力協定といった日本国家と日米同盟の支配原理を打ちこわす闘いをどうすすめるかという問題と、深くかかわっている。現在の参議院選挙のなかで、自公与党と野党との力関係、そしてゆるやかな野党共闘のなかで、こうした課題を必ず前面に押し出して闘えとは言わない。しかし「日米安保条約、自衛隊、天皇制の問題での私たちの考えは、野党連立政権になった場合、横に置きます」(『産経新聞』六月二十八日付「党首に聞く」共産・志位和夫委員長)というのでは、最初から闘いにならないのだ。
 そうこう書いているうちに残りのスペースがなくなった。いずれにしても、こんどの参院選では自公与党の議席獲得を一つでもへらす行動が必要だ。一人区は野党統一候補に、複数区は少しでも当選の可能性のある改憲反対候補に、そして比例は社民党へ、そしてそれがどうしてもいやな人は共産党への投票を呼びかける。時代の変化、米中逆転時代の到来、アメリカの戦略と日米同盟、安倍政権の性格、そして参院選の評価などは次回に書きたい。(次号につづく)
【広野省三】

(『思想運動』983号 2016年7月1日号)