「戦争法」強行成立から一年
自衛隊の武力行使を現実化する南スーダンPKO
アフリカへの経済侵略を軍事的に補完


 「日本国憲法および法令を遵守し、……事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め……」とは、陸海空自衛隊員の入隊時の「宣誓」の言葉である。憲法を守ることと、自身の危険よりも任務を優先する、という本来真っ向から対立する意味をもつ文言が、一つの文の中に並存してある矛盾。自衛隊という存在そのものを言い得た「宣誓」だが、昨年強行「成立」させられた「戦争法」(安全保障関連法)によって、「事に臨んでは危険を顧み」させない現実の強制力が、かつてない強さで自衛隊員にかけられている。自分たちの「死は鴻毛よりも軽」く扱われていると、他でもない自衛隊員自身が感じているに違いない。しかし、あくまでも自衛隊は乗り込んでいく側であり、派兵先の人びとに自衛隊が銃口を向けるということにほかならない。

派兵強行する政府の詐術

 安倍政権が「戦争法制」遂行の最初の踏み台として利用しようとしているのが、南スーダンだ。国連南スーダン派遣団(UNMISS)には、すでに、陸自施設部隊約三五〇名が派兵されている。今年の十一月に交代する第一一次隊として派兵される陸自部隊(青森市駐屯第九師団第五普通課連隊が主体)に「新任務」として課されようとしているのが、改悪されたPKO法に盛り込まれた「安全確保業務」(従来のPKO法では禁じられていた「任務遂行のための武器使用」が認められる)や「駆けつけ警護」(襲撃された他国軍やNGOなどを救出する)、「宿営地の共同防護」(宿営地を守るために他国軍との連携をとる)だ。それらを想定した訓練も八月末から強行されている。
 南スーダンの過酷な状況のはじまりを辿れば、第一次・第二次スーダン内戦、さらにさかのぼりイギリスのスーダン南北分断支配、現地支配層との癒着構造、とりわけ南半部での労働者の搾取収奪に行き着く。「部族紛争・民族紛争」としてマスメディアは描き出すが、そうした「紛争」の裏にはその根本原因をつくりだす帝国主義の存在がある。
 南部で住民投票が行なわれ、有効投票総数の九九%が南部のスーダンからの分離独立を支持し、二〇一一年七月九日南スーダンが独立した。これに伴い、「和平プロセス支援」をかかげた国連スーダン・ミッション(UNMIS)が終了し、南スーダンの「国づくり支援」のためとするUNMISSが設立された。
 そもそもイギリスをはじめとした帝国主義・外国軍隊による、長年にわたる政治的・経済的介入、武器供与をはじめとした軍事的介入が、ここまで混沌とした状況をつくりだした。そうした根本原因を既成事実として放置した上でなされる「支援」とは何か。それは本質的に、行なう側の利害追求の手段となり、「支援」とはそれをカモフラージュするための仮装となる。南スーダンでは二〇一三年十二月に内戦が勃発し、昨年八月、政府軍と反政府勢力の間で和平協定が結ばれた。しかし何度「停戦合意」が結ばれても戦闘は止まず、日本が派兵しているUNMISSの報告書「現在進行中の紛争」は、政府軍と反政府勢力の武力衝突、民間人の虐殺、子どもを含む強制徴兵、国内避難民の実態などを伝えている。
 しかしそうした状況に対しても、日本政府に言わせれば「南スーダンで武力紛争が発生しているとは考えていない」の一点張りだ。ゆえに紛争当事者間の停戦合意は要らず、南スーダン政府の受け入れ合意さえあれば自衛隊は派兵できるし、そもそも「国家または国家に準ずる組織」が敵対するものとして登場することはないので(暴力団のような組織だと日本がみなせば)、たとえ自衛隊が武器を使用してもそれは武力行使にはあたらないと。「PKO五原則」の成り立つ前提すら崩壊している場所に、自衛隊駐留は強行されつづけ、さらにはより武装強化した自衛隊を投入しようとする政府の詐術・居直り。日本が戦争法制で拡大しようとしているPKO派兵は、混乱をさらに煽りつつそれを利用し、派兵国家化・明文改憲の跳躍台にしようとするものである。「殺し・殺される」状況をつくりだすのは日本の、自衛隊の側なのだ。

「国際貢献」の仮装

 しかし、とりわけ若い世代にとっては、自衛隊=「国際貢献」というイメージの刷り込みが強く、「PKOには参加すべきだが、武力行使には歯止めをかけるべきだ」という論になりやすい。まさにそうした「論理」で一九九二年、誕生を許したPKO法が、政府お得意の「小さく産んで大きく育てる」式に、二四年をかけて政府・独占の期待にかなり応えうるものに育てられた。弱肉強食の国内政策をエスカレートさせつづけている日本政府が、「国際貢献」だけは真面目にやると思うほうに無理があるが、それだけ「錦の御旗」の威光は強く、マスメディアも一体的に「国際貢献論」を根付かせることにかなりの程度成功してきた。「国際社会の一員」という仮装の下で、派兵を通じた自衛隊の実戦的軍隊化、石油や金属等天然資源の安定的確保――経済支配の枠組みの確立という、政府・独占の利害が貫かれてきた。

TICAD、ジブチ基地との連動

 そうした構造が、今回の南スーダンPKOでも政府の対アフリカ戦略と連動して露骨にあらわれている。すでに進出をすすめる中国への対抗意識をむき出しにしつつ、日本主導でアフリカの「発展」と「安定」のために官民挙げて取り組むというTICAD(アフリカ開発会議)。それは経済と「安全保障」をリンクさせつつ展開させる新たな外交戦略だ。一九九三年から五年ごとに日本で開催されてきた。六回目の今年は、八月二十七~二十八日にケニアで開かれた。今後三年間で民間資金を含め総額三兆円規模でアフリカに投資するという。そこでは、インフラ、工業、農業、流通、金融、人材育成などあらゆる分野への資本進出が目論まれている。
 なかでも、南スーダンをはじめウガンダ、ルワンダ、ケニア、タンザニアなどのアフリカ東部一帯および東アフリカ深海では石油・天然ガスが、アフリカ南部一帯ではレアアースやウランなど金属資源が続々と発見されている。そうした資源やビジネスに群がり、ひとつでも多く貪り喰おうというのが、TICADの真の目的だ。それは日本国内の産業空洞化を助長し、非正規労働者を大量につくりだす新自由主義経済政策と表裏の関係にあると言ってよい。
 そうした企業進出と並行して二〇一一年、ジブチ共和国に自衛隊の海外基地が建設された。「海賊対策」を名目に、海賊対処法なる恒久法にもとづく「撤退期限」の存在しない敗戦後初の本格的な海外基地である(自衛隊が海外に施設を設置した例としては、二〇〇四年一月から〇六年七月までの陸上自衛隊のイラク・サマーワ宿営地があるが、時限立法のイラク特措法に基づく一時的なものであった)。
 派兵の主目的は、日本関係船舶(日本籍船および日本の事業者が運航する外国籍船)一六〇〇隻に対する護衛という財界の要請に応えることであり、日本企業の海外進出・経済活動そのものを、軍事力によって防護する既成事実が積み重ねられてきたのである。
 それは敗戦後一貫して日本政府・独占が追求してきた政策だ。そして、今後も拡大するであろう資本進出のため、アフリカ大陸から中東全域を睨んだ軍事拠点としての位置づけがジブチ基地にはある。そうした動きと連動した軍事戦略の一環として南スーダンPKOはあるがゆえに、なりふり構わぬ駐留継続と武装強化がねらわれているのだ。【米丸かさね】

(『思想運動』987号 2016年9月15日号)